第112話「死神の魔眼」

――アモルファス。

その国で彼女が行動をして数週間が経過し、ボクの周囲で情報が流れ込む。

「オルクス様、ご機嫌は如何でしょうか?」

「イザベル。ボクはキミに会う度に機嫌を聞かれなければならないのかい?その挨拶は不要だ。ボクはまだ、王族ではないからね」

情報というのはどこで漏れ、どこから広がるのか不明瞭だ。

だからこそ、油断をするべきではない。

ボクは彼女にそう教えたはずだけど……。

あぁ、違うな。

この世界ではまだボクは、幼い子供だから何も教えてなかったか。

だとしたら、彼の存在が別の道を行っているのか。

「オルクス様、どちらへ?」

「ボクの行動を有限にするつもりかい?過保護は時を見れば、それは失礼に値するよ。ボクはそんなに信用ないかい?」

「ですが……」

「それに久しぶりの出番なんだから、楽しませてもらわないと困る」

「出番、ですか?」

「いやこっちの話だ。キミは自分の仕事にでも行ったらどうだい?そろそろハーベストの奴も、調べるのに飽きてきた所ではないのかな?」

ボクの言葉に対して、彼女は肯定する。

少数の部隊を引き連れて、ボクの前から彼女を追うと行って姿を消した。

「さて――ボク自身も、会いたい人間がいるんだよねぇ」

目を瞑って、その場所を想像する。

今居る場所はだいたい……あぁ、ニブルヘイムの領地は一応越えているのか。

という事は、この時代でも生きているバーデリアにも会ったって事か。

とは違う道を進んでいても、まぁ多少の修正は効くだろう。

時代というのは、変化がなければ面白くない。

「――彼の魔眼を取り込んだキミの位置は、ボクだけが把握出来る。キミが表でボクが裏だ。太陽と月。生と死。その様々な対比の左右にボクらは居る。『彼』……には悪いけど、そう簡単に上手く行く人生なんて、いつの時代にも――無いよ」

目を開けた瞬間、周囲がノイズ音に包まれる。

「――お前、どうして此処に居るっ」

変わり果てた景色だが、どこか懐かしい景色。

その向こう側で、ボクを見て驚いたような表情を浮かべる人物。

その人物にゆっくりと近寄り、ボクは中空で彼に指先を向ける。

「……また会えて嬉しいよ。けど、キミはもう居なくても良さそうだよ?

指先から出た影は、迷う事無く彼を包みに行く。

「くそっ!イフリートッ!燃やせっ!」

『承知ッ!』

「炎の番人。それに風の妖精か。ボクが知らない間に、また仲良くなったんだね?嬉しいよ。かつてのキミ達は、争ってばかり居たのにね」

灼熱の炎はボクの視界を阻み、彼を包もうとしていた影は風の刃によって断ち切られる。

風と炎の竜巻が周囲を包み、視界が完全に塞がる。

『バースティア王、此処は引くべきだ。風の、貴様にを任せるぞ』

「合点。行くよ、フレア。この世界のバランスも崩れ始めてる!急ごう」

「あぁ……(思ったより来るのが早かった。あいつは何をしてるんだ?皐月)」

気配が消えた。

目の前の番人を消さないと、彼を追う事は難しいという事か。

面倒な事だ。

「イフリート、と言ったね。キミに怨みは無いけどさ、邪魔するなら消すよ」

『やってみろ、人間。我が地獄の業火、特と味わって逝くといい』

「人間?――ボクが?そう見えるのかい?火精霊っ!」

目を見開き、瞬時にイフリートの間合いに入る。

思い切り殴ったけど、効果が浅い。久しぶりだから、調整が難しいという事みたいだ。

「仕方ない。ボクを侮辱した罪、キミにも背負ってもらおうかな」

『き、貴様、その眼は!?』

揺れる炎に映った瞳。

その瞳には、死神としての象徴のように。

黒い魔法陣が万華鏡のように広がっていたのだった――。

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