第201話準備

イベントの開始の合図とともに、参加者が一斉に駆け出した。


彼らが目指すのは弱小の我がサークルではなく、大手の方であろう。


一応ツイッターを作って宣伝したりもしたが、知名度などほぼないはず。


会場に響く足音を聞きながら、俺はそんなことを考える。


「ボケっとしてないで、準備してくれや」


いまだに関西弁をしゃべり続けるサラさんせかされ、自分の仕事を確認する。


売り子は女の子5人が務めるため、俺はその補助。


同人誌の在庫数を確認したり、段ボールから取り出したりする役目だ。


いわば、雑用係のようなもの。


「もうそろそろお客さんは来るでしょうね。今一度言わせてもらいますが、私の友人のが迷惑をかけてすいません。そして、手伝ってくれてありがとうございます」


爆乳を揺らして、よしか先輩が頭を下げた。


先輩が着てるのは、フワっとした印象を与える赤いチェックの売り子服である。


「いいですよ。わたくし自身で決めたことですからね」


清楚なイメージを与えるため、真っ白な売り子服の桜子が答えた。


「ボクもかまわないよ。何回も言ってるけど、アイツ等の足を引っ張るためだし」


当日になっても、御三家最後の一角の話は出るんだな。


「そう言ってくれるとありがたいで。もしも完売しなくても、ウチは後悔しない。今日という日を誇りに思う」


くすんだ金髪の魔女は、胸を張ってそういった。


「まだ負けると決まったわけではないですし。できれば私もサラには望まない結婚をしてほしくないんです」


望まない婚約をしちゃった先輩が、こんなことを言う。


一応俺の借金のせいでもあるわけだし、感謝しておこう。


そんなこんなをしてしばらく経過したが、やってくるお客さんはまばらであった。


たまに同人誌が売れるか、美少女を見る目的で近づいてくるヤツが大半。


早くも不穏な空気である。


「ほかは行列ができているのになあ」


やはり、事前の宣伝で知名度を稼げないのが悪いのか?


そんなときである。


思いもよらない事態に進展したのは。

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