召喚前という過去と後日談(不知火真南視点)
『天霧北都君。君に話したいことがあります。放課後、誰もいない教室で待っています』
相手が男子であるためか、まるでこれから告白をしようとしている女子みたいだが、そんなことは一切無く。
あるのは、たった一つの『真実』を突きつけ、それを聞いた『彼』が、どのような判断をするのかを待つという時間だ。
ある日、自分に突きつけられたその『真実』は、今まで見ていた世界を一新させるほどで。
何かの嘘であってほしいと思いながらも事実として突きつけられた挙げ句、今もこうして『不知火』として過ごせているのが不思議なぐらいで。
「……」
本来なら誰かの手を借りるべきだったのだろうけど、母さんはそれどころではなく、これは我が家の問題だからと、当時、女子中学生だった私一人で可能な限り調べた。
そして、相手を知り――何の巡り合わせか、因果か。私と『彼』は同じ高校に通うこととなった。
この事を、父さんはともかく、母さんは知らないだろうし、私は私で『彼』の様子を観察していた。
――ああ、何も知らないんだな。
異母妹が同じ学校に居るというのに、『彼』は親からは何も知らされていないらしい。
こっちは下手したら、家庭崩壊の危機を迎えていたかもしれないのに。
「な、んで……っ!」
こっちだって、知りたくはなかった。
でも、知ってしまったのだ。見て見ぬ振りが出来るわけがない。
それからというもの、『彼』の観察は冷めた目で行うようになった。
私が知る『真実』を知ったとき、どんな顔をするのか見てみたい気もするが、ただの同級生だと思っていた私が異母妹だと知って、余所余所しくされても困る。
だから、私が途中で生徒会役員になってからも、この問題に関しては、全てタイミングの問題だった。
双方のダメージ云々は関係ない。『彼』――
彼と話す場所を学校にしたのは、母さんにバレるのを防ぐためだ。
ただでさえ関係が不安定になっているのに、私が通っているのが天霧君と同じ学校だとバレたらどうなるかなんて、考えたくない。
「……まだかな」
この日のためにやるべき業務は終わらせたわけだが、天霧君の方は先生から頼まれ事をされていたから、それを片付けている最中なのだろう。
「……」
部活中の運動部に吹奏楽部や合唱部の演奏などが聞こえてくる。
そんな時だったのだ。
「っ、何……?」
教室で待っていた時に、足下で輝く魔法陣が現れたのは。
そして訪れた、心の何処かでは『違うのでは?』と疑っていた私たちの関係が、『事実』であることを肯定する世界への召喚へと繋がるのである。
☆★☆
「そして、私はこの世界に来たんだよ」
「へー」
話を聞いていた小さい子たちに、そう告げる。
一部は思い出すように話していたわけだけど、あの時の私は若かったわけだから、完全に感情をコントロール出来たわけではない。
「じゃあ、母様は伯父さんのこと、今ではどう思ってるの?」
「そもそも、兄妹って分かるまで、母様は伯父さんのことをどう思ってたの?」
「伯父さんのことは、
今の説明で分かってもらえたかな?
「何を話してたの?」
「
そうこうしている間に、話のネタにされていたご本人の登場である。
「……もう慣れたとは言え、その呼び方はなぁ」
「そっちだって、気兼ねなく『
「同い年とはいえ、これでも異母兄妹だからな。そっちだって、『北都』って呼ぶときがあるだろうが」
「ありゃ、正論」
彼は今、勇者と魔王の関係について広めるために、現在進行形で奮闘中だ。
「そろそろ、帰り支度しろよ。じゃなきゃ、旦那様がすっ飛んでくるぞ。魔王様」
「そうだね。じゃあ、お言葉に甘えて、帰らせてもらうよ。勇者殿」
連れてきていた子供たちにそろそろ帰ると促せば、上の子が先に片付け始める。
私は私で、現在進行形で魔王をしているから、魔国に帰ったら、少しばかり仕事をしなくてはいけない。
「それじゃあね。北都君」
「ああ、気をつけて帰りなよ。真南」
子供たちと一緒に軽く手を振って、その場を後にする。
「あら、今ご帰還ですか? 魔王様」
偶然、その場に居合わせたらしいフィーネさんが声を掛けてくる。
「そうなの。ごめんね、書類減らなくて」
「気にしないで。ほら、早く行かないと、補佐官殿が怒りかねないから」
苦笑しながらもそう促されたので、執務室に向かおうとして、子供たちはどうしようかと足を止める。
「お二人なら、私がお部屋の方に連れて行くから大丈夫よ」
「本っ当に、すみません!」
フィーネさんに頭を下げて、今度こそ執務室に向かう。
「すみません、間に合いました?」
「魔王様。貴女、今日は休みの日でしょう。なのに、何故来てるんですか」
おおぅ、補佐官様から不機嫌そうな目を向けられたぞ。
「何でって、私がやらないと滞る書類もあるでしょう」
魔王のサインが居る書類とかは特に。
「貴女に倒れられたら困るから、休めって言ってるのに……貴女という人はっ!」
「じゃあ、ここまで来ちゃったのに、どうすれば良いのさ」
そりゃあ、子供たちと会う時間以外だと、基本的には仕事してるけどさ。
「ちゃんと心配させる前に帰ってきたのに……」
軽く落ち込んだ素振りをしてみれば、溜め息を吐かれた。
「全く」
補佐官様が椅子から立ち上がる。
「お帰りなさい、真南」
「ただいま、リーンハルト」
そう言い合って、抱き締め合う。
そのお陰で、ちゃんとこの国に帰ってこられたと理解する。
「それじゃあ、仕事しましょうか」
「だから、止めなさい」
互いに離れ、執務机で仕事しようとすれば、机の方に行く前に、丸めた紙の束でこん、と頭を叩かれ、そう突っ込まれた。
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