ギルティブレイク ~Guilty Break~(再考の為、休止)

三城 谷

序章【異世界へ。そして……】

第1話「転生」

――生まれ変わったら何になりたい?

そんな事を考えた事があるだろうか。

『如月~、これから遊びに行くけど来る?』

「……」

学園の中が騒がしく、クラスメイトにそう声を掛けられる。

『やめとけ。そいつ付き合い悪いからな。諦めろ』

クラスメイトの一人がそう呟く。

何も答えずが悪かったのだろう。すぐに教室から出て行ってしまった。

追い掛ける義理もないから、そのまま彼らとは逆の方向から昇降口へ向かう。

靴を取り――学園の門をくぐる。

「……はぁ」

オレンジ色に染まりかけている空を見上げ、溜息を吐きながら歩みを進める。

もし生まれ変われるとしたら、普通の人間になりたいと僕は強く願う。

僕は普通ではない。一種の化物である。

石を投げられ、暴力を振るわれ、罵られる毎日だ。

この手にはもう黒く染まり、逃げられない事実がある。

「――ただいま」

鍵を開けて中へと足を入れてそう言った。だが返事はなく、部屋全体は薄暗いままだ。

それも当然なのだ。両親はいないのだ。

この場所にも、この世界にも……。


シャワーを浴びてベッドへと寝転がり、目を瞑るが眠れない。

気づけば夜になり、外はもう真っ暗だ。

テレビを見ようとしても興味のない番組ばかりだ。

飽きてしまった僕は外へ出ることにした。

こんな時間に出る理由もないのだが、暇つぶしにはちょうど良いだろう。

繁華街に出た途端、家の静寂とは違い、遥かに賑わっていた。

勧誘の声、路上ライブの声、そして様々な談笑。

僕はゲームセンターに入って適当に遊ぶ事にした。

一人で遊ぶのは苦手ではなく、むしろ好きな方だ。

一人の方が、誰にも合わせなくて済むし楽だから――。

「……??」

格闘ゲームをしている時、僕の画面にカットインが入る。

どうやら乱入してきたようだ。僕は横から見ようとするが、対面な所為で隙間から手元しか見えない。

「(小さい手だな)」

僕はそう思ったが、何も考えずにプレイする事にした。

数分後に勝ちと判定が出たが、かなり苦戦を強いられた。

対面に座った対戦相手はかなり好戦的で、コンボも無駄もなく緊張感のあったゲームだった。

僕はそんな腕前のある対戦相手が気になり、立ち上がって対面席へ向かおうとした。

「……キミ、強いんだね!」

え……――?

立ち上がった瞬間、そんな声を掛けられる。

僕は振り返り、その声の主を確認したが驚いた。

先程の小さい手の正体は、僕よりも年下と分かるほどの少年だった。

「君こそ、かなり上手かったね」

僕は出来るだけ笑みを浮かべてそう言った。

「ボクはこの世界で負けたのは初めてだったからね。正直驚いちゃった」

この世界で初めて?

こう見えてこの子は、相当な実力者なのだろうか?大会優勝者とかだったりしたら、かなり嬉しい結果だ。

僕はそのまま時間を忘れ、その子と共に様々なゲームで遊んだ。

時間も遅くなって僕はその子を送ろうと提案したら、その子は快く了解をしてくれた。

だが真っ暗な帰り道の中で、僕が予想していた事が起きてしまった。

『――ここを通りたきゃ金出しな』

「……逃げるよ!」

僕は手を取って、力の限り走った。

「何で逃げるの?」

「は?……危ないからに決まってるだろ!」

走りながらそんな事を言う。あんなチンピラと関わっても、良い事なんて起こる筈がないのだ。そんな事は分かりきっている。

真っ暗な道の中で、僕たちは追い詰められるようにして路地裏に入ってしまう。

小さい手を握りながら、先へ先へと走り続ける。

「はぁ、はぁ、はぁ……」

体力の限界に達し、僕たちは壁に寄り掛かり座り込んだ。

……完全に息が上がっている。これ以上ないぐらい肩が上下していた。

『……逃げ足は速いみたいだけど、この辺に詳しくねぇみてーだなぁ。ははは』

――っ!?

数名だけだと思っていたチンピラは、いつの間にか十人を超えていた。

「……(行き止まりっ……どうすれば)」

そんな事を考えても、打開策は頭に浮かぶ事はない。不安は焦りを呼び、頭の中が真っ白になっていく。

走ってくるチンピラ、蹲る小さい身体を交互に見る。

その状態が遅くて、まるでスローモーションのように再生されていた。

ここをどう切り抜ければ……どうしたらいい!

このままじゃ暴力を振るわれる……あの時のように。


『ははは!無力を苦しめよ、ガキがっ』

『しっかし何にもねぇな、この家……おいテメェ、金目の物はドコだぁ?あぁ?』


フラッシュバックのように、僕の頭の中に映像が浮かぶ。

黒い影が叩きつけて来る度、目の前が赤く染まっていく。視界が歪んでいき、暗く闇へ、闇へと沈んでいく。

どこか深い落とし穴に落とされるように、意識が遠くなっていく。

……殺してやるっ……憎い、憎い……。

映像にヒビが入り、僕の意識は暗く深いモノに絡みつかれていった。

『ははは。運が悪かったなぁ、こんな時間にここに来なきゃ良かったのにな。なぁ?』

その声に反応するように、周囲に笑い声が響き渡る。

胸倉を捕まれて、僕は俯いたまま体が宙に浮く。

「……」

『どうした?怖くて声も出せねぇか?ああ?』

そんな声も聞こえない。……視界にノイズが走り、灰色に染まっていく。

「(そうだ……あの時みたいに……)」

――ははは。

『あぁ?何笑ってんだ?怖すぎて可笑しくなっちまったか?』

そう言いながら、チンピラは胸倉を掴む手を強くした。

だがそんな事はもう、どうでも良くなっていた。

「……ねぇ」

『あ?ガキは口出すな。痛い目に合いたくなかったら、黙ってろ』

チンピラは睨み少年に脅した。だが少年はニヤリと笑みを浮かべ、言葉を続けた。

「キミらに忠告してあげる。今すぐその手を離さないと後悔する事になるよ?」

『何、意味不明な事言ってんだ?』

――簡単じゃないか。同じだ。あの時と……。

「今すぐ離れた方が良い。命を落としたくないでしょ?」

『ぐっ……っ!?』

少年の忠告は正しい事がすぐに理解出来た。

何故なら掴んでいたはずの腕が、気づいたら木っ端微塵になっていたからだ。

『あぁぁあぁあぁあぁあぁぁぁっ!!!』

何をされたかを理解したチンピラは、無くなってしまった肩を掴みながら叫んだ。

「……簡単。簡単なんだ……」

呟きながら、チンピラにゆっくりと近づいていく。

『ひっ……た、たすけてくれっ……』

『コノヤロウッ!』

『化物めっ!』

逃げる者は逃げて、抗おうとする者は一人の少年を囲むようにして、チンピラは一斉にバットや鉄パイプを振り下ろす。

「……壊してしまえば、良いんだ。全部……」

手を伸ばし、チンピラの一人の武器を掴む。

掴まれた武器は砕け、その場に何もなかったかのように消え去った。

「凄い……キミはボクの思った通りの人間だ」

チンピラを一人で相手する彼の背後で、少年はそう呟いた。

数分後、その場所は跡形もなく無人になった。

壁には血が飛び散り、彼の足元には人間の姿とは思えない死体の山が出来ていた。

「…………」

彼はゆっくりと振り返り、光の無くなったその瞳に少年の姿が映る。

空虚な瞳を見据え、小さなその手を伸ばす。

その手を観察するようにして視線が動く。

「大丈夫だよ。如月皐月……ボクはキミの味方だよ。さぁ」

「……」

そう言って、少年は彼の頬に触れる。

光を失っている瞳から、温かいモノが頬に伝う。

「泣いているのかい?キミに罪はない。だけどボクは、キミの選択を咎めなければならない。立場上、仕方ないんだ」

「……ぼく、は」

力の無い声を発した彼の瞳には、だんだんと光が戻り始める。

「大丈夫。でもキミはもう『この世界の理』を破ってしまった。だからボクは、キミに罰を与えなくてはならない。でも安心して?ボクは寛容だから、少し手を加えてあげる。『次の世界』でキミの力をその世界の為に使ってくれたら嬉しい」

視界がはっきりとした時、僕は手を握られていた。

灰色から色の付いた世界になって、意識がはっきりとし始める。

周囲を見渡した途端、僕は自分が何をしたのか理解が出来た。

――またやってしまったのか、僕は。

後悔した頃には既に遅い。僕はまた、取り返しの付かない事をしてしまったのだ。

一度ならず、二度までも……。

「……くっ……」

「キミの能力はキミの意思で変化する。でもキミは悔やむ必要はないよ」

「君は何者なんだ?君は……」

落ち着いている。そんな少年を見て、僕はそう問いかける。

少年は笑みを浮かべ、優しい表情をしていた。

「ボクは……リン。神様かな。キミはルールを破ってしまったんだ。だからボクは、キミに罰を与えなければならない」

リンは神様と名乗ったが、不思議と僕は疑う事はなかった。

リンの手が暖かくて、包まれているように安心するからだ。

「ボクは世界を監視と審判をしなくちゃならない。ボクはずっと前からキミを視ていたよ、小さい頃からずっと……。だけど神であるボクは、一人の人間に干渉する訳にはいかないんだ。あの時も助けてあげたかったけど、そこは許して欲しい。でも今回は少し特殊でね?キミはもう半分、人間ではなくなっているのは理解出来る?」

「……」

僕は自分のした事を振り返り、すぐに頷いた。

リンが言っているのは多分、この能力の事なのだろうと直感したからだ。

「キミは一種の異能力者になった。ならこの世界の理から片足だけはみ出ている状態なんだ。だから今回、ボクはキミに干渉出来るようになった。キミにはもうこの世界で生きるには苦し過ぎる。だからボクがキミを……――」

リンは手を伸ばし、僕を抱き締めた。光に包まれ、リンは耳元で囁くように言った。

「――生まれ変わらしてあげる」

そう言った瞬間、ノイズのように世界がブレ始めた。真っ暗になっていき、まるで別の空間のように変化していく。

周囲は移り変わり、地球が足元に浮かんでいる。

「生まれ変わる?」

僕はそんな周囲の変化に追いつけずだったが、気になった部分を聞いた。

「文字通りの意味だよ。その世界じゃ、キミは異端者なんかじゃない。けど少し……苦労すると思う。でもキミを疎ましく思う人は、比較的少ないと思うよ」

「……僕はまだ、生きていいのか?」

「もちろん。キミは生まれ変わって、その能力の使い方を良い方向に使えばいいだけ。呪われた能力じゃない、要は使い方次第なんだ。キミの意思一つ、それは善にも悪にもなる。キミが望まないなら、ボクはキミの存在を抹消しなければならない。でもそれはボクは嫌だね」

「…………」

どうしてそこまで……。

そう思った瞬間、リンは口を笑顔で口を開く。

「キミとボクは、友達じゃないか。ボクと遊んでくれたお礼だよ……それじゃあね」

「……っ!」

頭を撫でられた途端、足元に大きな穴が出現する。僕はそれに吸い込まれるように落ちていき、手を振るリンの姿が徐々に小さくなっていく。

「――リンっ!!」

「……」

返事をしていない訳じゃない。ただ届かないのだ。

手を伸ばしても、僕の意識が長くは続かなかったのだ。

強制的に視界が歪み、別の何かに引っ張られていくように身体が軋む。

徐々に抗えなくなり、僕は静かに目を閉じるのだった。

…………。

……。


======================================


彼の姿が見えなくなると共に、空間が閉じていく。

「……またね。ボクの初めての友達」

それにお別れするように、ボクは小さく呟く。

振り返れば、青く大きな球体がゆっくりと回転している。

――綺麗な星だ。

素直にそう思うよ。

思うけど、この世界は傲慢でしかないんだ。

「リン……」

「覗き見とは、随分と趣味が悪いじゃないか?クロ」

地球の上で座り込んだ時、ボクとは違う神様が現れた。

名はクロノス。時を統べる神であり、ボクが略称でクロと呼んでいる存在だ。

だが仲間ではなく、ボクとクロとの間には大きな溝がある。

「人間に干渉するなと忠告したはずだが?」

「ボクは仕事はしただけだよ。ボクはキミと違って、人間が大好きだからね」

「……くだらん。人間で関わって、我々に何のメリットがある。余計な手を加えれば……」

「そんな事はどうでもいいよ。キミには関係ない」

ボクはそう言って、クロの言葉を遮った。

これ以上の言い合いは、無駄だと理解したからだ。

クロは人間の存在自体を疎ましく、そして忌み嫌っているのだ。

ボクの思想とは、決して相容れる事はない。

人間は面白い。様々な困難も乗り越える事が出来る。

何せボクは、彼を小さい頃から知っているんだ。

彼の存在のおかげで、ボクはクロの思想に反抗する事を覚える事が出来た。

――如月皐月。

キミはこれから、別の世界で生まれ変わる。

それはとても難しい事だ。でもボクは、不思議と自分のした事に不満はない。

心配であるが、きっと大丈夫だと思えるからだ。

「……クロ。……人間は強いよ」

「ふ。――勝手にしろ」

そう言って、クロは姿を消した。

クロ……いつかキミにも、分かる時が来ると信じてるよ。


ボクはそう思いながら、クロのように姿を消した。


======================================


……つんつん。

「……」

誰かがいるのか、僕の顔を覗き込む気配を感じる。

頬を突かれ、ゆっくりと目を開く。

「……あ、起きた」

「……うぅ……んん」

起き上がり、うーんと伸びをする。パキポキと気持ち良い音が微かに鳴る。

……つんつん。

ん……――?

また頬を突かれて、その方向へと顔を向ける。

「んー?」

物珍しいものを見るような目で、首傾げてこちらをずっと眺めている少女。

「……(ニコ)」

笑顔を浮かべて、少女はつんつんと繰り返している。

「えっと、だれさん?」

僕は首を傾げながら、少女に尋ねた。

「アナタも、だれさん?」

質問を質問で返されてしまった。

名を尋ねるなら、まず自分から……というやつだろうか?

「えっと如月皐月、です」

僕は少女の容姿を確認しながら、そう名乗った。

「キサラギ、サツキ?――キサラギ?……サツキ?」

何かを考えるようにして、上を見上げる少女。

僕の名前を繰り返しながら、少女は腕を組み始めてしまった。

緑に包まれて、どこかファンタジーを感じさせる服装だ。

お腹が見えていて、まるで踊り子だ。

「私はエルフィです。アナタは人族ですか?どこから来たんですか?エルフの森には何の用で?」

身を乗り出して、エルフィと名乗る少女は聞いてきた。

「えっと……待って待って。そんな一気に聞かないで下さい」

頭の回転が追いつかず、僕は焦りながらそう答えた。

「ごめんなさい。取り乱しました。えへへ……人族の方はあまり来ないので、興奮しちゃいました」

「いや謝らなくていいですよ。ところでエルフの森って?」

「ここの場所はそう呼ばれているんですよ。正確な名称は『アルフの森』と云うんですよ」

「アルフの森、ですか。えっと、君は?」

「エルフィはエルフィですよ?ここに住んでます」

エルフィは元気良くそう言って、胸の前で小さく両腕を使ってガッツポーズを作る。

「この森に住んでるの?」

「はい♪」

コクコクと頷いて、ニコニコと笑顔で返事した。

「それでアナタは、何でここで寝ているんですか?」

「えっと……僕は――」

僕はここで寝ていた覚えはないが、その理由を記憶の中で探った。

……のだが。

「……あ、れ?」

「どうしたんですか?」

僕の記憶から、何も思い出す事は出来なかった。

名前だけしか、記憶の中にはなかったのだ。

「僕は何でここに……」

僕は頭を抱え、身体全体に寒気が走った。その瞬間、異変が起きた。

静かだった森の木が、ざわざわと騒々しくなったのだ。

――寒い。僕は一体……。

自分の腕を抱き、僕は立ち上がったが視界が真っ暗になった。

「……っ!?」

エルフィは周囲を見渡し、異変に気づいた。

彼がいる場所から、広がるように草木が枯れ始めたのだ。

「――ヒーリングッ」

エルフィは慌てた様子で、そう言い放った。

緑の光に彼は包まれ、枯れた範囲に合わせるようにして魔方陣が広がる。

数秒後……エルフィが放った魔法により、彼は糸が切れたようにして地面に倒れてしまった。

「サツキ?サツキ?しっかりしてくださいっ」

倒れた彼に向かって、エルフィが叫ぶ。

だが僕は霞んだ視界の中で、彼女の声が遠くなっていく。

やがて世界との接点は絶たれ、僕はまた深い眠りについてしまったのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る