ある退屈な日常

南部 黄菜

第9話 死にたがりの女(2)

毎日、毎日死にたくて、それでも私は教壇に上った。

「死ねば良かったのに。」あの日の蒼の声が、いつも聞こえる。

明日こそ死のう。死ぬのはいつでもできる。明日死ぬこともできるし、今死ぬことも出来る。だから私は今日生きていけるのだ。


昇降口に入ると、蒼が先に靴を脱いでいた。

「あ、みろよ。今日もほんとに地味でブスだよな、あいつ。死ねよ。」

せっかくの朝のさわやかな空気が、一瞬にして濁る。

蒼ははっきりと私をみてそう言った。

わたしは聞こえないふりをして、靴をしまう。


あの事故のあとから、蒼の嫌がらせは少しずつエスカレートしていた。

今までは嫌みだけだったが、最近は消しゴムのカスを投げられたり、授業中に卑猥な質問をしつこくしてきたり、とにかくしつこい。他の生徒も少しずつ便乗するようになってきている。

何度指導しても、呼び出して他の先生に説教してもらっても、保護者に連絡しても無駄だった。

校長や教頭にはもう無視しろといわれた。主任には、ここまで粘着されるなんて、先生がなにかしたんでしょ、と言われた。


もう、私のことをボコボコにしてくれればいいのに。

暴力をふるってくれれば、警察に被害届けを出せる。

そして、私は絶対被害届けを取り下げない。

15歳の彼に、何らかの形でちゃんと罰を与えたかった。


殴ってくれないかなぁ。

怪我するくらい。


そのときだった。

ゴン、と後頭部に大きな衝撃が走った。

思わず膝から崩れる。


「あ・・・。」

痛みで声もでない。首筋を生ぬるい何かが伝っていくのを感じた。

とっさに手で後頭部を押さえる。

振り返ると、手に移植ベラをもった蒼がたっていた。

緑化委員が花壇の手入れに使うものを、昇降口においていたのだろう。


「なんで?」


つぶやいたのは、蒼だった。




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