第6話
注目の中、上条が聞いた。
「おい、大丈夫か?」
犬田は上条を見た。
いや方向としては上条のほうを向いているのだが、目の焦点は上条には合っていなかった。
「今日は寒いな」
犬田が言った。
今までに聞いたことのある犬田の声とは、まるで別物だった。
完全に上の空のまましゃべっており、その上にしゃがれ、枯れていて、生気がなく極めて聞き取りにくい声だ。
それに今日は六月にしては熱く、今朝の天気予報では七月中旬の気候、とか言っていた。
寒いなんてことがあるはずもないのだが。
そして声以上に問題なのは、その容姿だ。
なにせ見た目がもろに、死体、なのだから。
教授もわかりやすい驚愕の表情で犬田を見ていたが、やがて搾り出すように言った。
「そ、それでは授業を始める」
授業はいつも通りには進まなかった。
教授はかみまくり、間違いまくってただでさえ困難な講義内容が、よけいに理解不能なものに変貌していた。
人数が少ないせいで、狭い教室の前半分に集まって授業をしているために、もともと教授と生徒の距離が近い。
それなのに、いつもは定位置のように端に座っている犬田が、教授のまん前に陣取り、死んだ目でずっと教授を凝視続けていたのだから。
平常心でいられるほうが、どうかしているくらいだ。
教授の額から流れ落ちる汗は、けっして季節はずれの暑さのせいばかりではないだろう。
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