ディファレント・ワールド

悠霧

Ⅰ.現代のプロローグ

第1話 青年の崖っぷちな就活

「人生とは分からないものだ。いつ何時に巻き込まれるかは」


 「君にようはない。帰っていいよ。この時期来る奴はろくでもない。まさに想像通りだったな。ちょっと期待してたがダメダメだ。あ、君ゴミだから不採用だよ。おつかれさん」

これは就職活動における最終面接の場面である。その場に青年と面接をしている会社役員がいた。面接が一通り終わり締めに入ろういうところで突如相手の青年に向かって暴言とも言うべき発言をした。普通ならそんなことはほとんどないことである。このスーツを着こなしている青年は長く活動していたことを伺いしれるほどの雰囲気を持っていたのである。体型は太っているわけでもなく、痩せているわけでもない普通の体型をしている。身長は175cmぐらいで顔つきは少しながら美形よりである。そんな青年は怒りを押し隠すことが出来ない状態にいて、理性がいつまで持つかという所にいた。

 「ようはない?ゴミだとはひどい話ではありませんか。こんな面接見たことも聞いたことがありません。わかっておっしゃっているのですか?」

四十代後半の男性役員は当然のことながら青年を睨みつけていた。たちが悪い役員である。

そして

「そうだな。それにお前受けに来ているのにその口を聞くとは、はぁー、どっちに

しろダメだ。ゴミだ。お前なんかどこも受け入れないよ。早く帰んな。俺も暇じゃない。なんせ、役員なのだからな」

役員は明らかに見下しの目で青年に更なる暴言をはいた。暴言のオンパレードと呼ぶべきだろうか。


その時突如・・・

ドン・・・トン・トン・トン


「お前なぁーーーーーーーーーーー」

青年の覇気は若いながら凄まじいものだった。座っていた椅子からいきよいよく立ち上がり、役員が使っている机の前まで瞬間的に詰め寄った。もちろん椅子は倒れている。そして言葉からして堪忍袋の緒が切れたのだろう。顔つきが怒りに満ち溢れている。役員は“何だお前”という顔をしている。

「おお、どうするんだ。もしや俺を殴る気か。そんなことしたら・・・・」

「こんなことをして、ただで済むと思ってないさ。本当はぶっとばしてやりたいが・・・・」

青年は役員に対して一旦冷静さを見せてやった。

「ぶっとばす?脅迫か?これ以上やるならお前の大学に連絡してもいいんだぞ。」

役員が逆に脅しをかけてきている。さあ、どうするんだという見下す様な笑みを見せている。

「俺もいちようこれでも、大人だ。殴るのも好きじゃない。が・・・ゴミと言った事は謝ってくれませんか」

青年は口調を少し敬語に戻した。彼なりに“大人の対応”をしたのだろう。役員の男は机においてある青年の履歴書を手に持って改めて目を通した。役員に謝るそぶりはないようだ。

「海城聖斗君ねー。お前みたいのは初めてだ」

役員の男は青年の名前を読み上げ、青年の方を改めて見てみた。

「強情だな。お前のような奴はうちじゃなくてもだめだろうな。しかもこの時期にやっているなんてろくでもないのしか、いないしな」

青年聖斗は役員の自分に対する愚痴というか悪口に嫌気がさし、さらにイライラしてきている。

それほど役員の言うことに腹が立っている。

「何だ。お前はほんとになめてんのか。お前の大学からはもう取らん。全てはお前せいだからな。後輩から恨まれることになるんだ。ざまぁーみやがれ」

「ついでだ。最終面接の発表をしてやろう。いいだろー? すぐ結果が聞けるというのは・・・・・・。お前は」

役員は手を握り絞め、親指を突き出し、そして首の端から端へ親指で引いた。つまりクビという意味であるがこの最終面接では用はない不合格を表している。表情はニヤニヤしていたのである。その瞬間・・・・。


「ふざけんなよぉぉー。てめぇぇぇぇーーーー」


聖斗はとうとう大声でぶちきれてしまった。短気というわけでもない。少し気が短いという所もあるがあれだけのことを言われてしまえばしかたがないだろう。大声でキレタ瞬間に突如、衝撃波が走ったというべきだろうか。聖斗からとてつもない気のようなものが目には見えないが放出された様子がある。

「そうやってバカにするのも大概にしてくれよな。こんなひどい会社は初めてだ。こっちから拒否させてもらう。とんでもないクソ企業だ」

「お前、何なんだ。今の」

役員はあの瞬間、衝撃波のようなものに押されて机と椅子ごとひっくり返されてしまい、驚いている表情にある。見下す目から化け物を見る目に変っていた。

「知らない。何でひっくり返っている。俺は何もしていないが」

聖斗は気づいていない。よくわからないことが起ったのは確かなようだ。

(化 け 物 か・・・・。関わりたくないな)

「もういい。結果は決まったんだ。帰ってくれ」

もう終わりにしたいようだ。役員の表情はさっきとは違い歪んで、怯えているようだ。


(化け物だと・・・俺はただ怒りをぶつけただけだけどな。仕方ないな)

「わかりました。もう帰ります。大変失礼なことしてすみませんでした」

聖斗はもうあきらめた。これ以上相手に何をいってもしょうがないと思ったからだ。

最後にわけもわからず“化け物”だと言われてしまえばなおさらだ。

(くやしいが。帰るか。まぁ、言いたいこといったからな)

「一つ聞いてもいいですか。俺に“化け物”ってどういう・・・?」

「お前が発狂したら突然・・・そしたらこのありさまさ。警察に連絡したいところだが、会社の問題にされたら。面倒だからな。勘弁してやる」

「この会社がいわゆるブラック企業ってことがよくわかりました。失礼します」

そして、役員に背を向け、散らかってしまった面接室から出ていった。



「それにしても気になる。気になるなぁー。さっきは何だったんだ?」

帰りの途中でひとり言をつぶやいている聖斗がいた。

あのときの現象というべきものに自覚がなく、いまだによくわからないらしい。

ブゥーン ブゥーン

携帯のバイブレーションが鳴っている。画面を見ると“先生(ゼミ)”と映っていた。

「もしもし俺だ。海城、うまくやれたか?」

聖斗の大学のゼミの先生から電話がかかってきた。聖斗はというと・・・

「先生、ダメでした。相手があまりに失礼だから、きれてしまいました」

「何があった?お前が怒るのはよっぽどのことだよな」

いきさつを聞かれたので先生にありのままに説明した。

「気持ちはわからないでもないが、まずいことしたな」

先生は話を聞き、企業の方にもかなり問題があるともちろん思ったが、向こうの挑発ともいうべきことに聖斗が乗ってしまったことにも問題があると言いたいようだ。ようは聖斗が大人の対応が出来なかったところにある。先生は・・・

「まぁー、電話かかってきたら何とかしてやるから。次は最後と思ってがんばれよ!」

「すみません」

聖斗は迷惑をかけたことに謝った。しかし例の謎の現象についてはほとんど話さずに終わった。



・・・・・場面は変わりここはこの世界とは異なる・・・・他の世界。



 「ねぇー。うまくいきそう」

少女がとなりの誰かに聞いた。そこは見た目、研究所のような施設である。

どうやら何かを見ながら、しゃべっているようで、となりの誰かは答えた。

「そうだね。問題なく送れることは確かだよ。今のところは」

同じく何かを見ながら答えているようだ。よく見れば、画面のようなものだが、形はない。透けているようだ。青年聖斗の暮らすところで言う、ホログラムと呼ばれるものだ。しかしここでは技術的にしっかりと確立されているみたいだ。まるで違和感がない。聖斗がいるところではまだ黎明期の段階で技術的にもまだまだ未熟である。

「上もいつまでも待ってくれないし。早くしてよ」

「もちろん。でもそんなに時間はかからないよ」

「これからが楽しみね。そう思わない?」

「思わないわけないでしょ」

少女と少年が何かについて話していた。少女は笑みを浮かべていて、少年は薄笑いをしていた。いずれにしても、単なる子供とは思えない感じの雰囲気である。



 聖斗は帰り道電車に乗っていた。どうやらさっきのこともあり、寝ているようだ。

ブーン ブーン ブーン ブーン

携帯のバイブレーションが鳴っていた。だが、聖斗は一向に起きない。電車中に響き渡っているにも関わらず、乗客達の視線が青年聖斗に集中していた。寝ているので視線には気づかない。隣に座っている乗客がさすってみても、まだ起きない。しばらくして、バイブレーションは止まった。乗客達は普段通りに戻った。一部の乗客は・・・。

「どんだけだよ、あいつ」

「うぜぇーんだけど」

「ちょー むかつくんだけど」

大きな声で喋っているのは、服装を崩している男女の高校生のようだ。これを聞いた一部の乗客、主に社会人達も心の中で同意していた。それほどうるさいということである。

 10分ほど経ってから、目を覚ました。一瞬乗客の視線を感じたが、本人はわけがわからずだった。しかし先ほどの高校生は睨みつけているようだが、聖斗は気づかなかった。

自分の降りる駅のアナウンスが流れたので、忘れものがないか確認した。電車を降りた頃には辺りは夜になっていた。携帯を見ると、着信が一件入っていた。

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