貴方は魔王ですか?いいえ私は勇者です~魔王やめて勇者になります~

烏丸 ノート

勇者

勇者への道-①

 コン、コン


 何故かトイレに入る時のノックの回数をされた。

 動揺しながらも『入れ』と、鉄扉の向こうにいる者に言う。

 俺が声をかけた数秒後にギィイと鈍い音を立ててドアが開いた。


「失礼します魔王様」

「失礼するのはいいのだがノック二回だとトイレになるぞ……」

「…………シリマセン、それより魔王様、城の門前に約三千の帝国軍が来ております」


 しり、知りませんって、もういいや…。


「そ、そうか。三千の帝国軍か、勇者は何人だ?」

「はい、探知スキルによりますと、約千人ほど…でしょうか…」

「ふむ、勇者が千とその他は軍の雇われ兵士か」

「いえ、勇者千人中三百が聖騎士ですが、問題ないでしょうか?」


 二千の兵士に、七百の勇者、三百の聖騎士……か


「愚問だな、エキドナよ」


 俺はエキドナの質問に苦笑した。

 その様子と言葉を聞いてエキドナは『そうでございますね』と不敵な笑みを浮かべた。

 俺は椅子から立ち上がり、門前の上空へエキドナと共に転移した。


「魔王様、この人数だと聖騎士、勇者全ては無理かも知れませんが、その他は私の魔法で一網打尽に出来ますが…」

「いいや、俺がやろう、今一度人間に教えてやろう、魔法の恐怖を!魔王の恐ろしさを!死へ向かうことへの恐ろしさを!!」



 そう思っていた時期が、私にもありました。

 今思えばあの大戦以来勇者は疎か帝国の雇われ兵士までもが来なくなった。

 最後に戦ったのは……二百年前、この大戦に参加していた一人の聖騎士だ。

 こやつ一人でも俺に挑みに来てたのに何故帝国軍は動かないんだ、もっと彼をリスペクトしたまえ。

 と、そう思う。

 ほんとに誰も来なくなりすることが無くなった俺は、いいことを思いついた。というのが現状である。

 丁度部屋にエキドナがいたのでその提案をエキドナに話してみた。


「エキドナよ」

「はい、なんでしょうか魔王様」

「最近って言うかここ数百年暇だよね」

「えぇ、まぁ。勇者はおろか、帝国軍も来ないですからね」


 手を顎に持っていき考えるように頷いた。

 案の定暇だった。俺はエキドナが暇だと確認し、俺の考えを述べた。


から一緒に来ない?てか来い♪」

「…………は?」


 数秒固まった後、裏声なのか今まで聞いたことのない『は?』を言った。


「えーと、魔王様?変なご冗談はお辞めになってください」


 エキドナは顔を片手で覆って『冗談だよな?』と言った感じで俺の発言を冗談扱いした。

 無論、冗談などではなく俺は本気で言っている。

 焦りすぎたせいか、手をふにゃふにゃ揺らしながらこちらへ接近してくる。


「魔王様、嘘と、嘘と言ってください…嘘とおお」


 手をふにゃふにゃさせた次は、俺の体にへばりつき涙目でこちらを見て、『嘘なんだよね?』と訴えかけてくる。

 しかし俺のなかでは決まっている。

 泣きついてくるエキドナを引き剥がし、俺は宣言する。


「悪いな、俺は勇者になり、邪悪な魔王を倒すんだ、そして……」


 俺は拳を握りしめ、強くその思いを胸に刻みこみ、王間に響く声で言った。


「そして民達に平和をもたらしてみせる!」


 ──決まった…。

 エキドナは沈黙し顔を伏せていた。

 今まで悪事しかしてこなかったんだもんな…それが善へと変わるんだ!そりゃなにも言えないほど感動するさ!


 一分近く経過しただろうか。

 エキドナはようやく顔を上げ、俺を睨みながらこちらに向かって手をかざした。


 ──そして、俺の言葉を遮るように、エキドナは叫ぶ。


「この、バカ魔王おぉぉぉぉお!」


 エキドナの怒号と共に放たれた炎によって王間が爆発した。


 ──どうやら、俺の勇者への第一歩はまだ少し先のようです……

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

貴方は魔王ですか?いいえ私は勇者です~魔王やめて勇者になります~ 烏丸 ノート @oishiishoyu

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ