最終話「いつか僕は旅に出る」
1.情報の海の中で
SNSにメッセージを投稿して、はや数日。
新しく作ったアカウントということもあってか、最初の数日くらいは、僕の投稿が拡散されることは殆どなかった。変化があったのは、四日目くらいのことだ。
人探しや迷子のペット探しの情報を拡散しているアカウントを片っ端からフォローして回ったことが功を奏したのか、僕の投稿は爆発的に拡散され始めた。
僕は思わず「やった!」とパソコンの前でガッツポーズするほど喜んだけれども……それも束の間。そこからは地獄の日々が始まった。
拡散された投稿には、様々な
最初の内は「頑張って」「叔父さんの情報が見つかるといいですね」という励ましの言葉が多かったんだけど……次第に意味のない返信やおかしな画像を送りつけてくる輩が増えてきた。
ダイレクトメッセージも頻繁に送られてくるようになったけど、その殆どは明らかにイタズラと思しき、怪しいWebサイトへの誘導や怪文書ばかり。
日本語・英語・フランス語で送られてくるそれらを見ながら、「こういうイタズラは万国共通なんだな」と呆れ果ててしまった。
――それでも、そんなイタズラばかりのメッセージの中に本物があるのではないか? 僕はそう信じ続けて、寄せられたメッセージを一つずつ慎重に確認していった。
これが案外と骨の折れる作業で、毎晩毎晩、パソコンの画面とにらめっこする日々が続いた。
日本語と英語はともかく、フランス語や他の言語はネット上の翻訳サービスに頼るしかない。機械翻訳によって生み出された奇々怪々な日本語を読み解く作業は、段々と僕の精神をすり減らしていった。
特に僕を困らせたのは、度々送られてくる中国語のメッセージだった。
漢字で書いてあるのでなんとなく意味が分かる……かと思いきや、ネット翻訳にかけると意味不明な言葉にしかならない。それでも根気強く読み解いていくと、どれも「こんなことは無駄だからやめろ」「投稿を消せ」と言ったような嫌がらせのメッセージばかりで、徒労感ばかりが募っていった。
そんなある日のことだ。
いつも通りに夜更かししながらSNS上の反応をチェックしていると、不意に一通のダイレクトメッセージが届いた。
「やれやれ、またイタズラかな?」なんて思いながらメッセージを開いた瞬間、僕は我知らず「あっ!」と大きな声を上げてしまっていた。
英語で書かれたそのメッセージには、一枚の画像が添付されていたのだ。
どこかの街で撮影されたらしい、一枚の写真。そこに写っているのは、紛れもなく若い時の叔父さんの姿。しかも、僕が見たことのない写真だった。
「遂に手がかりを見つけた!」と、僕は思わず色めき立ったけれども……同時に少し冷めた気分でその写真を見てもいた。
最近は、素人であっても精巧な偽写真を作れるのだという。だから、この写真もその類のものではないか、と疑ったのだ。
ここ数日でさんざん偽の情報を掴まされていたこともあって、僕は少し慎重になっていた。
とは言え、画像のプロでもない僕には、精巧な偽写真を見破る眼力なんてない。
まずはメッセージを送ってきた人の素性を確認するべきだろう。
そう考え、僕はメッセージの内容を吟味し始めた。
文面はなんてことないものだった。
『あなたの叔父さんの知人です。彼が亡くなったという事実に、ショックを受けています。まずは彼の安らかな眠りを祈らせてください。
……さて、あなたの叔父さんのことを知っている人を探しているとのこと、私なら役に立てるかもしれません』
……この内容だけだと信用できる人物なのかそうでないのか、全く判断がつかない。
SNSのアカウント名は、意味不明なアルファベットの羅列だ。きっと自動生成したものだろう。
表示名は……どうやらフランス語らしい。翻訳してみると「猫の舌」と出た。どういう意味だろう?
信用していいのか微妙なラインだ。返信してみた方がいいだろうか? ――等と僕が悩んでいると、先方から追加のメッセージが届いた。
『ごめんなさい。先程のメッセージだけじゃ信用出来ないよね?
実は、あなたが投稿した写真に、私も写っているの。
私の名前はエリザベート・デュボア。あなたの叔父さんからはエリーズと呼ばれていたわ――』
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