後編
城内は慌ただしかった。
『陛下、勇者たちがそろそろ来ます』
「え、もう来るの?」
目の前では、バタバタと漆黒の装束を着たマナ様。
「……やっぱり、止めません?」
「何言ってるの? 勇者といえば、魔王による世界の危機から人類を救う救世主! ましてや私は魔王! 一生に一度は言ってみたい台詞ってあるでしょ? せっかくの機会だし、言ってみたいの。私は」
今更だが、本当に今更だが、この人は形から入るタイプだ。今更だが。
「だから、黒装束なんですね」
「何か悪役っぽくない?」
そんなことをしていれば、
『謁見の間まで、もうすぐです』
と声が聞こえてきた。
そして、謁見の間の扉が破壊される。
「覚悟しろ、魔王! って……!」
「フハハハハ! 良く来たな、勇者! だが、こっちとてそう簡単には
目を見開き、驚愕に染まる勇者を余所に、勇者の仲間がそれぞれ構えます。
まあ、マナ様は勇者について、ほぼ一方的に知ってましたからね。そんなに驚いたりはしません。
「……」
「……」
「……」
「……」
だが、構えただけで勇者側から何の反応も無いためか、恥ずかしさから、ギギギとこちらを向くマナ様。
止めてください。何で今恥ずかしがってるんですか。
せめて、最後まで、きちんとやってくださいよ。
「は、ハルトさぁん……」
いつも、しっかりしているように見えていたからか、いきなり涙目で助けを求められても、どうすればいいのやら。
「何やってるんですか。いつも通り、しっかりしてくださいよ」
それでも、見捨てることは出来ないので、ハンカチを差し出す。
……あ、ヤバい。勇者たちの視線が痛い。
「……よ、ようこそ。我が城へ」
どうやら、マナ様が一番耐えられなかったらしい。
☆★☆
さて、仕切り直して。
「改めまして。ようこそ、
いつも通りのマナ様である。
「ああ、うん。
「触れないで! お願いだから、触れないで! 一回やってみたかっただけなの! お願いだから、もうその話はしないで!」
「……ああ、うん」
マナ様の必死さに、勇者が戸惑いながらも頷く。
だから、止めたのに。まあ、隠れたくて仕方が無いはずなのに、椅子の後ろに隠れないだけでも偉いとは思うが。
「えっと、それで魔王は……」
「うん、私」
ついには、開き直ってしまった。
「君が勇者召喚されたのと同時に、私は魔王召喚されました。それが、この世界の基本的な仕組みだね」
もう笑いながら話されているし。
「で、基本的に勇者と魔王って、夫婦や恋人同士、
「あれ? でも、俺たちって、クラスメイト……」
「だと思ったでしょ? ここで、待ち合わせしていたあの日に繋がります」
マナ様の笑みが、口角だけを上げたまま消える。
そして、おそらく勇者だけが知らなかったであろう爆弾を、マナ様は落とされた。
「私たち、異母兄妹なんだよ。ちなみに、私の方が誕生日が後だから『妹』ね」
「……」
どうやら、勇者は声が出ないらしい。
「まずは、謝罪させて。うちの父親が迷惑掛けました」
「……ぁ」
「本来なら、君も不知火姓になるんだろうけど、いろいろと警戒したらしい父がそのままにしたみたいだね」
ようやく反応した勇者を余所に、マナ様は話していく。
「ちなみに、君のことは高校入学時から知ってました。まあ、その辺は、同じ高校なら良いなぁ程度だったんだけどね。私、これでも頑張ったよ? 情報収集に全力を注ぎました。その結果が、これです」
マナ様が悲しそうな顔をする。
「しかも、名前に『北』と『南』を入れている辺り、あと二人ぐらい居そうなんだよねぇ」
これは駄目だ。
「マナ様」
公の場だけど、名前で呼ばせてもらう。
「……つまり、何もかも知っていたと?」
「『夫婦』『恋人』『兄弟姉妹』が勇者と魔王の召喚条件なら、私たちに関係してるのは、『兄弟姉妹』ぐらいしかないでしょ。異母兄妹とはいえ、『
つまり、マナ様にしてみれば、この召喚が決定打になってしまったことになる。
ああ、本当にこの世界は――
「酷いよね。愛し合ったりしている人たちを引き剥がすどころか、打ち明けようとした私たちすら引きずり込むんだもん。セット召喚も
そこで何故、こちらに困ったような笑みを向けるのだろうか。
「で、どうする? 勇者として、魔王である私を倒す?」
「そんなの……出来るわけないだろ」
「ホクト!?」
勇者の仲間が勇者をぎょっと見る。
「そうだね。そうしてくれると助かるよ。私もまだ死にたくはないし」
次に、マナ様は勇者の仲間に目を向ける。
「そちらでは、勇者と魔王に関しては、どんな風に伝えられてるのかな? こっちでは数代前の人が、一度そちらに伝えたらしいんだけど」
「……魔王は人類の敵だ。魔王を倒すために、勇者を召喚する」
「うわ、何というマッチポンプ」
「魔王様」
マナ様が口を挟むと進まなくなりそうだから、注意してみる。
「そもそも、お前の言うことには証拠が無いだろ」
「それは否定しないよ。けど、異母兄妹は事実で、こうして喚ばれていることが一種の証拠だし、歴代魔王の手記ならこの国にはあるけど、この国にしてみれば貴重な資料だから、燃やされたりされては困るからね。どうしても見たいというのなら見せても良いけど、見張りは付けさせてもらうよ」
……どうやら、いつものマナ様に戻られているらしい。
「不知火さん」
勇者が呼び掛ける。
「
「いきなり、異母兄妹だの妹だの言われて、びっくりしたんだけど」
「うん」
「魔王が不知火さんだと知って、この事にもびっくりしたんだけど」
「うん」
勇者が一度深呼吸する。
「魔王がこの世界の人たちに、悪事を働いてるって聞いたけど、その真意を教えてもらえないかな?」
「いいよ」
この人はまた、あっさり引き受けちゃったよ。
「まずは前提として、魔王は魔族の王であり、この城はその拠点。それは覚えておいてね」
「分かった」
「そもそも、私に与えられた『魔王』としての主な仕事は、この国の統治と統率者としての任。だから、基本的にやることは、そちらの王様たちと同じだと思ってもらって構わない」
書類を通しているとはいえ、一度抜き打ちの現地視察を行ったことがある。
この城以外に知らなかったマナ様だから、行きはずっと楽しそうだった。
現地視察地での状況に、付き添った私たちも顔を顰め、もしかしたら、という可能性が出来たことに不安しか無かった。
『次来たとき、少しでも改善されてなかったら、別の場所に左遷するね』
立派な脅しでした。
「基本的に私は、この城から出ないから、悪事をしようにも『魔王』としての仕事が山積みだから、わざわざ
「魔王様、笑い事じゃありません」
休みがあるとはいえ、知能の低い魔物たちの起こす問題の後始末は、最悪私たちがやっていますが、当然倒れる者も居ます。
「そっちの王様だって、あんまり外に出ずにお仕事してるでしょ? それと一緒だよ」
「だから、その代わりに魔物を仕向けたりしているのだろう!?」
「彼らは、悪く言えば知能が低く、単に本能に従っているだけだ。こちらが何て言おうと理解してもらえないんじゃ、手の打ちようがない。もし、彼ら以外の奴らを見たのだというのなら、それは好戦的な奴らだろうね。彼らには戦うなとは言ってないし」
相手の言い掛かりのようなものに、マナ様が冷静に返す。
「好戦的なタイプは、行動を封じれば封じるほど面倒で厄介だからね。クーデターなんか起こされた上に内戦なんてしたくないし、さっきも言ったけど、私は死にたくないし」
「だからって、放置するのもどうかと思います」
「放置はしてないし、対処はしてる。この国の内輪問題に、貴女たちに口出しされたくはない」
勇者一行の女魔導師が口を出すも、マナ様からすぐに反論される。
「さて、と」
マナ様が椅子から立ち上がる。
「ハルトさん」
「何でしょう?」
「この国のことを任せますね」
「はい?」
何を言っているんだろうか。
「ちょーっと、遠い所までお仕事に行ってきます」
「え?」
「逃げるつもりか! 魔王!!」
「逃げないよ」
冷静に、今まで見てきた彼女とは違う、彼女がそこに居た。
「ハルトさん。いつまで経っても戻ってこなかったら、私の机の一番上の引き出し、開けてみてくださいね」
「マナ様」
嫌な予感が、止まらない。
せっかく、この人なら大丈夫かと思っていたのに――
「不知火さん、何をするつもりですか?」
「何も? ただ、リア充嫌いの神様を片付けようかと」
彼女は何を言ってるんでしょうか?
「それは、つまり――」
「終わらせてきます」
「マナさ……」
勇者の言葉全てを聞くこともなく、私の呼び掛けが追い付くこともなく、マナ様はその場から姿を消された。
「ホクト、早く追わないと」
「追うって、どこに?」
「そんなの、魔王の元に……」
「行けるなら、とっくに向かってる! 向かえないから、向かえるわけがないから、何にも出来ないんだよ!!」
勇者が叫ぶ。
きっと、この城に来て、一番の声なのだろう。
「おい、あんた」
勇者の目がこちらを向く。
「何でしょう?」
「不知火さん……真南が向かった場所に、何とかして向かえないのか。この世界の――神が住む場所に」
「ホクト!?」
喜びと驚きと戸惑いが、勇者一行に現れる。
「俺はまだ、ちゃんと返事をしていない。返事をする前に死なれても困るんだよ」
私だって、マナ様には、いろいろと言えていないことがある。
けれど――
「私は何も知りませんよ。魔王様が神を倒そうとしていることも、今知ったばかりですし」
『魔王補佐官』なんて言っておきながら、彼女が何をしようとし、していたのかを知ったのが今だとは笑えてくる。
「貴方がたはどうなさいますか? 魔王様が居なくなった以上、貴方がたの役目も終わったのでは?」
魔王は倒せなかったが、『魔王』という存在はいなくなったのだ。
「……それでも、帰ってくるのなら、この城のはずだ」
勇者がその場に座り込んでしまう。
「そうですね」
出会ったのも、この城なのだから、きっと帰ってくるのなら、この城のはずだ。
そこで、先程マナ様が言われていたことを思い出す。
「机の、一番上の引き出し……」
執務室に向かい、そこでマナ様が使っていた机の一番上の引き出しを開ける。
そこにあったのは――
『リーンハルトへ』
私宛ての手紙だった。
☆★☆
貴方が今、この手紙を読んでいるということは、私が近くに居ないということだろう。
まあ、そんな定番じみた前置きはさておき、まずは「ありがとう」と言わせてほしい。
右も左も分からないどころか、異世界転移なんていう事象に巻き込まれながらも、この世界で最初に会ったのが『魔王補佐官』である貴方で良かったと、今でも自信を持って断言できます。
『魔王補佐官』という地位なためか、何かと苦労のあるリーンハルトさんには、迷惑を掛けていたことは自覚していました。
それでも、これが実は現実ではなく、夢であるのではないか。そう思ったことが度々ありました。
この世界に来た日から五日間、城の図書室に居たからか、この世界について知ることが出来ました。
その後にあった魔族だというのに幹部の皆さんだけでなく、城に居る人たちみんなが人間である私に優しくて、部屋では少し泣いたこともありました。
勇者が、学友である
元の世界で、自分で調べて知っていたとはいえ、この世界への召喚が、それが事実だと示しているような感じがして、何故、このような形でそれが正解だと伝えてくるのだろうかとも思ったよ。
魔法が使えるようになって、数ヶ月。天霧君たちがこの城に来ることを知りました。
それと同時に、リーンハルトさんがずっと、勇者が召喚されては魔王も召喚され、事実を知り、引き裂かれる面々を見続けてきたことを知りました。
あれだけ過ごしておきながら、気付かないなんて――ううん、気付いていて、目を逸らしていたんだ。
自分たちもまた、歴代の人たちと同じように、リーンハルトさんを悲しませるんじゃないかと。
だったら、私の代で終わらせて、この無限ループから解放してあげようと思ったのです。
そのためには、この世界の神様に会う必要があると思って、どうすれば会えるのかを考えていました。
タイミングは天霧君たちが来た時で、元の世界で話せなかったことを話してから。
私たちが異母兄妹なんて知ったら、どんな顔をするのかな?
リーンハルトさんには、本当に迷惑を掛けてばかりですね。
でも本当、貴方に逢えて良かった。
幹部のみんなを始め、他のみんなにも「ありがとう」と伝えておいてください。
最後に――私は、魔族なのに誰よりも人間らしく、優しい貴方が大好きです。
☆★☆
「……『
思わず、そう突っ込んでしまった。
マナ様。私も、貴女が好きですよ。
聡明で、時折突拍子もないことを言い出したり、やりだしたり。
悪役風に演じておきながら、恥ずかしそうにこちらへ助けを求めてきたり。
「本っ当に、何で……っ!」
涙が止まらない。
今まで、こんな事は無かったというのに。
「何で、女の子から告白させてるのよ。この補佐官様は」
「フィーネさん……?」
声を掛けてきたのは、マナ様と仲の良い女性幹部のフィーネさんでした。
「何となく、察していたんでしょ? マナがターニングポイントだと」
「……」
確かに、今代の魔王であるマナ様と勇者の関係は、片方が知らなかったとはいえ、この世界の召喚に引き寄せられたものだ。
だからこそ、勇者たちが来たときに、マナ様は自分たちが異母兄妹であることを、勇者に告げられた。
「悲しんでる暇なんか無いわよ? あの子が帰ってきた時にちゃんと言ってあげないと」
「それ、はっ……」
「まさか、帰ってこないなんて、思ってないわよね? 勇者に殺されたわけでもあるまいし、何も無かったかのように帰ってくるわよ」
「そう、ですね……」
それにしても、声を掛けてきたってことは、フィーネさんはマナ様の気持ちを知っていたのだろうか。
「同性である私たちはともかく、貴方だけに名前呼びを許してるのを見たら、誰だってそう思うでしょ?」
「そうでしょうか?」
「そうよ」
何で分かんないの、という目は止めてほしい。
それに、名前呼びに関しては、皆さんがマナ様を『陛下』としか呼ばないからでは……と思っても言いません。フィーネさんからの視線が怖いので。
「ま、ライバルが増える前に、牽制もしておきなさいな。
「はっ……?」
じゃ、仕事があるから、とフィーネさんが言いたいことを言って、さっさと執務室を出て行く。
というか、『私たち』って、幹部の皆さんのことじゃ無いですよね!?
「~~っ、」
どうしましょう。どうしましょう。どうしましょう。
こんなこと、今までに無かったものですから、どうしたらいいのか分かりません。
それに、マナ様がいつ戻ってくるのかも不明ですし……。
「あ、勇者たちはどうして居るんでしょう?」
うっかり、謁見の間に放置してきてしまいましたが。
気になって、水晶を使って見てみれば、何やら揉めていた。
『何だ、実は妹だと知って、気後れでもしたか』
『違う!』
『相手は魔王だぞ! 俺たちが
『っ、』
勇者一行の男は、マナ様の話を聞いていながら、まだ『魔王』を倒そうとしているのだろうか。
他の二人――女魔導師と女神官はおろおろとしており、のんびりとした男……男? は、完全に傍観姿勢でいる。仮にも敵陣だというのに、何て自由な奴らだろうか。
「……」
仕方ない。異母兄妹とはいえ、マナ様の兄君なのだ。放置しっぱなしというわけにも行かないだろう。
「仮にも敵陣だというのに、随分と騒がしい人たちですね」
「っ、あんた……」
声を掛ければ、勇者が反応して立ち上がる。
「ずっとこの場に居られても困りますから、客室に案内します」
「……俺たちを
「誤解しないでください。貴方がたを客室に案内するのは、この城に戻ってくるであろう魔王様のためです。放置できるものなら、すでにそうしていますよ」
「……」
そう、全てはマナ様のためだ。
それがたとえ、私のためだとマナ様が言ったとしても、私は――
「帰りたければ、帰ってもらって結構です。『魔王討伐の成功』という偽りの報告と共にね」
「貴様っ……!」
『魔王』に何の恨みがあるのかは知りませんが、ずっと噛みついてきていた人が噛みついてきました。
「さて、どうします?」
「……客室に、案内してくれ。ここでじっとしていても仕方が無い」
「だ、だよね。ゆっくり休めないし……」
女魔導師がこくこく頷く。
「どちらにしろ、敵陣だから、ゆっくりも何も無いけどねー」
のんびりとした男? は、そう言いながら、こちらに目を向けてくる。
何なんだろうか。
「お兄さんさぁ」
勇者たちを、それぞれ部屋に案内し終えれば、のんびりとした男? が声を掛けてきた。
「本当に、
「貴方に、それを話す義理は無いと思いますが?」
それにしても、『
「そりゃそうなんだけどさ。仮にも
「焦る必要はありませんから」
居ないときだからこそ、私たちが頑張らなくては行けないんだ。特に今回は。
「信頼し、信頼されているんだねぇ。彼女は」
一瞬、彼の目に剣呑な光が宿ったように見えた。
「異母兄妹とはいえ、勇者の妹が魔王とか、やりにくいったらありゃしない」
こちらにしてみれば、「異母兄妹とはいえ、魔王の兄が勇者とか」なのだが。
「戻ってくると良いね。彼女」
そのまま、ぱたん、と部屋に入っていく。
まさか、勇者一行の一人に言われるとは思わなかった。
「……」
案内も終えたので、執務室に向かう。
マナ様が居なくなったというのに、仕事量はちょっと増えただけだ。
それだけで、マナ様の処理スピードとそれに伴う量の減りが凄かったのだと思う。
「補佐官様」
「フィーネさん? どうしました?」
「マナのことを思うと、あまり顔を出さない方が良いと思うんだけど」
執務室で仕事をしていれば、フィーネさんがやってきました。
「書類を届けることに関しては、どうにも出来ないからね」
「それもそうですね」
はい、と書類を渡されたので、受け取ります。
「あと、これも」
「……?」
ついでとばかりに渡された紙を見てみれば。
「フィーネさん、これって……」
「いつ戻ってくるか分からないから、マナが戻ってきた時のために、パーティーの
年単位になる可能性もあるのなら、それまでの時間を生かすべきじゃないのか。
今までの『魔王様』相手ならそんなことしないだろうが、つまり、それだけマナ様が人望を得たということだ。
あんたも何か練習しておきなさいよー、と言って、フィーネさんが執務室から出て行く。
「何をすればいいんですかね」
何をすれば、彼女に戻ってきたのだと、実感させることが出来るだろうか。
「マナ様……」
どうかご無事に戻ってきて下さい。
あれから月日が経った。
マナ様と出会った同月同日のあの場所に、私は来ていました。
去年も居なかったことから、今年も居ないかもしれない。
――でも、今年は違った。
「……ぁ」
『
「マ、ナ、さま」
そう呼べば、彼女の目がこちらに向けられる。
そして、笑みを浮かべたかと思えば――
「ただいま。リーンハルトさん」
あの時と何一つ変わらない、私の主がそこに居た。
「……あの、ハルトさん?」
「あまり、心配させないで下さい。手紙一つで誤魔化されるほど、『魔王補佐官』は甘くないんですから」
嬉しさのあまり、思わず抱き締めてしまったが、マナ様が何も言ってこなかったり、息が出来ないことを訴えるということをしてこないということは、嫌では無いということだろう。
「そうだね。考えが甘かったよ」
まさかの抱き締め返された。
「マナ様」
「様はいらないよ。『
「……初めて会ったときにやりましたよね。このやり取り」
思い出せば、二人で笑い合って、互いに離れる。
「行きましょうか。皆さんの所へ」
「そうだね」
みんなにマナ様が戻ってきたことを伝えるべく、そのまま城内へと歩き出す。
隣に並んだ、マナ様と一緒に。
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