第79話「介入する剣士」
同じ事を二度以上言われるのは、個人的に嫌いな事の一つだ。
やる気もないのに、やる気を強要されたりとか。
自分で自覚している事を、あえて他人から言われる事とか。
個人が思っていない事があるのに、独断と偏見で言われたりとか。
「……つくづく嫌になる!」
僕はディグル将軍の懐に入り、身体の一部に触れようとする。
だが彼は僕の手に触れないようにして、身体を捻って槍で
薙ぎ払われたら、かなりの勢いで叩きつけられる。
中距離の範囲で当てられてしまうのだが、当たらないようにすれば近づけない。
捨て身で向かっても良いのだけど、後の事を考えると無駄な行為になる。
「そういえば、君の名前を聞いていなかったな。君を騎士と見立るのは不本意だが、私は騎士なのでね。名乗って戦うというのは、強者同士の対談でもあるのだよ?」
「そう言っておけば、僕の名前を聞き出しておく。その後に貴方の王に、僕の存在を伝えるというのも考えられますね」
騎士道に則るつもりは、僕には毛頭ない。
大体戦っている最中で、相手の事など気にしている暇はないだろう。
たとえ名乗ったとしても、逃げすつもりは決して無いのだけど……。
「貴方は本当に強いですね、ディグル将軍。負傷している癖に、良くそこまで動けますね。彼女に致命傷を受けたと聞いていますけど?僕の聞き間違いでしょうか?」
土の精霊から聞いた内容では、彼女から受けたダメージは相当な物と聞いている。
だけど見た目を見ていたし、戦っている最中に何度か確認しているけれど……。
そんな様子が見当たらないのだ。
我慢しているのか、それとももう傷が治っているのだろうか。
どちらにせよ、後者は多分無いだろう。
どんな傷であろうと、回復魔法でもなければ数時間で治すのは不可能だ。
セイラム騎士団は、魔法使いを狩る集団でもある存在。
それはつまり、魔法を使う事を避ける可能性もある訳だ。
「少年、君は何故戦っているんだ!それほどの戦闘能力があるのならば、我々と供にこの世界を平和に導く事も出来るはずだ!」
「平和と言って置きながら、人を殺す行為を許すと思うんですか!貴方がやった行為は、虐殺でしかない!その行為は罪人のやる行為だ!」
「あれは尊い犠牲だ!何かを得る為には、何かを犠牲にしなければならない!数多くの者を救う為には、少数の犠牲で達成出来れば無駄死にはならない!」
……世迷言だ。
それはつまり、最初から犠牲にするつもりだったという事だ。
犠牲を出したくないと思っているのならば、あんな小規模な爆発に組み立てるはずがない。
ピンポイントに狙っている砲弾だからこそ、あれは仕組まれた爆発でしかない。
信用出来ない。出来る訳が無い。
「それでも貴方は、貴方たちは彼らを殺した事に変わりは無い!」
「あれは私の意志ではなく、王の意志だ!我々は王の決定に従うのみ!それが我らセイラム騎士団だ!」
「だからそれが、ただ虐殺だと言ってるんだよ馬鹿野郎っ!!!」
僕の叫びはその場に響き、突きつけられた槍が頬を掠める。
そのまま拳は彼の腹部に打ち込まれ、全体重で壁に圧し付けたのだった。
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ニブルヘイム、ムスペル城内。
「何やら外が騒がしいな、何事だ?」
『はい。聞いた話ですが、街の中でディグルと何者かが交戦しているとの事』
「ほう?傷が癒えているとはいえ、戦える余裕があるのは良い事だ」
紅茶を飲みながら、不敵な笑みを浮かべている。
このニブルヘイムとムスペル城を支配する者は、絶対的な強者ともいえる存在がなる。
そういう決まりのような物が、この国には存在している。
『武力を以って、世界を支配する』という事といえるだろう。
それに相応しい力を持つ者が、その玉座に君臨しているのだ。
その玉座に君臨する男の姿を覗く、一人の剣士もいる。
「だが戦況のような物が気になるな。おいフリード、貴様が様子を見て来い」
金髪に近い薄い色の髪。痩せていても底知れぬ強さ。
それを纏っている空気が、身体の中から溢れ出ているようだ。
彼の名はフリード・マルティスという。
「私が見に行った際、戦況が不利と思った場合は?」
「即斬っても構わん。力無き者に、生きる価値はない」
「――――仰せのままに(下衆が)」
一礼をしたフリードは、そんな事を思いながら城の外へと出る。
城の外へと出た途端、彼は入り口に立っている男の姿を見て目を見開いた。
それは負傷しながらも、まだ立ち続けているディグル将軍。
傷は付いていても息切れだけで、それを対峙するように立つ少年の姿。
フリードは呼吸を整え、ゆっくりと剣を抜くのだった。
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