第210話乾杯

「では、ウチの勝利を祈り、乾杯や」


6つのグラスが当たり、パーンと音を響かせる。


「これでやっと自由やな。ほんと毒親やで」


そういったサラさんは、グラスを傾けてジュースを飲んだ。


「勝利のあとの一杯は格別や。まさに神の味やで」


何故か多神教のような言い方をしだす。


「でも本当によかったんですか?」


横にいる親友に対し、先輩が心配したような声で言った。


「もちろんやで。話して分かり合える関係やないんや」


「そう言われたら仕方ないような気もしますが……」


先輩はあまり納得していないようである。


「わたくしは修行のために親元を離れて生活しているので、母親とはあまり会えていません。幼少期は籠の鳥のような扱いもされました。しかし、母親と不仲というわけではありませんね」


「だからこそ俺と出会えたんだったっけな」


あまり覚えていなかったのだが、幼少の俺が忍び込んでいた神社から、マイシスターは出させてもらえなかったらしい。


もちろん外部から守るためなのだが、「高貴な血を受け継いでいる」というしきたりもあったとか。


「桜子ちゃん。アンタも苦労してるな」


やはり楽しそうに言う。


「私の場合特定の個人が親というわけではないのだが。だとしても、大事な妹たちとの関係が切れることは、考えられないな」


「よくわからんが、苦労してるということやろうか?」


おそらくこにいる中で最も苦労してるサーシャである。


サラさんにも予想がつかないのだろう。


「ボクの場合、嫌々ではないけど合わせているよ。母親や祖母が嫌いなわけではないけどね」


俺に腕を組んだままのオリヴィアが、少し嫌そうに言う。


「アンタのことはちょい聞かせてもらったで。この前、ヴァルキュリアちゃんとお話したからな」


「アイツ等、他人の秘密をべらべらと」


オリヴィアは俺と組んでいないほうの手で、机をたたいた。


サラさんが言う相手は、御三家最後の一角の令嬢である。


状況に合わせて様々な魔法を使うことができるらしく、家を継ぐのを確実視されているとか。


「いや、なんか秘密があるらしいということしか聞いてないで。アイツ等もよく知らんのやろう」


「それならいいんだけど」


俺の自称嫁は安堵したような声を出す。


「まあ、これからも住ませてもらうから、よろしく頼むで」


そう言って彼女は、グラスに残っていたジュースを一気に飲み干した。

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