第119話「翠と紅の魔法使い」
アモルファスの中を調べると言っても、何処をどう調べたらいいのか。
ニブルヘイムとは隣国であり、そして敵国でもあるこの街。
石材や木材で造られた建物が多かったニブルヘイムとは対立的。
この街の建物は全て、鉄や鉱石で造られている。
ニブルヘイムが武力の国と仮定するなら、アモルファスは財力の国。
武器で言うなら、矛と盾というべき所だろう。
あくまで僕の考えであって、間違ってるかもしれないけれど。
それでもどうにかして、両国の間に平和的交渉が出来るのではないか。
そう思っているのである。
だからフリードさんに頼まれた件を含め、僕はこの街に来た。
戦争という長い歴史を終わらせる為に……。
「フレア、ちょっと良いかな?」
「ん?どうしたの?シロ」
空が暗くなり、闇が濃くなった頃。
彼女は恥じらいの表情を浮かべながら、後ろに腕を回している。
「えっと、お腹減った……」
「そういえば僕ら、この街に来て何も口にして無いんだよね。二人は体の調子とかって共有してるんだっけ?」
「そうだよ?けど少し違う所もあるんだよ」
「へぇ~、
僕がそう質問すると、彼女は片目を瞑って指を銃に見立てて示した。
「ここと、ここかな」
それは僕に向けられる。場所は、頭と胸。
「――全部一緒じゃないよ。一緒じゃないから、シロもハクもそして君も。ちゃんとした人間だよ?」
彼女はそう言うが、その表情には寂しさが混じっている気がした。
でもそれは一瞬で、僕の意識は違う場所へと向けられる。
「……っ?!」
「どうしたの?フレア」
周囲のキョロキョロと見たが、急に感じた視線を追う。
だがすぐに感じた気配は消え去り、彼女の呼び掛けに応えた。
「――いや……なんでもない」
なんでもないはずはない。
だけれど確証が無い以上、迂闊な言葉を避けるべきだ。
「そうなの?じゃあ、お散歩……じゃなくて、調べ物の続きしよっか」
「今、お散歩とか言った?」
「い、いやぁ、あはは~」
そう言葉を交わした後、僕らは街中で歩を進める。
この間にも彼女の覚醒が近づいている事は、この頃の僕には気づく事が出来なかった――。
======================================
魔法を発動するには、詠唱という時間が必要。
詠唱を破棄しても良いのだが、その場合は威力が大幅に下がる事が必然だ。
ダメージは望めないだろう。今目の前にいる相手は、そういう相手だ。
「どうしたお主。魔法が無ければ何も出来ないか?」
ハーベスト・ブラッドフォールン……その名は母から聞いた事のある名前だ。
彼女の存在は幻や伝説だと思っていたのだが、まさか実在していたとは思わなかった。
「……うるさい!――風よ切り裂けっ、ウインドカッターッ!」
「甘いのう。見え見えな技じゃ」
左右に展開した小さい風の刃。だがそれでは防ぐまでもなく、避けられてしまう。
反撃に来打撃一つ一つには、重い一撃が身体を揺さぶる。
「どうしたどうした?お主の力はその程度か?妾の思い違いじゃないと、思わせてくれんかのう?」
「くっ……舐めないで!」
「舐めてはおらん。じゃが事実じゃ」
反撃しようとした瞬間、脚払いをされて地面に倒される。
追い討ちのように、かかと落としを繰り出してくる彼女。
間一髪体勢を立て直し、若干の距離を取る。
「はぁ、はぁ……くっ(強い。かなりの実力者と聞いていたけれど、お母様の話以上に強い)」
「……そうか。お主、全力が出せぬか。妾では全力を出す気にはならないと。そういう事かのう?ならばそうじゃのう……」
そう言いながら、彼女は周囲の様子を確認する。
腕を組みながら、何かを思案するように視線を流し続ける。
「決めた。お主の代わりという事で、お主に妾の相手をしてもらうとしようかのう?のう、亜人の小娘」
「なっ。フィリス、逃げてっ!」
彼女は口角をニヤリと上げ、建物の影に隠れている少女へと向かって行く。
走って向かおうとした瞬間、彼女の姿が視界から消えた。
「――言ったであろう?お主の全力が見たいのじゃと」
いつの間にやら背後を取られ、彼女に背中に掌底を喰らわせられる。
背中から全身にダメージが広がる。
「ぐっ……ウインドランスッ!」
背後に居る彼女を薙ぎ払うように、腕を横払いで牽制する。
薙ぎ払う腕に沿う形で、風で生成された槍が彼女に飛ばされる。
「無駄じゃ。まだ足りぬ、よ?――っ」
彼女が回避行動を取った瞬間、その動きを固まらせて目を見開く。
「え?」
「――っ!!」
彼女の足元から腹部を狙うように、掌底を放とうとする少女の姿があった。
その瞳には、意識が研ぎ澄まされたような空気を纏っていたのだった――。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます