キメラカメラで生まれし究極従順キメラ

ちびまるフォイ

本編より犬少女が気になってしまう小説

フリマアプリで売られていた「キメラカメラ」が到着した。

といっても見た目はただのデジタルカメラ。


「どこら辺がキメラなんだろう、ブランド名かな?」


テキトーに外を歩く野良猫を撮影してもデジタルデータに保存される。

なんらおかしい部分はない。


「なんだ普通のデジタルカメラか」


今度は道を歩く犬を撮影してみた。

犬の鼻が引っ込み、猫のような顔つきと、犬のような体格になった。


「にゃわ~~ん」


「えええ! が、合体した! これがキメラカメラか!!」


犬と猫とのキメラ「いこ」は犬の嗅覚はそのままに

猫のような身のこなしでどこかへ行ってしまった。


キメラカメラは保存されているデータと、

撮影データを合成してキメラ化してしまう。


「これは……使えるかもしれない!!」


キメラカメラでどこまでできるのか試したい。

マッドサイエンティストの気持ちが分かった。


キメラカメラを乱用しまくって作ったキメラは

ペットショップで大人気になった。


「ウサギとハムスターのキメラ"ウムスター"だよ!

 ちいさくてかわいいでしょ!」


「「「 キャー可愛い! 」」」


「こっちは鳥とワニとトカゲを組み合わせた疑似恐竜だよ!」


「「「 かっけぇ!! 」」」


ペットとしての飼いやすさを考慮してちゃんとペット用のもキメラしている。

客は目新しい獣を前にゆるんだ財布の中身を雨のように降らせた。


押し寄せる客たちを見ながらふと考えた。


「人間って……キメラ化したらどうなるんだろう」


仕事が終わるとネットで見つけた自殺願望の人に声をかけて呼び出した。


「本当に殺してくれるの……」


「いやぁ、死ぬかどうかはわからないよ」


「えっ」


どのデータとキメラさせるのがいいだろうか。

最初に冒険するのは怖いので犬のデータをベースにして写真を撮った。


激しいフラッシュの明滅の後、自殺希望者は……。


「あれ? 全然変わってない」


全然キメラになってなかった。

犬耳少女にもなってやしない。期待はずれ過ぎる。


「はぁ……人間には効果ないのか……」


「ご主人様」


「あ、もう帰っていよ。実験したかっただけだし」


「ご主人様、遊びたいです!」


「……君、そんなキャラだった?」


「ご主人様! かまってください! ねぇ! ねぇ!」


鈍い俺でもやっと理解が追い付いた。


――こいつ、心がキメラ化している。


その後も、ほかの人間でいくつか試してみて確信した。

猫と人間をかけ合わせれば、自由で気ままな人間ができる。

亀と人間をかけ合わせれば、おっとりした人間ができる。


「ようし、次はどんな動物でキメラ化させようかな」


家でデジタルデータの動物を眺めながらニヤニヤしていると、

自殺少女が見えない尻尾を振ってやってきた。


「ご主人様! なにやってるの! 教えて話してかまってかまって!!」


「ちょっ……やめろ! 押すな押すな!」


自殺少女は犬とキメラ化させたばかりに、俺の家に居着くようになった。

犬の従順さを今さら取り除くことはできない。


「ご主人様! ご主人様!!」


「お、おいっ、うわぁ!!」


少女に押し倒された衝撃でカメラは天を仰ぐ。

そのままシャッターを切ってしまった。


「あーーもう、空映しちゃったじゃん」


「しゅん……ごめんなさぃ……」


犬らしく真面目にしょげる少女。

それすら目に入らなかったのは天候が急変したからだ。


「さっきまであんなに晴れてたのに……急に曇ってる?」


亜空間から雲を呼びだしたのかと思うほどに天気は急変。

いったい何がどうしたんだ。キメラカメラのせいなのか。


「まあいいや。こういうこともあるんだろ、ったく、晴れろよな」


独りつぶやくと、太陽を覆っていた雲は一気に飛んでいった。

ぽかんと空を見上げた。なにが起こってる。


「ご主人様、ご主人様。どうかしたの? 教えて、教えて」


犬のようにすり寄る少女。

その従順な様子に何かを感じ取り履歴を見た。


「やっぱり、俺は天気と犬をキメラ化させてたんだ!」


人間をキメラ化させたときと同様に見た目の変化はない。

だけど、犬のような従順さは空に反映されている。


かまってほしいときは天気をコロコロ変えてアピールする。

空も犬キメラになったんだ。


「すごい! すごいぞキメラカメラ!!

 よーーし! 最高に従順なキメラを作って、いろんなものに反映させよう!!」


そうすれば何もかも俺の言う通りになる。

人も、空も、俺の言うがままだ。


必死に文献を調べ、ネットをあさり、しつけを施し

最高に従順な動物をいくつもそろえた。


「あとはこれを順番にキメラ化させていって、

 最後に出来上がった究極従順キメラを写真に収めれば完成だ!」


動物から動物へ。

キメラにキメラを掛け合わせていった。


そして、最後に究極従順キメラが完成した。


「こ、これは……!」





「はじめまして、私、究極従順キメラこと日本人というものです。

 上司の命令にはけして逆らいません。ルールは絶対順守。

 過労死することはあっても逃げ出すことはありません。

 どうぞよろしくお願いします。こちら名刺です。お納めください」

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