第7話
普段なら終業のベルが鳴ってもしばらくだらだらとおしゃべりを続ける教授が、今日はベルの三十分以上早くに、そそくさと教室を後にした。
なにか口の中でぶつぶつ言いながら。
恒例の昼食会にも犬田はついて来た。
毎回ついて来るのだが、当然のことながら今日は今までと状況が変わった。
食堂に入った時点で犬田は周りの注目を一身に浴び、みなが犬田の顔を、口を半開きにしたままで見ていた。
全員が注文をし、それぞれが食べ始めても、犬田は何も注文しなかった。
習慣からかコップは手にしたが、それに水も入れずに席に着いた。
そして空のコップに口につけ、水を呑んでいるような動作をしばらく続けた後、そのコップを置いた。
その後は何もしゃべらず、ただ一点を見つめるだけで、全く動くことはなかった。
その視線の方向に陣取っていたグループは、しばらくの間犬田を見ていたが、やがて逃げるように席を移動していった。
グループが移動しても犬田は視点を変えなかったので、そのグループを見ていたわけではなく、ただ目が開いていて視線がそちらに向いていただけのようだ。
毎度馬鹿話、特に教授の悪口で盛り上がる昼食会なのだが、今日ばかりは誰も口を開かず、ただ腹を満たすだけの集まりとなっていた。
いつもなら昼休みが終わりに近づいた午後の授業開始前に五人が席を立つのだが、今日は食べ終えた順に、黙って食堂を出て行った。
四人が出てゆき、上条、木本、桜井、犬田が残された。
犬田は午後一の授業があるはずなのだが、そのまま居座り続けている。
「もう、あの教授たらよう、いつも以上にわけわかんなかったぜ」
「そうだな」
「……」
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