第205話嫉妬

「おい、お前はどうやってこの美少女の中に紛れたんだ?」


段ボールを片付けていた俺の前に来てそういったのは、どう見てもオタクの青年。


小声で「弱みを握ったのか?」と付け加えられた。


「たまたま知り合いだっただけで、気がついたときにはサークルに参加することになっていただけです」


ウソではないし、おおむね正しいだろう。


「本当か? 弱みがあるなら、俺にも教えてくれ。雑用だろうがなんでもやるぞ」


彼はそう言ったが、もちろんそんなものはない。


「嫉妬や憎しみという気持ちを、今理解できた」


「ああ。リア充って連中は何も思わなかったが、あいつは別格だ」


「憎い。だが、成功の秘訣があるなら教えてほしい」


彼以外にも、何人かに嫉妬の念を送られる。


「ははは」


気がつかないフリをしたが、俺の胃は痛んだ。




「もうじき完売やな」


「思ったよりも売れましたね」


売り子を休んでいるサラさんとともに、行列を見ながらつぶやく。


ほとんどの人が、内容ではなく女の子目当てで、集まっていたと思うが。


きっと、ネットでは同人誌よりも、美少女(+俺)サークルで語られるのだろうな。


がんばって創作したんだから、できれば読んでほしい。


「ウチはな、こうやって挑戦できるだけで、よかったんやで」


「どういうこと?」


いきなり何を言い出すのか?


「昔はおかんの言うように、錬金術の勉強ばかりやっていたで。それでも不満をもったりはしなかったんや」


「それで?」


「でもな、そんな日々に疑問を抱いたんや。人間、生まれで人生が決まるもんやないやろ? 少なくとも、ウチはそう信じたから今こうしているんや。でも。おかんはそう思わん」


「ようは、母親に無理やり連れ戻されると」


ワンマンだというしな。


「そうや。これが最初で最後のチャンスだったかもしれへん。でもな、何もしないよりは、数段いいと思ったんやで」


サラさんの気持ちはよく伝わってきた。


俺もろくでなしの父親から生まれたわけだが、それだけで人生が決まったわけでもないし。


そうやって話をしている俺たちの前で、最後の1冊が売られた。


「完売や。みんなありがとうな」

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