第113話「消え行く花火は静寂で」
「き、貴様、その眼は……」
「……ボクの邪魔をするつもりなら、精霊だろうと神だろうと許さない。重複した存在は、その世界のバランスに支障を出す。ボクからしてみれば、彼の存在こそが間違いだ」
イフリートはその瞳を恐れ、距離を取りながら燃える岩を放つ。
複数の銃弾のように放たれたそれは、オルクス目掛けて飛んでいく。
だが……何かに邪魔されるように岩は真っ二つになっていく。
「ボクに当てたい。そんな意志が伝わってくるけれど、ボクはそれを否定する。意識を殺す。全てを喰らって、全てを殺す。排除、除外、選別、区別――そして滅却」
オルクスはニヤリと笑みを浮かべ、その場から飛んで向かう。
空中で手を伸ばしたと同時に、黒い魔法陣がイフリートとの間に数枚重なる。
「――我、契約に従い、彼の身を穿つ」
オルクスはそのままの姿勢で、魔法陣に手を重ねる。
イフリートを見据えながら、イフリートの奥へと目を細める。
「先へ行かせる訳には行かぬ!我が炎に焼かれ、あの世へ行くのだ!魔眼持ちっ!」
……『魔眼持ち』
それは魔眼保持者を該当する言葉であり、精霊たちの間で呼称されているものだ。
オルクスはその言葉を聞き、またもニヤリと笑う。
「……ありがとう。でもキミじゃ、ボクを殺す事は不可能だよ。
そう呟いた瞬間、オルクスの手元には黒い弓が出現する。
その弓を持ち、ゆっくりとその糸を引いていく。
それにつられるように、黒い魔法陣は集束していく。
黒い影はオルクスの持つ弓を包み、一つの弓矢となった。
「――そうか。貴様が、オルクス・ゲーターか。この世界のバランスが崩れた原因の一つであり、我が主が言っていた者か。……そうか」
オルクスは眉を寄せ、イフリートの事を見据えた。
だが弓は放たれ、黒く染まった弓矢はイフリート目掛けて飛んでいく。
真っ直ぐに、何も遮る物はない。
そしてイフリートの胸に、矢は突き刺さった。
「キミ……何か知ってたね。彼から何を聞いて、再契約したのか。どういう事か、聞かせてくれるかな?キミが、避けなかった理由」
ゆっくりと倒れるイフリートは、両手を広げて受け止めるような姿をしていた。
「……」
返事はなく、灰になっていく姿。
「――バァァァァスティァァァァァァアアアアアアアアアッッッ!!」
その姿を見た瞬間、オルクスは心の底から名を叫ぶのだった――。
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――その声は怒号だ。
何をそんなに叫んでいるのか、自分で自覚している事だろう。
「いいの?」
「何がだ」
「イフリートとの契約を、あんな事に使って。まぁ言う事を聞いたイフリートもだけど」
肩に乗るシルフィは、何やら心配そうな表情を浮かべている。
寧ろ、ここは怒る所だと思うのだが……。
そう思った所で、オレ自身の目的を止めるつもりは毛頭ない。
「他の世界でどうなったかは知らないが、奴の事はまだ覚えているのか?」
「……奴?奴って誰?」
オレの言葉を聞き、首を傾げて問い掛ける。
自分自身にも、それは問い掛けるべき案件だ。
忘れたまま、というのは存外寂しいものだ。
「んっ――気配が近くなってるよ」
「あぁ、気づいている。少々こちらも移動速度を上げる。今あいつに構っていたら、儀式が出来なくなる。急ぐぞ」
「分かった!」
シルフィとオレは、空へと飛び立つ。
風の魔法で空中を進んでいく途中、振り返ると壊れていく建物が見える。
イフリートが消えた事によって、その存在がある意味が無くなった結果だろう。
「さよならだ。イフリート……」
一言そう呟き、オレは目を瞑って意識を集中する。
創られた翼が生え、オレはその場から旅立つのだった。
炎の翼、その命と思いを背負って――。
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