実は俺が××なのは彼女には秘密にしておくことにする
ミサキナギ
プロローグ
日常の崩壊というのは、いつも突然で、いとも簡単に起きるものだった。
自分の息遣いが頭の奥に響く。うつ伏せで地面に押さえつけられている俺の前には、がたいのいい男子生徒二人に押さえつけられた少女が横たわっていた。
制服を着た少女の手足はすらりと長く、特に短めのプリーツスカートから伸びる白い太腿は闇の中でも目を引いた。俺はその脚が抵抗するように動く度に身体を起こそうとするのだが、背中にのしかかっている男子は俺が起き上がるのを許さないのだった。
きっかけは些細なことだった。
一日、制服デートをしよう。そんな彼女の提案で俺たちは高校生らしいデートを楽しんでいた。もう帰ろうかという頃に学校の裏手を二人で歩いていたら、複数の男子生徒に絡まれ、校庭の倉庫へ連れ込まれ、あれよあれよという間にこの有様だ。
「放せよ、おまえら。こんなことしてただで済むと……もがっ」
上にいる男子にいきなり髪を掴まれ、俺は地面に顔を叩きつけられていた。潰された鼻から生暖かい液体が流れ出てくるむず痒さを感じる。
「黙ってよく見てろ」
低い声がして、顔を横向きにされた。
男子の手が少女の制服のブラウスにかかる。少女は放心しているのか抵抗しない。ボタンはあっという間に外され、前がはだけられる。露わになる透き通った肌と下着。初めて目にした少女の身体は夢でも見ているかのように綺麗で。
頬に押し当てられた土の冷たい感触と対照的に、俺は自分の顔が火照るのを感じていた。それは衝動にも近いものだった。
目が自然と倉庫を探り、手近な武器を探していた。
壁に立てかけてある金属バットに目が留まる。
助けなければ。俺が守ると約束したんだ。
そう、全てをかけてでも俺が守る、と。
覚悟を決めると、俺は関節が嫌な音を立てるのも構わず無我夢中で身体を捩っていた。
「紗夜を放せええぇぇぇえ――――!!」
転げるように男子の下から脱出した俺は金属バットを取った。
少女に覆いかぶさっている男子へ大きく振りかぶる。
と、人形のように為すがままに横たわっていた少女の腕が一本、天へ伸びた。その手首には、いつもの黒々としたミサンガが巻かれている。
そのまま彼女の手は男子の頭を抱えるように回された。それはまるで上に乗っている男を庇うような仕草で。
――え?
凍りついた俺を少女が見た。彼女の黒曜石のような瞳が俺を捉えていた。
「大丈夫よ。すぐにわたしが永遠のアニマ・ムンディを作ってあげるから」
言葉を失った俺に、紗夜は男の下で真夜中の花のように艶やかな笑みを浮かべ、
ガン、という衝撃が後頭部を襲った。
自分の落としたバットがカランカランと鳴っている。
強烈な痛みに俺は呻く間もなく視覚を失い――――
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