第4話 もう一人の少女
川へ向けて歩き出した俺たちは、しばらくして、けもの道のような小道を見つけ、それを辿った。
自然界では、川は獣たちの水飲み場であり、水浴び場であることから、大抵は川に向かう、けもの道があるものなんだ。
川まで1キロメートルくらいまで来た時、索敵範囲を1キロメートルに設定して展開していた空間把握スキルに、魔物の反応があった。
どうやら、川に水飲みにでも来たらしい。
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名前:ウルフ ランクD
種族:犬族
性別:雄
中型犬くらいの大きさで強靭な顎で噛みつく。攻撃は、噛みつきや体当たりが主体で、鼻が利くため血の匂いがすると襲ってくる。
基本群れで行動している。1匹程度なら初心者の冒険者でも相手できるが、群れの場合はとても危険である。
【ステータス】
レベル:5
HP :550/550
MP :0/0
【スキルステータス】
[ユニークスキル]
強顎(攻撃力5%上昇)
[固有能力]
噛みつき(攻撃力5%上昇)
体当たり(攻撃力5%上昇)
討伐確認部位:魔石及び尻尾
可食性:食べられるが硬い
その他:毛皮は衣服の材料として商品価値あり
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ゲッ!狼かよ。
攻撃力は高かそうが、大丈夫だろう。
こいつらが、10頭。
ん?この反応はなんだ?
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名前:シルバー・ウルフ ランクC
種族:狂犬族
性別:雄
中型犬くらいの大きさで強靭な顎で噛みつく。攻撃は、噛みつきや体当たりが主体で、鼻が利くため血の匂いがすると襲ってくる。
ウルフの進化種で知能がやや高い。ウルフの群れの統率役となる。ウルフと違い、きれいな銀色の毛並みをしている。
【ステータス】
レベル:10
HP :1200/1200
MP :50/50
【スキルステータス】
[スキル]
・風属性魔法LV1 ウィンドボールLV1
[ユニークスキル]
強顎(攻撃力10%上昇)
[固有能力]
噛みつき(攻撃力10%上昇)
体当たり(攻撃力10%上昇)
統率(群れのウルフの攻撃力及び防御力が2%上昇)
討伐確認部位:魔石及び尻尾
可食性:食べられるが硬い
その他:毛皮は衣服の材料として商品価値が高い
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群れのリーダーもいるのか。
どうしよう。
しかも、魔法を使うのか・・。
・・・まっ、いけるでしょ。
コリンのことも、魔法を使えば守れるだろうし。
『サンドウォール』
まずは、土の壁でコリンを防護する。
その内に、シルバー・ウルフの指示で、2頭ずつに別れたウルフたちが、俺たちの四方を囲んた。
残る2頭と、シルバー・ウルフは、様子を伺っている。
『ファイヤウォール』
俺は、ウルフたちが一斉に飛びかかってこようと身構えた瞬間のスキをとらえて、ファイヤウォールを展開した。
すでに、飛びかかる動作に入っていたウルフたちは、途中で止めるわけにもいかず、炎の壁に激突し、業火に包まれた。
レベル10の炎に、巻き込まれた8頭のウルフは、一瞬で消炭となり、様子を見ていた2頭のウルフと、シルバー・ウルフだけが残った。
さすがに、俺の魔法の威力を警戒したシルバー・ウルフは、すぐには向かってこない。
「ウゥ」
シルバー・ウルフが何かを指示するように、低くうなると、2頭のウルフが高さを変えて上下に重なるように跳躍して、飛びかかってきた。
ウルフたちの体で、シルバー・ウルフの姿が見えなくなったが、俺は構わず、低い方のウルフにその腹の真下から、サンドウォールを突き立て、高い方には、眉間に向けてファイヤバレットをお見舞いした。
2頭に魔法攻撃が命中する直前、魔力察知に反応する魔力を感じた。
『ウィンドボール』
俺は咄嗟に、2頭のウルフの向こう側~シルバー・ウルフのいるはずの方向へ、ウィンドボールを放った。
2頭のウルフが地面に落ち、空いた空間に、両方向からウィンドボールが飛んでいく。
風がはじける音がして、そのまま、大きな風の塊が、シルバー・ウルフへ向かって飛んでいった。
シルバー・ウルフのレベル1のウィンドボールを、俺のレベル10のウィンドボールが打ち勝って、弾き飛ばしたのだった。
勝利を確信していたのか、先ほどと同じ位置にいたシルバー・ウルフは、特大のウィンドボールがぶつかって、あっけなく絶命した。
相変わらず、解体の出来ない俺は、ウルフたちの死体をアイテムボックスに仕舞い、コリンの周りのサンドウォールを解除した。
「ウワっ」
目の前が急に見えるようになって、コリンはキョトンとしていた。
「コリン、終わったよ」
「?、セイヤお兄ちゃん、もう魔物退治終わったの?」
「おう、楽勝だったよ」
「すごーい」
目をキラキラさせて、俺のところに駆け寄ってきた。
俺は、腰をかがめてコリンの頭に手をのせた。
「怖くなかったか?」
「全然!だって、セイヤお兄ちゃんがいるもん」
コリンは、かぶりを振ると、とびっきりの笑顔でそう言ってきた。
「そうだな!・・よし、じゃあこの川沿いに、下ってみよう」
「うん」
コリンと手をつなぎながら、川辺を歩いていると、俺はふと、あることが気になった。
そういえば、ここまで魔物を結構倒してきたけど、俺のレベルって上がってないのかな?
確認してみるか。
【ステータス】
名前:セイヤ(大伴聖也)
年齢:17
種族:人族?
称号:「神に導かれしもの」(別名「世界を渡るもの」、「かき乱すもの」)
加護:イナンナの加護、ウカノミタマの加護
適正属性:全属性
職業:
レベル:2
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(ステータスポイント:457 ×100)
HP:10084/10084
MP:10040/10040
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【スキルステータス】
[スキル]
・火属性魔法LV10 ファイヤボールLV10、ファイヤウォールLV10、ファイヤバレットLV10
・水属性魔法LV10 ウォーターボールLV10、ウォーターウォールLV10、ウォーターバレットLV10
・風属性魔法LV10 ウィンドボールLV10、ウィンドウォールLV10、ウィンドバレットLV10
・土属性魔法LV10 サンドボールLV10、サンドウォールLV10、サンドバレットLV10
・光属性魔法LV10 ライトボールLV10、ライトウォールLV10、ライトバレットLV10、ヒールLV10、浄化LV10
・闇属性魔法LV10 ダークボールLV10、ダークウォールLV10、ダークバレットLV10
・聖属性魔法LV10 ヒールLV10、浄化LV10
・無属性魔法LV10 クリーンLV10、身体強化LV10、気配察知LV10、魔力察知LV10、長距離転移LV10(短距離転移がLV10の時自動取得)、精神異常耐性LV10
・武術LV10(刀,剣,槍,弓,棒,格闘がLV10の時自動取得)
・格闘術LV10(体,拳,脚がLV10の時自動取得)
・創造術LV10(錬精,鍛造,器造がLV10の時自動取得)
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[ユニークスキル]
・鑑定
・アイテムボックス
・隠蔽
・無詠唱
・全言語
・空間把握(探知,索敵がLV10の時自動取得)
・金勘定
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[固有能力]
・世界知識
・魔力操作
・****(100000Pで覚醒)
・****(100000Pで覚醒)
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レベル、上がってた!
でも、1つだけか・・。
なかなか上がらないものだな。
ステータスは、HPとMPがちょっとだけ増えたか・・・。
「あ、ステータスPも増えてる」
「セイヤお兄ちゃん、なんか言った?」
「あ、イヤ、なんでもない」
思わず声が出ちまった・・。
説明は・・。
『レベルは、魔物を討伐した時に得られる、経験値の総量で自動的に上がっていく。通常は、ステータスもレベル上昇によって、自動的に上がるが、その割合は種族や個体差、その時点でのレベル等様々な条件によって個々に異なる。セイヤの場合は、転移時の特典によって、獲得経験値がステータスポイントとしても加算され、#任意__・__#で割り振ることが出来る』
なるほど、しかも俺はウカちゃん特典で、ポイント100倍ということね。
・・・でもアレだね、このシステムだと高レベルの人ってあんまし、いなさそうだね。
とりあえず今は、移動中なので、ステータスは弄らないでおこう。
「セイヤお兄ちゃん、何かお歌をうたいながら行こう」
コリンが横から、俺を見上げてそんなことを言ってきた。
「え?歌あ?」
「うん」
俺、これくらいの子がうたうような歌、あんまり知らねえぞ。
だいたい、こっちの世界の歌、そのものを知らないわ・・。
「歌かあ・・」
しゃあない、これでいこう。
「おお牧場はみどり~、草の海、風が吹く、おお牧場はみどり~、よく茂ったものだ!」
「ホイ!」
「雪が解け・・・ん?」
なんかおかしい。
「コリン、なんでおまえ、合いの手知っているんだ?」
「なんとなく?」
「なんとなくって、おまえ・・・」
「こんな感じかな~って、えへっ」
笑顔でごまかされた。
「まっいっか。じゃあもう一回」
「は~い」
「おお牧場はみどり~・・・」
俺たちはそうやって、うたいながら川辺を下っていった。
2時間ほど歩いたが、あたりの様子はあまり変わり映えしなかった。
こころなしか、川幅が広くなってきたような気もする。
「それにしても、腹減ってきたなあ~」
「そうだね~」
そう言いながらも、コリンは、なんか楽しそうだ。
すると、またも1キロメートルくらい先に、反応が出た。
ウルフが20頭、シルバー・ウルフはいないみたいだ。
それと、この反応は人だな。
1人しかいない。
囲まれているみたいだ。
「コリン、ちょっと急ぐから、背中に乗りな」
俺は、コリンを背負っていこうと思い、しゃがんで彼女に背中を向けた。
「わかった」
コリンは素直に、おれの首に手を回して、背に乗ってきた。
「じゃ、いくぞ?」
「うん、しゅっぱ~つ!」
俺の上で、コリンが小さな右手を突き上げた。
1分もかからずに、反応のあった地点に到着した。
そして、目にした光景に、俺は、思わず息を飲んだ。
足元に5つのウルフの死体が転がり、残りの15頭のウルフに囲まれて立っている一人の少女。
身長140センチメートルくらいで、小柄な体。
細身でありながら、胸は普通にある。
つまり、スタイル抜群。
着ているのは、黒く光る革素材のタイトなショートパンツに、同じ素材の半袖の上着、足元に履くのも黒のショート革ブーツ。
露出している素肌は、黒色の革と対象的な大理石のように白い肌。
特徴的なのは、艶やかな銀色の長い髪をツインテールに結び、ややつり目の切れ長な目は、エメラルドグリーンをしていること。
小さな身を少しかがめて、手にはシャムシール~シミターとも呼ばれる、わずかに曲がった細身の片刃刀~を持ち、タイミングを見計らっている。
ウルフたちが、突然その場に現れた俺たちに気を取られたその瞬間、少女はそのスキを突いた。
一瞬で間合いを詰めると、ウルフたちの間を縫うように駆け巡り、確実にシャムシールでその首を切り裂いていく。
不意に、背後の死角にいたウルフが、鋭い牙を剥き出しにして、少女の首筋を狙いにいった。
だが、うしろの敵が見えていたのか、少女は上半身を前に倒しながら、襲ってきたウルフの顔を後ろに蹴り上げる。
蹴られたウルフは、のけぞるようにして吹っ飛ばされた。
14頭目のウルフを切り裂き終えると、先ほど蹴り飛ばした最後の1頭に駆け寄り、とどめを刺した。
その間、銀色に輝く髪が、一度たりとも留まることはなかった。
「す、凄い」
「おねえさん、すごーい!」
思わず、感嘆の声を漏らした俺の横で、コリンが手をたたいて、はしゃいでいる。
「なんか用?」
討伐部位をナイフで解体して集めながら、少女が言ってきた。
「あ、いや。魔物に囲まれている人がいるみたいだったので、助けようと思って来てみただけだけど・・・必要、無かったみたいだね」
俺は、先ほどの衝撃と、あまりの愛想のない物言いに、ドギマギして答えた。
「ふ~ん。獲物を横取りしようとしてたんじゃないの?」
「い、いや。けして、そんなつもりは・・」
「ホントだよ。セイヤお兄ちゃんは、コリンのことも助けてくれたんだから、嘘じゃないよ」
戸惑う俺に、コリンが助け舟を出してくてる。
なんて可愛いヤツ。
「そう、どっちでもいいけど。じゃあ、その必要性も無くなったし、用事も済んだということで、あたしは行くわ」
回収が終わり、パンパンに膨らんだ鞄を肩からさげると、少女は俺たちに背を向けて歩き出した。
「あ、ちょっと」
慌てて声をかけると、少女がふりむいた。
「なに?まだ、なんか用事あるの?」
吸い込まれそうなエメラルドグリーンの瞳で、キッと睨みつけてくる。
「カ、カワイイ・・」
「な、なに言ってるのよ!」
思わずつぶやいてしまった俺の言葉に、少女は一瞬で顔を朱らめた。
「・・あ?いや、ご、ゴメン。思わず見とれてしまって・・」
「か、からかわないでよ!で、何の用なの?」
訳の分からない言い訳をする俺を無視して、少女は改めて聞いてきた。
「そうだ!え~と、俺たち遠くの方から旅してきたんだけど、金も食べ物も無くなってしまって、この近くの集落に行こうと思ってたんだ。それで、よかったら集落まで案内してくれると助かるんだけど。」
俺は、言えない部分や都合の悪い部分は適当にごまかして、少女にお願いしてみた。
「・・・・わかったわ。そんな小さな子を、飢え死にさせるわけにはいかないわね」
少女は、しばらく、俺とコリンの顔を交互に見ていたが、やがてそう言って頷いた。
「ありがとう!おねえさん」
コリンは、俺の適当な作り話を否定するでもなく、笑顔のままじっと俺たちのやり取りを見ていたが、少女の言葉を聞いて、それが満面の笑顔と変わった。
「ありがとう。俺は、セイヤ。この子は、コリン。よろしくな」
俺は、ホッとして、改めて礼を言い、自己紹介をした。
「エルよ。よろしく」
エルがほんの少しだけ微笑んで、差し出した俺の手を握ってくれた。
「コリンも」
すると、コリンが、握りあった俺たちの手の上に、自分の小さな手を重ねてきた。
それを見たエルが、今度は思わずといった感じで破顔したのだった。
「じゃあ、行きましょうか」
エルが先にたって歩き出そうとすると、コリンが彼女の右手を自分の左手でつかんだ。
突然のことに、エルは驚いて振り払おうとしたが、コリンの余りに哀しそうな顔に、思いとどまったようだった。
すると途端に、コリンは機嫌を直し、今度は空いている右手で、俺の左手を握ってきた。
そして、満面の笑みを浮かべると、俺たち2人を引っ張り、歩き出した。
俺はすぐに諦めたが、エルは困惑した表情のまま、手を引かれていた。
「そういえば、エルって何歳なんだ?」
ようやく受け入れたのか、並んで歩き始めたエルに、何の気なしに聞いてみた。
「女性に歳を聞くとか、あんたはバカか?15だ」
「すんません。へえ、じゃあ2コ下か・・」
罵倒しながらも、答えてくれた。
「なにっ、あんた成人しているのか!」
「えっ?」
「16で成人だろう」
そうなんだ!
こっちの世界では、俺、もう大人なのか。
「コリンはね、5歳、もうすぐ6歳なの!」
俺とつないでいた右手を離して、手のひらを開いて、5歳を表現する。
エルとつないだ方を離さないのは、またつなぎなおす時に、拒否されないためにだろう、中々の策士だ。
俺は、コリンのフォローをムダにしないように、話題を変えることにした。
「これから行く集落って、どんなところだ?」
「小さな村よ、エアというの。水の神エアに守護された村で、大昔は結構栄えたところだったらしいわ」
「そうなんだ」
水の神か。
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