第3話 理加編(3)

「まだ、このあと時間あるかしら。駅も近いしちょっと付き合って」

彼女の誘いに断る理由もなく、そのままカフェに入った。

夜の七時以降はコーヒーは飲まないと決めているけれど、その日は、彼女が注文する流れのままコーヒーを飲んでいる。

彼女のお気に入りのカフェらしい。

初めてとは思えない居心地の良さに私もすぐに気に入った。


「あらためて自己紹介するわ。私は江崎ルイ 二十九歳 よろしくね。」

目線をそらさずに笑顔を向けられると、慣れていないせいかドキドキしてしまう。

「私は、宮田理加です。二十四歳です。こちらこそよろしくお願いします。」

「理加ちゃんね。いい名前だわ。私のことはルイて呼んでちょうだいね。」

「いきなり呼び捨ては、さすがに無理かと・・・。」


「理加」

合図するかのように彼女の視線が促している。


「絶対に言わなくてはだめですか?」

「うん」

もうしょうがない

「ルイ」

「うん、何かしら」

「えっ何って自分で言わせておいて」

「ほら笑った理加は、一段と美人よ。」

超美人なルイに言われると喜んでいいものかと、ちょっと複雑な気持ちになるのは 世の中、私だけではないと思う。

「理加は、いつまで料理教室に通うのかしら?」

やっぱり鯖の一件がまずかったんだろうか。

「私はね、今月末だから、あと三回通ったら辞めるの。」

「あの私は、もう少しつづけようかと思っています。まだ四か月しか通っていませんし。何も習得してないというか・・・。」

「確かに、まだまだ通ったほうが良さそうね。特に魚は習得すべきね。」

痛いところを突かれたけれど、まさにその通りで言い返す言葉が見つからない。

ルイは笑っている。


そうだ、聞かなければと気になっていたことがあったんだ。

「あの純白のエプロン、今日の料理教室の時、完全に汚れが取れて真っ白だったのでクリーニングに出されたんですよね。もちろんクリーニング代をお支払いします。」

少しルイの唇が戸惑ったように動いたのは気のせいだろうか。

コーヒーカップから唇を離すと今度は、はっきりと動いた。

「あのエプロンは、もう捨てたのよ。同じエプロンをたくさん持っているから気にしなくていいわよ。」

「でもやっぱり弁償を・・・。」

「もう、その話はこれで終わりにしましょう。」

私の言葉を遮るかのようにルイは話題をすりかえた。

こないだ観た映画は寝落ちをしてしまって結末をまだ知らないとか、どんな服や靴が好きだとか、女子トーク全開でとても楽しかった。


「やだ、もうこんな時間だわ。理加、電車でしょ。」

私たちは、二時間近くトークしていたのだ。

時間が過ぎるのが早いとは、まさしくこのことかもしれない。

そんな驚きを隠しながら私は、帰路についた。



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