勇者のパーティーから追い出された俺が、最強になってスローライフ送るまでの話

初柴シュリ

第一章

彼はパーティーを追い出され




「バグス、君はもうこのパーティーに必要ない」



朝に起きて開口一番、俺に告げられたのはそんな残酷な言葉だった。


告げてきたのは俺の所属しているパーティーの要、魔導師のフェルグスだ。周囲には他のパーティーメンバーもおり、俺の事を無機質な、あるいは哀れみを込めた目で見つめている。



「……そりゃまた唐突な。一応聞くが、理由は何だ?」



このパーティーは、世界に現界した異端の存在、『星魔王』を倒す為に結成された。


長らく人間世界は平和そのものだったが、ある日人間の住む場所とは別の、精霊大陸に隕石が落ちてきた。


するとどうだろうか、これまでには存在しなかった魔物が世界中に出現し始め、人々を次々と襲い始めたのだ。


恐らく精霊大陸は全て魔物に占拠されており、人間大陸も三分の一が魔物に占領されている状態にまで陥った。この状況を重く見た国家は、同盟を結成すると共に各国から名士を募り、星魔王討伐のパーティーを組み上げた。


最高峰のスキル、『勇猛ブレイブハート』を所持し、あらゆる分野において才能を持つ正真正銘の女勇者、メリダ・ハートガード。


最大にして最高の魔法を操る大魔導師、フェルグス・ドートレス。


絶対的な防御でパーティーを守護する騎士、パール・アナストレア。


死者すらも蘇らせる聖女、ハルート・フィン。


魔物どころか世界すら欺ける怪盗、フェイク・ライアー。



そしてそのスキルから《火焔》との二つ名が付く俺、バグス・ラナーである。


軍の支援こそあるものの、俺たち勇者パーティーにより人間大陸はほぼ魔物の手から解放、残すは精霊大陸に存在する星魔王のみとなり、世界は平和への道筋を歩もうとしていた。


そんな最中、精霊大陸に渡ってから数日経ってから唐突に言い渡された言葉。彼らの顔が至極真面目だったとしても、その言葉の理由が半ば分かっていたとしても俺はその真意を問い質さずには居られなかった。



「君のスキル、《火焔》は確かに強力だ。ただ、はっきり言わせてもらうと君にはそれしか無い。それ以外無いんだよ」


「おいおい、お前は魔法で戦ってるから分からないかもしれないが、スキルってのは重要なんだぜ? ほら、そこの勇者さんだってスキルで……」


「戯言はいい。君の能力は代替が効く、理由はそれだけで十分だろう? わかるか?」


「……っ」



確かに、フェルグスの言うことは事実だ。俺のスキルはあくまで炎を出し、それを操ること。それ以外に脳はない。


スキルとは、神から与えられた一つの才能。それ以外にも力を得る手段はあるが、その強さが人を測る一種の指標になっているという事も事実である。


その為、この勇者パーティーに選ばれている時点で俺の才能は十分にあると言えたのかも知れない。だが、それ以外に適性を持たない俺は、徐々に弱くなっていった。嫌、周りの奴らが強くなっていっただけかもしれない。


パーティーを組んで初めのうちこそ、俺のスキルは有用だった。スキルによる制限は非常に緩く、魔力と違ってリソースの枯渇を気にする必要もない。個々の戦力が心許なかった頃は、よく他のパーティーメンバーからも頼られた物だ。


ただ、忘れてはならなかったのがスキルに成長する余地は無いということ。神から与えられた才能だけでは、生きていくことは出来ない。


成長し、様々な才能を手にしていく仲間達を見て徐々に焦りが生まれてくる。俺の火力は日に日に通用しなくなり、遂には俺の互換すら可能になる始末。


勿論、俺だって指を咥えて見ているだけではない。スキル以外の点でもパーティーの役に立てるよう努力はした。魔法、体術、日々の雑事、エトセトラ……。


恥を忍んで仲間に師事を仰いだこともある。だが、所詮俺には才能が無かった。才能の指標であるスキルは強力でも、肝心の才能が無いとはなんたる皮肉か。


結局、徐々に強くなる魔物に対して決定打を持たなくなった俺は、前線からも外されることになった。やることといえば、荷物持ちか火起こしか。


心の何処かで屈辱は感じていたが、それでも世界を救えるのならと騙し騙しここまでやってきた。だが、遂に恐れていたことが顕在化してしまったのだ。



「……そうか。俺はもう、用済みか」


「そ、そういう訳じゃ無いの! ただ、この精霊大陸の魔物は非常に危険だって分かったから、その……」



声を上げたのは、勇者のメリダ。恐らく俺の用済みという発言を否定したかったのだろう。言葉の先を言い淀んだのも、彼女の善性の発露とでも言うべきか。


だが、その先の言葉が分かってしまったからこそ、俺にはもう耐えることは出来なかった。



「……わかったよ。お前らとの旅もここまでだな」


「……帰りには私達の通って来た道を使うといい。そこなら大方の魔物は討伐されているだろうから、君でも安全に通れるだろう。荷物を纏めたらすぐに出発しろ」


「ちょっと、そんな言い方しなくても!」


「いや、いいよ……迷惑かけて悪かったな」


「バグスさん……」


「……フン」



彼らの目線を受けながら、俺は自身の荷物を纏め始める。ぼんやりと滲んだ視界は涙の為か。いくら拭っても、次から次へと溢れ出てくる。


星魔王討伐を目前にしたある日。俺は勇者パーティーをクビになったーー。

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