第43話「休息」

自分の事が好きか?と聞かれれば、僕は絶対に嫌いと答えるだろう。

僕の持っている能力は、触れたモノを消滅させるという能力を持っている。

何故、この能力が目覚めて僕のモノになったかは分からない。

ただ分かるのは、あの頃から感情に反応する節があるらしい。

らしいというのは、僕の考えではなくて他人の考えだからだ。

他でもない、彼女が言うのだから――。

「……それでイザベル、僕の能力が呪われているってどういう事?」

「世の見解でよければだが――少年の能力は、かつての戦争で失われたはずの能力だからだと聞いている。他ならぬオルクス・ゲーターからな」

「失われた能力?」

「能力は魔法とは違い、個々が所有している自己能力というモノが存在する。世の場合は、依り代さえあればどの時代にでも存在出来るという事だ」

「それが僕の場合はこれか……ん?依り代って事は、エルフィは生きてるの?」

「世は死んだとは言っていないし、死んでいるかもしれない」

「何で曖昧なのさ」

昨日の会議を抜け出してしまった所為で、決まった内容は知らない。

だからこうして決まった事をイザベルから聞こうとしていたのだが、僕は個人的に能力について聞いていた。

自分の事をより詳しく知る為に……。

「曖昧なのではなく、不安定なのだよ少年。だが彼女の身体はこうして生きているからこそ、世がこの世界で魂を維持いじ出来ている。もしかすれば気づかない間に、夜中に世と入れ替わっているかもしれないな」

イザベルは、悪戯な笑みを浮かべてそんな事を言ってきた。

そうか……じゃあ昨日の夢は、もしかしたら現実だったのかもしれないなぁ。

「どうした?少年よ、世の顔をじっと見つめおって」

「あ、いや、なんでもないよ。……」

僕の見た夢は、一体なんだったのだろうかと思ってしまう。

あれは過去なのか、未来なのか。

僕はあの夢がなんとなく、未来だったらいいなと思うようになったのだった――。


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オルクス・ゲーターという少年は、かつての仲間だったという事実は変わらない。

だがそれによって、何かを躊躇してはいけない気がする。

邪魔をしてはいけないとは思っても、邪魔しない訳にはいかないのだ。

あの頃に戻れれば、こうも悩まずに済んだと思うのはわらわだけだろうか。

「――黒龍よ、妾はどうすればいのだろうな」

薄暗い雲の上を進み、自分がどこへ向かっているのかも分からない。

彼は何を考えて、何をしようとしているのかが分かればいい。

「……さて、どうすれば良いかのう」

先日聞いた話では、約束の日時は今日だったなと思い出した。

妾はそう思い、身を預けていた龍の背を軽く叩く。

「おい黒龍よ、ちょいと行き先を変更じゃ。王都へ行くのじゃ、今はドミニオンじゃったな。頼んだぞ、我が眷属よ」

もしかしたら、王都へ行けば彼に会えるかもしれない。

オルクスではなく、フレア・バースティア王という眷属に。

「(今頃、あやつはどうしておるかのう)」


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「私が手伝う事はありますか?」

城内の一室。

その部屋で暮らす姫君、スコーリア姫へそう尋ねる。

私の仕事は彼女の護衛という役目もあり、身の回りのお世話という役目もある。

それを完璧にこなさなくては、亡くなったメイドたちと顔向けが出来ない。

「大丈夫よ、ルーシィ。働きすぎよ、少しは休んだら?」

「そんな、姫様の方が働き過ぎです。むしろ休んでください」

「え、嫌よ。アタシが休んだら王女として問題でしょ」

私が仕えるお姫様は我儘ではあっても、不真面目ではないのが好意を持てる良い所ではあるのだが……。

なかなか休もうとはしません。

「そうは言ってもですよ?あの少年がまた現れるのは今日なのですよ?少しでも身体を休ませておかないと、万が一があっては……」

「ルーシィは心配性だなぁ。アタシも休む時は休んでるし、そんな心配はいらないわよ。気持ちだけ受け取っておくわ」

「ですが……詰めすぎていたから、皐月様ともすれ違ってるのではありませんか?」

「なっ……何でそこで皐月が出てくるのよ?あいつはこの街の人間じゃないんだから、関係ないでしょう?」

私はその言葉を聞いた瞬間、自分でも珍しいぐらい反論を続けてしまった。

「この街の人間じゃなければ、誰でも関係ないと、そうおっしゃるのですか姫様は!」

身を乗り出して、私はメイドとは思えない行動をしてしまっている。

自覚はしているが、私は曲げるつもりはない。

ここで曲げてしまったら、彼とその彼の仲間たちと姫様の活躍。

その全てが否定する事になってしまうから、『関係ない』などという一言には片付けて欲しくないという私の気持ち。

「わ、分かったわよ。少し頭を冷やしてくるわ、その間、アナタも休んでおくのよ!いいわね?」

「……っ。はいっ!」

姫様は頬を少し赤くしながら、そう言って部屋を出て行った。

部屋に残った私は、開いている窓から流れ込む風に背中を押される。

姫様が集めていた書類が、花吹雪のように舞い上がってしまった。

「――私の休みは、もう少し後みたいですね」

その一言だけ呟いて、私は散らばった書類を早々に集めるのだった――。


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「灰は灰に、塵は塵に。――さて、時間だよ?人間諸君」


世界全体に広がった魔法陣は、闇を象徴するような紫色に輝いていた。

彼らと接触するまで、あと数時間――。

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