第1章 第11話 決闘
決闘とは何かを説明しなければいけない。
決闘とは、組織や意見が2つに別れた時に行う代表同士の勝負である。勝った方は負けた方に言う事を一つ聞かせることが出来る。なんでもだ。
決闘には審判がおらず、どちらかが降参と言うまで決闘は続く。
例え、どれだけ力の差が歴然であっても。
この決闘によって死者が出たこともある程だ。
そして、決闘を止める事は誰であっても許されない。
これが、決闘である。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
シャルテとの決闘を約束した翌日の正午。村の広間には、村人の9割が詰め寄っていた。全員がシャルテがどの様な魔術を見せてくれるのか見に来ているのだ。
そんな中、
「シャルテ、やめようよ!こんな事したらダメだよ!」
「これは売られた喧嘩よ。あいつをぎゃふんと言わしたら降参勧告するから大丈夫よ、当たっても死なないように威力も弱めにするしね」
「違うよ、そうじゃないよ!もしこれでアレンが降参しなかったら、シャルテも絶対降参しないでしょ!?どちらかが降参しなかったら、これは殺し合いになっちゃうんだよ!?」
そう、テルルが言ったようにこれは殺し合いにとてつもなく近いものだ。
だが、当然そんな事は分かっているのか、シャルテにその言葉が届くことはなかった。
そして、あと2人、シャルテに言葉を届ける事が出来るかもしれない父と母は、今日、この場に来ていなかった。
正午ぴったりに、アレンは広間に現れた。その格好は寝起きの様で寝癖もすごい。言われないと、本当に勝負をしに来た者とは思われないだろう。
「⋯⋯⋯⋯逃げずに来たみたいね」
「はぁ?なんで俺が逃げなきゃ何ねぇんだよ」
シャルテはそれには答えず決闘の挨拶として、相手に一礼をする。
アレンも欠伸をしながら一礼。
そうして、アレンとシャルテの決闘が始まった。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
「《雷電よ・貫け》ッ!」
決闘はシャルテの【ライトニング】で火蓋を切った。
ゴブリンを倒した時に使っていた魔術だ。初級魔術なので威力は低いが、シャルテの魔術適正値だと話は別だ。相手を殺傷するのに十分な威力を持つことになる。
周りの者達が歓声をあげる。
だが、アレンはそれを顔を横に倒しただけで避けた。とんでもない動体視力だ。雷を避けるなど、常人には不可能なのに。
初手の【ライトニング】で頭を狙い痺れさせ、そこで降参勧告をして決闘を終わらせるつもりだったシャルテはほんの少しだけ動揺してしまった。
それを、アレンは見逃さなかった。
アレンが、ふらっ、と動いたと思うと、その体が消え、シャルテの懐まで潜り込んでいた。
「くっ!?」
シャルテは防御魔術を自分に張ろうとしたが、
「一手、おせぇ。《雷電よ・貫け》」
アレンの手から放たれた【ライトニング】がシャルテに直撃する──直前、
「《光の障壁よ・我を守れ》ッ!」
シャルテが防御魔術、【ライトシールド】を使い、威力を軽減した。
シャルテが大きく飛び下がる。
「⋯⋯おぉ、あのタイミングで防御魔術使って間に合うのか。やっぱセンスの問題かねぇー」
そう言うアレンだが、シャルテの顔に余裕はない。
何故なら──
「だが、あのタイミングじゃ少しばかり遅い。直撃は免れても、少しはダメージが入ってるはずだぜ」
そう、先程の【ライトニング】は威力を軽減されただけで、ノーダメージではなかったのだ。
「さぁーて?このまま初級魔術ばっか使ってたら、俺に負けちまうぞ、シャルテ」
「────いいわ、少し本気を出してあげる。あなたの事を少しみくびってたみたいだから」
空気が、変わる。
周りに与えるプレッシャーがとてつもなく大きくなっていくシャルテ。
この場に集まって歓声を上げていたものは、黙り込んで、
沈黙と強烈なプレッシャーが広間を支配していた。
※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
(シャルテ、ダメ、それ以上本気を出したら──ッ!?)
テルルは唯一、この場で正常に動ける状態だった。
他の者達は皆空気に呑まれ、正常に脳を動かす事も出来なければ、動くことも出来ないでいた。
そして、テルルの脳は判断を下す。
(それ以上本気を出したら、アレンが死んじゃう──ッ!?)
テルルは力を振り絞って、この決闘を見に来ている人達全員が入る大きな氷の防御魔術、【アイスロッキング】を張った。
「《水の精よ・彼の者達から・我を守れ・永久凍土の氷(ひょう)にて》ッ!!!」
そして、防御魔術が使われた事すら、皆は気付かなかった。
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