第46話 行き違い

間違って投げたアンジェロッドと大岩が融合した結果、新魔法武器アンジェネリックフレイルが偶然にも誕生。

俺は持ち手の棒を握って振り回し、鎖の先に付いた岩球をフナムシが隠れる岩へと飛ばす。

魔法武器らしく鎖が伸びてリーチは補われ、岩そのものは容易に破壊出来た。

だのに女王が立てたフラグのせいで、肝心のフナムシは倒せずじまい。

これ、俺のせいですか?


「あっちじゃ!」


女王が別の岩を指差した。

フレイルの威力に見惚れていた俺と違い、女王は逃げるフナムシを目で追ってくれていたんだな。


「よし、次こそ!」


次こそは、と俺が再度棒を掲げた時、女王が俺の前に飛び出して両腕を広げる。

鎖や岩球が女王に当たるといけないので、俺は棒を下ろした。


「何ですか女王。

凄く邪魔ですよ」


「マジックアローのみで倒すと言った筈じゃ。

制限を忘れておるのか?」


「何度も試しましたよ。

でも全部駄目だったんです」


テンション低下と連動して顔を沈める俺。

女王は軽く前のめりになり、赤い瞳で俺を覗き込んで来た。


「次のアローは当たるかも知れんぞ」


「4発同時発射を何度も外してるのに、ですか?」


俺がそう言った途端、女王の目がカッと丸く見開かれる。


「何と、もう複数放てるようになったのかあ。

2日はかかると見ておったのにい」


何だかちょっと……ワザとらしい口調だったな。

もしかしたら女王は俺を勢いづける為に、習得にかかる時間を標準より長く盛ってるんじゃないか?

誰がやっても小一時間だとして、口では1日かかると言われていたら実際にはそれよりずっと早く習得が済み、自分は魔法の才能が有るのか、と『勘違い』する事だろう。


「……女王、それ嘘付いてません?」


言っちゃった。

案の定、女王は眉を潜めるばかりか、口をへの字にひん曲げてさえいる。


「わらわがか?」


「2日かかるって嘘付いて、実際は小一時間で習得出来ちゃって、それで俺をぬか喜びさせてーーー」

「シツ」


俺による疑惑の羅列は、女王にピシャリと遮られた。

マジックアローを散々外して溜まった鬱憤を、つい女王へとぶつけてしまっていたみたいだな。

女王は……右眼を閉じてウインクをし、更に舌の先端をチロっと出した。


「バレたか」


「はああ!?」


俺の反省を返せや、このイタズラ嘘吐き女王!


「そんな事よりシツ、早うラスティアンを倒せ。

それがAAのーーー」

「後ろ!」


完全に油断していた。

俺達がダラダラ話し込んでいる隙に、フナムシが女王の背後へと忍び寄っていたのだ。


「へ?」


女王が振り向こうとした瞬間、フナムシが草の中から飛び出して女王の首を狙う。


「危ない!」


俺はフレイルの棒を手放して女王に抱き付く。

間に合え!


『ガギィン』


ガード音の直後、『ガサガサ』とフナムシの遠ざかって行く足音が後方で聞こえた。


「……ふう」


「シツ、助かったぞ……」


緊急だから仕方無い事だけど、俺は女王を庇って抱き付く際、彼女の爆乳ど真ん中へ顔を埋める形になってしまっていた。

彼女は薄着で胸部も露出している為ほぼダイレクト。

乳房と乳房の間に出来た谷間は何処までも柔らかく、俺の頭はなんと耳の近くまで埋まっている。

貧乏なりに香水でも振っているのか、薔薇の花かなんかのそれに似たアダルティックな香りまでセットだ。

顔も名前も数さえも知らないひんぬー好きの同志には悪いけど、これで勃たなきゃ男じゃないよ……。


「……いつまでそうしておる気じゃ?」


「すみませんっ!

うわぁ!?」


俺は両手で女王の左右をグッと強く押して彼女から跳びのき、勢い余って後ろに倒れ込む。


「……シツ」


やや緩慢にムクッと起き上がり、乱れた着衣を直しながら女王が俺を呼んだ。

俺はフナムシに備えてフレイルの棒に手を伸ばずか、気まずいので口は閉ざしたまま。


「これで、メツェンからわらわに乗り換える気になったか?」


女王はニヤリと微笑み、両手で爆乳を軽く挟んでさっきラッキースケベが起こった事を強調している。


「ふざけないで下さい!」


色んな意味で。

……さて、足音で居場所を特定していたのが裏目に出てしまったな。

幾ら俊敏だからと言っても、泳ぎ続けなければ呼吸が出来ないマグロじゃあるまいし、常時高速移動する必要は無いんだよな。

ラスティアンの知能か本能か、いずれにしても所詮小型と舐めてかかるのは止めにしよう。


「女王、立ったばかりで悪いですが伏せて下さい」


俺はフナムシが駆け抜けて行ったであろう方向に向き直り、再三フレイルの柄を掲げた。

居場所が掴めないが、いっその事手当たりしだいにぶっ放して、この辺の岩を全部破壊しちまおうか。


「……そなた、勃っておるのじゃな?」


「は?見りゃ分かるでしょう。

もう伏せました?」


人が立ってるか寝てるかなんて普通間違えないぞ。

何言ってんだよ女王。


「伏せたが……」


やや低い位置から女王の声が。


「じゃ、行きますよ!」


背中を向けたままだが、本人の発言そのものと声が発せられた位置とで女王が伏せているのを確認。

俺は意気揚々とフレイルを振り回す。

現在、フナムシの正確な居場所は分からないが、それなら次はフナムシが岩を移動するのに合わせ、先回りして攻撃するとしよう。


「何と、もうイくのか!?」


この武器は予備動作が必要不可欠だろう。

フナムシが動いてから振り回してたんじゃあ遅過ぎる。


「当たり前でしょう!

女王、しっかり見てて下さいよ!」


フナムシの移動をね。

さあ、何処に居やがる!?


「シツ、過激過ぎるぞ……。

その、少しはわらわの気持ちも考えてだな……」


過激過ぎるって、ラスティアン相手に加減しろってのか?

それに、マジックアローの練習台にするにはあのフナムシは動きが早過ぎる。

今は女王の制限や気持ちなんか考慮してられないっての。


「何言ってるんですか。

早く始末しなきゃ!」


フナムシを。


「その、本当にわらわで……良いのじゃな?」


そりゃあ、女王より目が良い人間も探せばきっと居るだろう。

でも今からそいつを探してここに連れて来るなんて不可能だ。


「女王しか居ませんから!」


俺以外にはね。

っと、遠くの岩陰から顔を出し、周囲を警戒してるフナムシ発見!


「出て来ますよ!」


フナムシが。


「焦るなシツ!

ギリギリまで持ち堪えよ!」


そんな悠長にしてられるか!


「間に合いません!」


俺はフナムシの移動先を読み、置いておくようにフレイルを振り下ろした。

振り下ろすのとほぼ同時に、何故か女王が俺の下半身に飛び付いて来た。

ニーソから上の露出した太ももに、女王の爆乳が強く押し付けられる。


「ひぇっ!?」


突然の刺激に俺は平静を保てずビクリと震え、フレイルのコントロールを乱してしまった。

岩球は走るフナムシの頭上を虚しくも通過し、遥か先の地面に衝突。

勢いはまだ残っており、岩球はズザザザと土を抉って草を吹き飛ばしながら鎖を伸ばす。

そのまま2秒程進み、ようやく停止した。


「じょお……ぴゃあ!?」


「ん……ちゅぱっ」


ふぇっ、ふぇふぇふぇふぇふぇふぇ……笛……笛……笛っ!?

ラジオ!?笛ラジオっ!?

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