第67話 邪神、大橋先生

「邪神と呼ばないで! 私の中にいる彼は渡鴉神わたりがらすのかみ。正真正銘の神様だったのよ!」


 女性教師は赤鬼に向かって抗議した。


「其奴が神であったのは昔の話。現在は邪神となり、其方に取り憑いたのであろう?」

「とと……取り憑いたなんて人聞きの悪いこと言わないで! 私は彼と自ら望んで一緒になったのよ。それは熱烈な恋の末に……うふっ!」


 女性教師は頬を赤らめ、身悶えた。

 赤鬼はその様子をじっと見上げていた。

 庸平は佳乃と智恵子に目配せして、そうっと自転車を押して行こうとする。


「ちょっと待ちなさい!」


 案の定、ストップがかかった。

 庸平はため息を吐き、


「先生は赤鬼を見ても驚かないんですね。邪神だからですか?」

「だから邪神て呼ばないで! そうね、あなたには話しておいた方が良いことかもしれないわね。陰陽師の少年君!」


 その言葉を聞いた庸平はハンドルから手を離し、後ろポケットに手を入れる。

 自転車は転倒し、赤鬼は地面に着地する。

 霊符を指に挟んで身構える庸平。

 女性教師は不敵な笑みを浮かべ、両手を広げた。

 まるで翼のように。


「あなた、生意気な子ね。彼女の前で格好つけているだけかしら? ねえ、どっちがあなたの彼女なの?」


 ふふんと笑う女性教師。

 佳乃は顔を真っ赤にし、それを智恵子がジト目で見ている。


「そそ、そ、そんなことあんたには関係ないだろ!」


「先生と呼びなさい! 私は大橋恵美子、1年1組の担任であり全学年の音楽を担当する先生よ! ……まあいいわ。二股君……いえ、陰陽師君には個別に話があるから」

「あの……俺は豊田庸平、3年です。たしかに陰陽師をやっていますが……」

「あら失礼。では豊田君はこの後ちょっとここに残っていてね。彼女さん達は先に図書室へ行ってもらえるかしら。3年生の皆さんの集合場所になっているの」


 大橋先生が佳乃たちに声をかけると、真っ赤な顔とジト目の二人は自転車置き場に向かって去って行く。


「さて、どこから話そうかしら……」


 振り向いた大橋先生の表情から笑顔が消えていた。 

 


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