第78話カギ
「お前も出て行ってくれないか?」
というか、手錠を外してくれ。
「分かりましたよ。本当はずっとこのままがいいのですけど。お兄様が言うなら」
「そうしてくれ」
妹と一生くっつく兄に、なりたくないもの。
「あら? カギはどこへ行ったのでしょう? 見当たりませんね」
「おい、ちゃんと探してくれ」
シスコンすぎて、手錠付けちゃった兄は嫌だぞ。
「ないなら仕方ないですね。お兄様にご迷惑をおかけするのは心苦しいのですが、ずっとこのままということでいいでしょうか?」
「よくないわ」
俺はどんだけ妹を愛してる兄にされるんだよ。
「俺も探す。ふとんをどけよう」
手錠のせいで動きにくい。
よろけそうになるが、何とか足と左手でバランスをとる。
「危ない。妹を押し倒す、鬼畜兄になるところだった」
「いつでもなってくださっていいですよ」
小声でそんなことが聞こえた気がするが、きっと気のせいだろう。
「どこだ?」
ベッドの上じゃないのか?
「桜子、寝る前にカギをどこに置いた?」
というか、何故つけた?
「どこでしたか? このままお兄様との縁が切れなくてもいいと思ったので、遠くに置いたのかもしれませんわ」
「遠くか」
でも、この部屋にあるはず。
「ベッドから下りるぞ」
床にあるのかも。
手錠でつながってるので、ゆっくり移動。
「お兄様、バランスが……」
そう言いながら、マイシスターがわざとらしくしがみついてくる。
この基地のエースなら、お前は運動神経がいいんじゃないのか?
「気を付けろよ」
わざとだとは思いながら、桜子の体勢を戻す。
「もっとくっついていたかったのに」
「やめてくれ」
この妹、兄が好きすぎないか?
俺はシスコンではないから困る。
「ベッドの下はないか?」
目を凝らし、暗闇の中を見つめる。
「ないと思います」
他人事みたいに言う妹。
お前が勝手につけたせいだろ。
「ちゃんと探せよ」
「分かりましたわ」
桜子もベッドの下をのぞく。
「やはりないですね」
「そうだな」
桜子の端正な顔がすぐそばまで近づき、思わずドキリとする。
妹でも、オンナノコなんだよな。
手錠のせいで着れないからしかたがないのだが、マイシスターは今でも下着。
それに、この部屋は俺と妹だけ。
それ以外、だーれもいない。
思わず、よこしまな考えが浮かんでしまった。
「だめだ、頭から追い出さないと」
頭を振る。
これなら、本当にシスコン鬼畜兄貴ではないか。
「お兄様? 何をやられているのですか?」
マイシスターが不審な目で見てくるが問題ない。
こいつはただの妹。
あの時代はそう思っていたじゃないか。
とっととカギを見つけ、鬼畜兄になる前に離れないと。
そう思った矢先。
「これがそうなんじゃないか?」
ベッドの足に寄り掛かるように、光る何かを見つけた。
自由な左手を突き入れてつかみ、桜子の前に。
「おそらくこれでしょう。昨日のわたくしは、こんな場所にほうり投げたようです」
「なら、外すぞ」
鬼畜兄になるのは嫌だ。
穴にカギを入れ、ひねる。
カチャリと音がし、鉄の戒めが俺の手から外れた。
「よかった。これで間違いなかったよ」
本当のカギは別の場所にあるという訳でもなかった。
「さあ、出て行ってくれ」
俺は半裸の妹に言う。
「心惜しいですが、退出します」
こうして、俺の部屋に勝手に忍び込んだ上に、兄に手錠までかけちゃう、やんデレなマイシスターは俺の部屋から消えた。
「朝からひどい目にあったな」
この後のを考えると、ひと段落もできない。
「着替えるか」
会議に出るために、服を変える。
それが、次の苦痛を引き起すとしてもだ。
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