第2話 理加編(2)
鯖の頭は彼女が純白のエプロンで受け止めてくれていた。
「床に落ちなくてよかったわね。」
怒るどころか、すこし笑って優しく言ってくれる。
「ごめんなさい。あのクリーニング代じゃなくてエプロン、弁償します。」
「別にいいわよ。エプロンは汚れるものだし、それよりあなた魚をさばくの初めてかしら。耳が赤いわよ。」
あー あー 今すぐ地球の裏側まで逃げていきたい気持ちでいっぱいのまま、
その日の料理教室は幕を閉じた。
次週の料理教室は、何度休もうかと思ったけれど、彼女にきちんとお詫びしなければいけない。
会社を定時に終えると、料理教室までの時間、急いで中丸百貨店まで足をはこび、
彼女に似合うだろう、レースのハンカチを購入すると、その足で料理教室に向かった。
「ありがとう。」
彼女があっさりと受け取ってくれたおかげで、少し心が軽くなって嬉しかった。
料理教室が終わり帰るしたくをしていると、彼女が声をかけてきた。
「ねえ あのハンカチ いつ購入したの?」
「今日、ここに来る前に購入しました。」
「包み紙からして中丸百貨店よね。」
「えっ はいそうですけど・・・。」
「まだ間に合うから一緒に来てちょうだい。」
彼女に言われるがまま、私は中丸百貨店まで戻るはめになってしまったのだ。
閉店時間まで、まだ余裕があったけれど二人で飛び込むように入店すると、
「レシート出して。」
私は慌ててカバンの中を探しまわした。
2時間半前にはきれいだったレシートは、ヨレヨレになって出てきた。
まさか 、まさか 神様、違うよね。
私の心の願いとは別に彼女はレシートを受け取ると、すぐにハンカチ売り場の店員をつかまえてレシートを見せている。
プレゼントした本人を目の前に、ハンカチを返品してる光景が脳裏に焼き付いた。
どうやら、返品できたようだった。
「ねえ 早くここに来て。」
彼女が笑顔で私を呼んでいる。
「私、グリーンが好きなの。あなたは?」
突然の質問にとっさに黄色だと答えてしまう私のバカ
「イエローね。うーんそうね。これがいいかしら。」
彼女が何枚かのハンカチを手に取るとレジの方へと行ってしまった。
再び笑顔で私の前に現れた彼女は、包み紙を渡してくれた。
「あのレースのハンカチ、私の好みじゃないの。二枚、色違いのハンカチに交換してもらったから。この一枚は、あなたの分ね。」
「ありがとうございます。」
あれ、元は私のお金で購入したのになんで嬉しい気持ちになるんだろう。
気づけば、純白のエプロンを汚した罪悪感が、消えているように感じた。
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