第62話「白き少女」

月が昇った空を見上げながら、僕は何も考えずに歩き続ける。

まるであの時の夜のようだ。

少し違うのは、騒々しい人の声が無いという事と僕一人という事だ。

何故あんな事を言ってしまったのだろうか。

気が動転してたとしか言い様がない。

まずは落ち着く所から始めなければならない。

だからこうして、夜風に当たっているのだろう。

頭を冷やし、修道院に帰らないといけないのだから……。

「キール……許してくれるかな……」

?――。

そう呟いた瞬間、村の端にあった湖の上で踊る少女を見た。

水の上で優雅に踊るその姿は、とても綺麗で儚く見える。

まるでこの世の者ではないような、そんな雰囲気を纏っている。

「……あの……」

「――何か、用ですか?」

白く長い髪。

透き通るような瞳。

その小柄な少女に、僕は目を奪われてしまった。

「いや、こんな所で何をしてるの?」

「……空を見ていたんです。綺麗だったから」

再び笑みを浮かべて、少女は真上を眺める。

僕も同じように空を見上げる。

元々居た世界でも見れなかった星が、満天に広がっている。

プラネタリウムのように……いや、それ以上と言っても良いだろう。

「――貴方はまだ、違うようですね」

え――?。

耳元で囁かれた瞬間、振り向いたら誰も居なかった。

あるのは夜風に沿って流れる花びらと、波紋のように広がっていく水面。

「――ここに居たのですか?」

「……あ、シスター……」

もう一度周囲を確認しても、少女の姿は見当たらない。

「行きましょう、フレア。皆さんが待っていますよ」

「うん……分かった」

僕は伸ばされた手を握り、歩きながら後ろを見つめる。

これは夢だったのではないかと思うほど、僕はボーっとしていたらしい。


……翌日。キールとは仲直りする事は出来た。

少し口論はしたけれど、僕が一方的に悪いとシスターに言って弁解した。

こっ酷く怒られた僕は、二度と他人ひとを傷つける事は言わないと誓った。

「フレア~、早く遊ぼうぜ~?」

「待ってよ。この勉強が終わるまで」

「毎回思うけど、何の勉強してるのさ」

「魔法だけど?」

淡々と答えたら、何故か時が止まったような顔をしている。

何かおかしな事を言っただろうか。

「魔法は、国の許可が無いと学んではいけないのですよ?それをフレアは、学んでいると言う事ですか?」

食堂にいる皆が僕を見て固まっている。僕はゆっくりと首を縦に振る。

その瞬間、僕は昨日と同じように正座をさせられたのだった――。


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「……」

『おい、聞いたか?アモルファスがまた仕掛けてくるってよ』

『本当か?勘弁して欲しいものだな、蛮族の連中も』

「――――」

声が聞こえる。

長い眠りから醒めた感覚だけど、いつから私はここに居るのだろうか。

カチャリカチャリと、身体を動かせば地面を擦る音が聞こえる。

他の誰でもない。自分の身体付近から……。

手足に取り付けられた鍵付きの錠。しかも鉄製。

霞んだ視界のまま、周囲の様子を確認する。

『しかしなぁ、俺たちはいつまでこの化け物を見張ってればいいんだ?』

『上の命令だ。俺たちはそれに従うだけだろ?それに手足の自由を奪われたガキなんて、ただの奴隷と同じだろうよ。心配する必要はねぇだろ』

『それもそうか。はっはっはっは!』

鍵の付いた鉄の檻。

上下左右を確認しても、石で造られた密閉空間。

出口は一つで、出る事を考えると難しい所ですね。

「…………」

動こうとしても、やはり解ける気配はない。

そして無駄に身体に絡み付いて、身動きが困難になってしまった。

どうしよう――。

そう考えていても、良い考えが浮かばない。

お腹も減っているし、頭が働かない。

「うぅ……」

絡まって動けないから、虫のように這いずる。

『おい、食事だが……これはどういう状況なのだろうな』

『手助けした方がいいのか?』

『やめとけよ、こいつは一応化け物と言われているんだぞ?』

『でも泣きそうだし……』

檻の向こうから、哀れみの声が聞こえて来る。

そんな目で私を見ないで欲しいです。


――私はシロといいます。

良くは分かりませんが、どこかの牢に閉じ込められているらしいです。

夢の中で会ったあの人は今頃、何をしているのだろうか?

あの寂しそうな顔をして、魔力が私より高い彼は……。

何者なのだろうか?


そんな事を考えている内に、私は絡みついた鎖を解くのでした。

「ありがとうございます。けど、ごめんなさいです!」

『……っんぐぅ』

『……ぐぅぅぅ~』

眠りにつく魔法により、目の前で二人の兵士が倒れる。

「あ、しまりました!鍵があんなに遠く!?これじゃ出れません!」

牢屋の中で、その日はもがく事しか出来ないという結果で終わりました。

何故捕まっているのか、調べなくてはなりません。

私にはやるべき事がある。

――それは……。


数日後に起きる、戦争を防がなければいけないのである――。

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