第104話「陽の光」

「……はぁ、はぁ、はぁ、はぁ……」

『ハク、大丈夫?』

肩で息をしながら、相手を見据えるハク。

だがその様子を見て、我慢出来なくなったシロは入れ替わろうとするのだが……。

『――ハク!代わって!もう体力も限界だし、傷だらけだよ!お願いだからっ』

「……シロ……それは出来ません」

だが頑なにハクはそれを拒むのだ。

真っ直ぐに目の前の少女を見つめ、再び小さく呼吸しながら体勢を整える。

その様子を見ながら、少女は首を傾げるのだった。

「――どうして、そこまで?お姉さん、『弱い』のに」

弱い、などと言われて引き下がれる訳が無い。

だが事実。今の今までは防戦一方の状態でしかない。

やはり魔法戦と格闘戦では、天と地ほどの差があるのだろう。

「……何を言っているのか分からないですね。私はただ、小手調べをしていた所ですよ?」

軽いステップをしながら、ハクはそんな事を言う。

「お姉さん、何で戦うの?」

「それはそっくり返しますっ!」

ハクが勢い良く間合いを詰め、少女の懐に入ろうとする。

だが少女は一歩も動かずに、それを操って彼女へと牽制けんせいする。

地面を這いずってくるのは茨。

少女の目の前に広がり、攻撃する度にそれは壁を作ってしまう。

当たるどころか、通る事すら怪しい状況だ。

「無駄だよ、お姉さん。魔法が魔法でしか対処する事は出来ない。小さい頃に習う基礎中の基礎だよ」

「……そうですか。私は小さい頃、才能が無かったから、それを補う為に訓練していたからっ!――そんな事も知らないのですよっ!」

ハクはそう言いながら、力強く地面を蹴る。

『……ハク……(どうして、そこまでするの?今のままじゃ……)』

――昔からそうだった。

ハクは、一度決めた事は最後までやり遂げなくては気が済まない性格だ。

その性格を知っているから、シロはこれという場合ではない時には戦わせないようにしてきた。

今も、そして昔も……。

でも今、自分の立ち位置から徐々に離れて行く彼女。

その背中は近いけど、凄く遠い存在になってしまった。

あの赤い夜に、シロとハクは別離するはずだったのだから……。

でも現実はそうではなく、シロとハクは魂の共有に成功した。

『だからこそ、なのに……』

一つの身体を共有するという事は、ただの二重人格よりも厄介な事だ。

だけどハクは、それでも笑ったのだ。

また会えて嬉しいと、泣きながら言ってくれたのだ。

「お姉さん……これでお終いにしよ」

少女がそう呟き、地面から出てきた茨は絡みつく。

まるで蛇のように、ハクの身体全体を拘束し絞めつける。

棘が刺さりながら……。

血が滲みながら……。

「……ぐっ……あぁぁぁぁああ!!」

両手両足が引っ張られ、骨が軋むように激痛が全身に走る。

シロはそんなハクに向かって、深層世界から走り出す。

手を伸ばして、その背中を追う。

だけど届かなくて、輝いていた光が徐々に消滅し始めた時だった。

「――そこまでにしてくれないか、エルフィ」

「……っ」

咄嗟に聞こえてきた声が、その消滅しかけた光よりも眩しい光を出すのだった――。

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