第10話 理加編(10)
スローモーションのようにルイの顔にソースが垂れ流れていく。
そのまま首筋をたどり服に染み込んでいく。
なにが起きたのか理解できないまま、その光景が流れていく。
あきらかにわざとである。
ルイの顔つきが険しく変わっていくのがはっきりと分かった。
「そんなルール、僕初めて聞いたけど。」
真樹斗くんの言葉に、今まで見せたことのないような目で、にらみながらもルイの口は、かたくなに閉じたままである。
今、私に出来ること。
今、私に出来ること・・・。
ゆっくり自分に言い聞かす。
ティッシュペーパー そうティッシュペーパー・・・・。
とにかく床にまで垂れていくソースを拭かなくては。
すぐ近くにティッシュペーパーが見あたらないよ。
辺りを見回すとキッチンペーパーがある。
「あの、キッチンペーパー使いますね。」
二人の返事のないまま、私は、キッチンペーパーを手に取って数枚をルイに手渡した。
「顔、拭かないと・・・。」
私の言葉にようやく気づいたのか、ルイの顔が、いつもの顔に戻っているように見えた。
「ありがとう、びっくりさせたわね。」
キッチンペーパーを受け取ると髪から、したたり落ちるソースを拭きはじめた。
怒らないの・・・。
「ごめんなさいね。ちょっとシャワー浴びたいから悪いけど少しだけ待っていて、
車で送るからお願いね。」
「私、電車で帰るので大丈夫です。それより早くシャワーを浴びて下さい。」
「送るからお願い。」
そう言うと再度、私の返事を聞かないまま席を離れようとした。
「ねえ。なんで僕のことを無視するの。」
ソースの空瓶を握りしめた真樹斗くんの問いかけにルイは、無視したままシャワールームへと歩き出した。
「るいるい 覚悟きめなよ。」
真樹斗くんの声だけがキッチンルームに響いて扉が閉まった。
ただ時間だけが過ぎていく。
二人だけのキッチンルームは気まずいけれど今は、床に落ちたソースを拭くことに意識を集中させないと。
「お姉ちゃんもなんで僕がこんなことをしたのか聞かないの?」
寂しげな真樹斗くんの声に私は何て答えればいいのか迷った。
これが、弟の匠ならきっと、どうして、なんでと問い詰めているに違いない。
でも、ルイが答えないことを私が聞いていいのだろうか。
「お姉さんがシャワーから戻るまでに床のソース掃除しましょう。
床ふきんかウエットティッシュがあればお願い。」
私は、はぐらかしたまま真樹斗くんからウエットティッシュを受け取ると二人で床を拭いた。
ソースはルイが歩いて行った廊下向こうまで点々と続いていた。
さすがに扉を開けて廊下向こうまで拭くのは、まずいので、この先は真樹斗くんにまかせようかと顔を床からあげた瞬間ぐらいに廊下を行ったり来たりする足音が聞こえてきた。
真樹斗くんに会うのが気まずいのだと思う。
しばらくすると足音が止まった。
そして、ようやく扉が開けられた。
「えっ・・・・・。」
その衝撃は息を忘れてしまうほどのものだった。
私の目の前には、スーツ姿の金髪男性が立っていた。
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