第65話一族

桜子と思い出の場所に似せた場所で再会した俺。


とんでもないサプライズではあるが、山陰に来たのは仕事のためであり、思い出話を語るためではない。


「できれば仕事の話をしたいのだけど」


「ですから、さっきから私の個室に来てくれと言っているじゃないですか。朝までゆっくりお話をしましょう」


「それは、俺とだけだよね? 教官と佐伯さんは入れない」


「当り前ですよ。兄と妹の語らいに、部外者が加わる余地などありませんわ」


「部外者じゃないよ。俺たちの身柄を保護してくれている人だ」


「ですが、私たちの語らいには必要ないでしょう」


「仕事の語らいには必要なんだが」


さっきからこんな感じで、まったく進展していない。


今、俺たちがいるのは、この地にあるAF基地。


そこにある、会議室の1つだ。


思い出の場所に似せた神社には部外者の宿泊スペースはないので、こっちに滞在することになったわけである。


部屋に余りがあるようで、一人ずつ小部屋がもらえた。


会議に使われるだろう長方形の机を挟み、俺達4人は向かい合って座っている。


何故か、俺の横が桜子であるのだが。


「この基地の責任者はほかにいないのか?」


「はい、責任者は私だけです」


驚いたことに、司令官は桜子自身であるらしい。


なので、この基地にいるほとんどが桜子の部下なわけか。


「おばあ様が好きにしていいとおっしゃいましたので」


「そいつが一族の代表か?」


「いえ、前代表です。僭越ながら、代表はわたくしが」」


「それなら、桜子を鹿島一族にしたのはそいつ?」


「はい。分家の巫女候補だったわたくしを、本家の養子にしたのがおばあさまです」


「いきなりだったのだろ? 困らなかったの?」


俺のように、たくさんの借金を背負っているならまだしも。


「私も驚きました。一族の傍流で、一応ですが魔女の血を受け継いではいます。おまけのような扱いで受けた適正試験で、高いマナ資質を出してしまうなんて」


「俺みたいだな」


「それでも、自分を変えるいいチャンスだと思って受けました。ひょっとしたら、お兄様の目に留まるかもしれないと思いもしましたし」


「おれの目?」


「はい、ふたたびお兄様にお会いできて、とてもうれしいですわ。お兄様さえいいなら、今すぐにでもわが一族の一員に、なってもらいたいと思っています」


「今はやめておくよ」


できれば、ずっとやめたい。

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