第63話 来訪者は突然に

 玄関のチャイムが鳴った――


「ん? また庸平の彼女が来たのか?」

「いや、長谷川は彼女じゃないって説明したよね!」


 庸平が立とうとすると、銀髪少女の姿の白蛇が先に立ち上がる。


わらわが行ってくるぞ。あるじ様はゆっくり食べているが良い」

「そうか、悪いな白蛇」

「よいよい。主に仕える者としてこのぐらいのことはするのじゃ!」


 ぴゅうーっと一目散に廊下へ出ていく銀髪少女。

 居間に残された父と庸平は、ちゃぶ台を囲んで黙々と飯を食う。

 

 食わなくても済むなんて言っていたけれど……

 けっこう腹が減っていたんじゃないのか? あいつ……


 庸平はすっかり空になっていた白蛇の茶碗を見ながら思った。


 しばらくして、白蛇が戻って来て――


「主様に客人じゃ。小太りの男じゃったぞ?」

「小太りの男?」

「主様の友達じゃろう」

「俺に男の友達などいないぞ」


 父が茶を口から噴き出した。

 父の哀れみるような視線を無視し、庸平は茶をすする。


「主様と同年代で見知った仲のようじゃったがな。友達ではなかったか……」

「まあいい、行ってみれば分かることだ」

「すまぬ……妾は役立たずじゃった……」


 しょぼんとなった白蛇の銀髪にポンと手を置いて、庸平は玄関へ向かう。

 その後ろをちょこちょこと付いていく白蛇。


 玄関の引き戸を開けると、


「よ、よう……」


 目付きの鋭い小太りの男。吉岡勇気が立っていた。


「よ、吉岡……俺の家に何の用事だ!?」


 庸平は身構える。

 主人の反応から吉岡を敵と察した白蛇はシャーッと牙を剥く。


「やめろ白蛇! こいつは一応人間だ、魔物ではない!」

「一応とは何だ! それにしてもこの子は……おまえの妹か?」

「いもうと――!?」

「うほ――っ!!」


 庸平の叫び声と同時に白蛇が妙な奇声をあげた。

 そして庸平の腕をとり、


「お兄様ぁー! この男前の殿方はどなたなのです?」


 着物の下にはたしかな胸の膨らみがあった。

 無邪気な表情の下から見え隠れする白蛇の魂胆。

 彼女は庸平をからかっているのか。

 それとも妹と言われて単純に喜んでいるだけなのか。


「いや、そんな訳はないか。この村に兄弟姉妹は存在しないからな……」


 吉岡は自ら銀髪少女妹説を取り下げた。


「兄弟姉妹が存在しないって、どういうことだ?」


「最弱おまえ、まだ気付いていなかったのか。この村に関わる家には1人の子供しか生まれないんだ。つまり、全員が一人っ子だ」


「そう……なのか?」


 庸平はこの春に父と共にこの家に引っ越してきた。

 交友関係が極端に狭い彼には知る由もなかったことではあるが……


 そんなことよりも彼には差し迫った疑問があった。


「で、俺に何の用?」


 ようやく本題に戻った。

 吉岡は腕を組んだまましばらく考え事をしていた。


 そして――


「最弱! オレは何をしにここに来たんだろうか?」

「はあ――っ?」


 予想もしない答えが返ってきた。

 

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