500字雑記

藤田大腸

第1話 道徳の教科書で

 私が使っていた道徳の教科書にこんな話があった。


 武士の世が終わって、福沢諭吉が世の中がちゃんと変わったか確かめるためにとある農村に行った。そこで諭吉はまず農夫に偉そうな武家言葉で道を尋ねると、農夫はへこへこしながら道順を詳しく答える。


 しばらくしてからまた同じ農夫のところに行って、今度は平民の言葉で下手に出て同じく道を尋ねた。すると農夫はあごでしゃくって「ずっとあっちじゃ」と横柄な態度で返した。そんなオチで終わっていた。


 これは道徳と言うよりはジョーク的な話に近いのだが、元ネタは何だろうと思って探してみたら『福翁自伝』という本で、諭吉自身が実際に実験したことを記していたようだ。相手の態度によって自分の態度を変えることに対する戒めとしてこのエピソードが選ばれたのだと思われる。


 だが人間は悲しいかな、それなりの地位のある人間に偉そうな態度に出られるとやはりペコペコしてしまう。とりわけ会社みたいな組織に属していると尚更のことだ。そこではどの立場の相手だろうが言うべきことは言い平等に接することができる者は少ないし、それでいて頭が切れて行動力もあるならば組織を担う理想的なリーダー像と言えるだろう。

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