第120話「成長の兆し」

インファイトにおいて、相手の隙を見つけるというのは難しい。

それは技を極めている達人同士でも同じ事であり、実力差のある相手なら尚更至難の技だろう。

――柔よく剛を制す。

その言葉が浮かぶ程の反射で、一人の少女はその瞬間を見逃さなかった。

それは『油断』と呼ばれる類のモノ。

「小娘、覚悟は出来ておるのじゃろうな?」

振り上げられた爪の回避が遅れ、ハーベストは頬に付いた血液を舐めながら言った。

その表情には、驚きと苛立ちという空気を纏っていた。

「フィリスッ、下がりなさいっ!」

「…………」

エルフィの声は届いたが、一度視線を動かしても下がる様子がない。

それどころか、まるで人が変わったかのようにハーベストの身体を擬視している。

腕、肩、足、首……各部位の見るように視線が動いている。

弱点や何かを探すように……。

「死ね小娘っ!――ブラッディハウリングッ!!」

ハーベストは思い切り息を吸い、叫ぶようにその場でえた。

それは超音波を出し、地面や建物にヒビを入れていった。

そしてその波は少女を包み込むように、完全に包囲したのであった――。


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誰かが戦ってる所を見たのは初めてでは無いにしても、何度見ても凄いと羨ましいと思っていた。

いつか自分も、彼らの役に立ちたいと何度思った事か。

彼女は私と同じ身体の大きさでも、魔法でも格闘でも対応していると思う。

私はまだ素人で、十分な知識はないのだけど……。

それでも私は、彼女の戦う姿に目を奪われていたのかもしれない。

「(フィリスにも出来る事……何か出来る事、ないかなっ)」

ドクンドクンと脈を打ち、身体の奥から感情が込み上げてくる。

過去の事が脳裏を過ぎり、自分だけ何もしないなんて……。

出来ないなんて事は、もう――。

そう思った瞬間、私の身体は前に出ていたのだった。


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「ほう?負傷を恐れぬか。いいぞ小娘っ!見上げた度胸じゃっ!」

「……っ!ふっ!」

「踏み込みが甘いのう。所詮は素人じゃ、なのにどうしてか面白いのう。お主にはあるのじゃろうなぁ。――地上戦の素質が、のう?」

「ぐっ!?」

ハーベストは片目を瞑って、笑みを浮かべながらフィリスの腹部を蹴り飛ばす。

全体重が後ろに掛かったフィリスには、微かに重い一撃へと変化して顔をしかめる。

「……はぁ、はぁ……ぐうっ」

「そう怖い顔をするな小娘。今のは褒めたのじゃぞ?睨むのではなく、感謝して欲しい所じゃのう」

フィリスは痛みに負けて距離を取った瞬間、そう言いながらハーベストは距離を詰める。

体重を移動に回した結果だった。

「くっ!(だめっ……避けれないっ!)」

ハーベストは掌底をフィリスに向け、回避行動の遅れている肩へと狙いを定める。

近寄って来る手は、急速になって予想から確信へと変わる。

「(くっ……やっぱりフィリスじゃっ!)」

「終わりじゃ、小娘」

「フィリスッ!」

エルフィの声が響き、フィリスが覚悟を決めた瞬間だった。

フィリスとハーベストの間には、小さな壁が生成されてその攻撃を代わりに受けた。

衝撃が空気へと変わり、フィリスは咄嗟にまた距離を取る。

「……??」

何が起こったか分からないフィリスとは違い、ハーベストとエルフィは何かを探していた。

それは魔力の痕跡を辿り、それがどこからの援護かという話である。

つまり今のはエルフィでもなく、ましてや対面しているハーベストの仕業でもない。

他の誰かのやった事という事になるのだ。

「出て来い。妾の邪魔をしたという事は、その覚悟があるのじゃろう?」

ハーベストは姿の見えない相手に話し掛ける。

人の姿は無いにしても、付近でその気配を感じるのだろう。

『覚悟、というのなら――』

「……っ!?」

ハーベストはその声に反応するように、自分の背後へと身体を向ける。

だが気配を察知するのが遅れて、その姿を視界に捉えるのが限界だった。

『――貴女の方が覚悟を決めた方が良い。ハーベスト・ブラッドフォールンさん』

そう言いながら構えを取る相手。

その容姿と瞳、そして魔力でハーベストは誰かという事を判断出来た。

「僕の仲間に手を出した罪……それを償ってもらいます」

そう言って現れたのは、フレアだった。

グッと力が込められた拳は、ハーベストの顔面の直前で止められるのだった――。

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