第18話 聖ノ島の攻防前
時間は少し遡り、アマテラスの養兵所の主任教官である姫城が校舎に戻り、部下教官である水波から本土でのオロチの不穏な動きがあると報告を受ける。
「奴らがとうとう動きだしたかもしれん。恐らく神器をな」
姫城は推測を口にする。そして、近くにある椅子に腰掛けた。それは、落ち着いて話をしたいと思ったからである。水波にも隣に座るように促そうとする。
「いえいえ、上官の隣に座るなんて、彼女らに示しが着きませんし」
「お前もわかっているだろうが、近くに奴らは居らん」
水波は隣に座るなど、恐れ多くて出来るわけがなく、困った顔を姫城に向ける。
「彼女らに厳しく指導している姫城教官らしくない言葉ですよ!」
「水波、十分お前も厳しいだろう。我のことを言える立ち場ではないはずだぞ!」
そうして、話していると、何かを察知したような反応を教官二人はする。
「邪悪な何か近づいて来ているのに気づいたか。水波?」
「今気づきました。何でしょう?中には禍々しい気配も感じます」
「この感じ、嫌な予感がする。我は教官達を召集する。水波、お前は小娘達を全員叩き起こせ!」
二手に別れ、急いで姫城は教官達を召集刷る為に職員室に向かった。その途中に、教官の一人のすれ違った時に屋上の監視台に行って、こちらに近づいてこないかどうか確認するように指示した。少しして、職員室に6人の教官達と所長と副所長が入ってきた。
「姫城主任、この気配のことか?私もこれで目が覚めてしまった」
「さすがは所長。そうです。諸君ら邪悪な気配がこの島のすぐ近くまで接近している。さきほど、水波には小娘達を起こすように指示した」
「オロチですか?この邪悪さは」
この養兵所の所長はこの気配が近づいて来た瞬間に目が覚めて、召集しようと思った時にすでに姫城が召集を始めていた。この判断力と行動力は相変わらず、さすがであると所長は思っていた。以前に現場に戻り、この能力と実力を発揮して欲しいと打診したことがあるが本人は次世代の育て、送り出すことが天の差配による自分の使命だと言い、固辞されてしまったことがある。
「その可能性は高いと我は見ている」
職員室の通信機械の着信音が鳴門、一同は一斉に注目する。姫城はすぐさまスピーカーモード通信を開けるようにボタンを押す。
「我だ!」
「目視の結果、数機の機影を確認、接近しておりますのはオロチです」
通信を切り、姫城は所長に判断を仰ぐ。
「全員戦闘配置。以降、作戦指揮は姫城教官に一任!」
「了解。担当の教官は、准士達で隊列を組み、共に迎撃。残りは穢れの岩戸に回れ」
教官達はそれぞれ散っていく。
「我は水波に合流せねば。あの小娘二人のいる方向が気になる」
「私も本部と今から連絡を取る。副所長は穢れの岩戸の方の指揮を」
姫城は所長と別れ、水波の元へ向う。
一方、少し前のこと水波は准士達を起こすべく宿舎へ行き、暗く寝静まっているところで全点灯で全員を起こす。
「全員、ただちに起きなさい。着替えて自分たちの部屋の廊下の前に待機すること以上」
宿舎内の放送で流すと、寝静まっていた宿舎はバタバタし始めた。
「迫ってきている」
邪悪な気配にこの島が取り囲み、それが接近し、狭まっていることを感じていて、水波は呟いた。やがて、全員、各自の部屋の前に並ぶ。
「全員、揃いました。いえ、正確には東条さんと琴吹さんがおりませんが。それで何でしょうか?」
准士達の代表が教官の水波へアヤナとサエを除く全員が揃ったことを報告しに来た。
「それは承知しています。これから緊急の話をします」
水波は准士達全員が並んでいる廊下へ行き、話を始める。
「これは訓練ではありません。そして、今この島に邪悪な気配が迫っています。もうじき、その正体に関する放送が流れるでしょう」
そう言うと、准士達がザワザワし始める。そんなことを聞いて、黙って待つことは戦士の卵達であっても、女性である以上、難しいことだろう。
「あのー・・・教官、あのオロチですか?」
ザワザワしている中で、おかっぱ頭で少し印象が薄いのが特徴な女の子が皆の前に出て、水波に尋ねる。
「木花さん、あなたが前に出てくるなんて・・・。まだ、わかりませんが可能性は高いです。おそらく、戦闘になるでしょう」
「あの二人は危ないんじゃ・・・」
木花サクヤはアヤナとサクヤが二人で宿舎から離れた大木の森に野宿しているので不安になっていた。さらに、周りのザワザワしている中で”オロチ”という単語が出てきているので、もし、あの二人が遭遇したら確実に殺しにくる。ましてや、テロリストでアマテラスとは敵対している。
「姫城教官と対応するから。それにあの二人がタフってことはあなたの方が知ってるはずよ!」
やがて、放送が入り、”オロチ”であることがわかり、現在この島を侵入している状況だった。准士達は”オロチ”とわかった瞬間にザワザワが止み、青ざめる。その様子を見て、水波は喝を入れる。
「そんな顔をしてたって奴らは容赦なく、あなた達を殺しにくる。あなた達は武人になる為にここに志願したはず。怯えている暇があったら立ち上がって、今をどう乗り切るのかを考えなさい!」
「実戦経験が無い私達で通用するのですか?」
廊下の向こうの方から近づいてくる足音がしてきて、水波の変わりにその質問に答える。
「最初は誰もが実戦経験が無い。我と水波教官もそうだ。この時こそ、貴様ら小娘の初めての実戦だ!」
「姫城教官!!」
准士達が姫城に反応し姫城はそう答えて、水波の隣に立つ。そして、姫城が来たことで准士達に緊張感が走る。水波を除く誰もが姫城から視線を離さない。
「今から貴様らは各自、担当教官の元へ行き、指示を仰ぎ行動を取れ。奴らは恐らくこの島と神器を狙っている。これを今いる者を総動員して守り抜く!」
「私からは、死ぬのではなく最後の最後まで生き抜いて帰ってきてください。それだけです」
その二人の言葉というか訓示の後に一言、「はい!」と大きな返事をした。そして、各自それぞれの教官の元へと向かっていく。その表情は覚悟した者もいれば不安な顔をした者、中には涙を浮かべる者もちらほらいた。いずれは実戦を経験することはアマテラスに志願した時点で覚悟はしていたが、まさか修練の段階で実戦になるとは想像もして無かった。しかも、本土から離れた島でオロチと命がけの戦闘をしなければならない。それでも何とか仲間に勇気づけられ精神を持ち直すことが出来た。そんな様子を見つめている姫城と水波は喝を入れず何も言わないでいた。
「彼女らを叱り飛ばさないのですか。姫城さん?」
「それは我が聞きたいことだ。水波?」
教官であれば、准士達のあの様子を見れば、厳しく叱責しなければならないところなのだがそこまで理不尽な仕打ちが出来ずにいる。
「私が彼女らと同じ力の無い准士だったらと思うと・・・」
「恐らくこの襲撃で犠牲は出てしまうだろう。悔しいがな。ところで貴様、こんな時に何しているのだ?」
教官二人の後ろでずっと動かない一つの気配があったことに気づいていて、放置していたがいい加減、放っとくわけにも行かず、その本人に聞く。
「木花さん。姫城教官の言う通り、命令が出ています。それとも、私達に何か用?」
「すっすっすみません。そんなつもりは。でっでも、東条さんと琴吹さんのことがどうしても・・・」
姫城と水波に立っているだけで気圧されてしまうサクヤは緊張して、それが口調にも表れている。しかし、ある意味、命令を聞かず、一人この場にいるのは入所の頃と比べれば大したものだ。
「それはさっきいったはずよ。あなたが今、気にすべきことではないわ!」
「水波。我はその二人のことで話に来た」
水波はアヤナとサエのいる方向に気配を感じ取ってみる。
「人数は敵の方が多いですね。中にはさらに大きな邪気もあります。敵の隊長クラスでしょうか?」
「あの二人でもきびしくなるかもしれん。それにもう一つの気配が気になる」
サクヤを見るとまだうまく感じ取れていない様子である。
「貴様は命令に背いてまで、あの小娘二人の元へ行きたいという感じだな?」
「はっはい!」
姫城は窓の方に行き、外の様子を眺めている。指示通りに部隊が整いつつある。そして、木花を向いて、力を感じ取る。
「木花か・・・。いいだろ。我とこい!」
「いいえ、私が木花さんと行きます。姫城さんはこの学舎で万が一の時に最後の砦になっていただかなければ」
水波は姫城に変わり、自分が行くと志願した。姫城がここを動くのは良くないと考えたからである。
「ひょっとしたら、お前でも厳しい相手になるかもしれんぞ。お前が強いのは知っているが。あの禍々しさは普通ではない」
姫城が言っているのはアヤナとサエが方向にいる敵の隊長のことである。その他は水波でも対処出来るが、問題はその隊長で姫城が感じている禍々しさからおそらく水波より亜人としての実力は上ではないかとふんでいるからだ。
「私はこの養兵所の教官として、そしてアマテラスの戦士として立ち向かわないわけにはいきません!」
「わかった。木花と共にあの二人を連れて戻ってこい。我もそうだがお前も実戦から離れている。油断はするな!」
水波は自分の決意を上官の姫城に示す。姫城は自分が実戦から離れていることを自覚しなければならないと注意した。
「わかっていますよ。姫城さん!」
そして、水波とサクヤは宿舎の外へ向かっていく。その前にサクヤは自分の武器が置かれている部屋に立ち寄ってから外に出た。各自、編成されている部隊は各方面へと散っていった後で、誰もいない。緊急事態なので整い次第、すぐに対応しなければ事態は悪化してしまう。
「水波、あの小娘達を任せたぞ!」
水波はその言葉にうなづく。そして、サクヤを向いて、付いてくるように声をかける。
「さぁ、行くわよ!私からなるべく離れないで」
「はっ、はい!」
二人は禍々しい気配がこちらに近づいている方向に向かって、急いで走っていく。そのスピードは亜人ゆえに常人より速かった。そんな二人を見送った姫城は次の行動に移ろうとしていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます