第24話 やっと…
あの後、すぐに平家へ向かった佑介。
「おかえりなさいませ。お荷物は全てお部屋へ運んでありますので」
使用人が佑介に近寄ってきた。
「ありがとう。母さんは?」
笑顔を向けた。
「確か書庫にいらっしゃったような…」
「そう。行ってみるよ」
そう言って書庫に向かった。
ガチャ。そこには昔のアルバムを見ている母がいた。
「あ、佑介おかえり。卒業おめでとう。せっかくの卒業式なのに、親が参加できないなんてひどいわよね!」
「16歳からは大人の仲間入りだ。中学で親離れしなくちゃいけないからね。婚約が決まってるヤツしか名前が呼ばれないんだから高校の卒業式なんてつまらないだけだよ…」
真面目な顔をして母を見る。
「どうしたの?なんかあった?」
心配そうに佑介に尋ねた。
「桃華と婚約解消した。その報告に帰ってきたんだ。高校は卒業したし、親の承認がいるのは18才までだ。桃華の親に承認さえされれば、解消できるけど、問題は父さんだよ…。あの人が簡単に納得するわけがないから、今から会社に行ってくる。その前に母さんに話しておきたかったんだ。俺は一年半前から好きな人がいたんだ…。その子を守るために桃華と婚約した…。だけど、理由はどうであれ桃華を傷つけた。それなりの償いはするつもりだよ…ただ、母さんを1人にさせてしまう事になるかもしれない…」
「そう。婚約解消してその子と一緒になるの?その子はあなが好きなの?それとも片思い?あなたが幸せなら私は構わないわ。あなたがどこにいても、私の息子という事に変わりはないわ。好きになさい」
凛としていた。さすが平家の嫁だ。
——私も決着をつける時がきたみたいね…
「行ってくる」
そう言って父の会社に向かった。
その頃桃華も家に帰っていた。
「お母様、私他に婚約したい方ができたので、佑介さんとは婚約解消させていただきたいんです。お父様が帰って来たらこちらに承認をお願いします」
母に用紙を突き出した。
「解消って…会社はどうなるの?平財閥との関係が悪くなることだけは避けたいわ。もう一度考え直して桃華。お父様も承認できないと思うわ」
慌てる母。
「お母様。心配なさらないで平財閥との関係は悪くならないわ…」
佑介サイド
父の会社に着いた佑介。14時。
「佑介様、ただ今社長は外出中ということなのですが…。お急ぎですか?明日にはN.Yに行かれますので、夜にでもご自宅でお話しいただいた方がいいかと…」
「いや、出来ればすぐに話したい。帰ってくるまで待つよ」
3時間後
「佑介様。社長があと10分で戻られるそうです」
「社長室の前で待つ。そこまで入れてくれ」
そして、10分後父が取り巻きをつれて帰ってきた。
「佑介…なんだこんな所まで。明日のN.Y行きの件で忙しいんだ」
呆れた顔をしている父。
「少しでいいから時間くれ。話したいことがある」
真面目な顔をしている佑介をジッと見つめ、取り巻きに外で待つよう伝え、佑介と一緒に社長室へ入る。
「10分だけだ」
そう言って椅子に座る父。
佑介はたったまま切り出す。
「父さん、斎藤さんのお嬢さんとの婚約は破棄します。相手もそれを望んでいます」
「会社の有益になるような相手なら斎藤さんのお嬢さんでなくてもいいが、相手がいるのか?それとも、留学して探すのか?」
「相手ならいます。ただ、婚約に応じてくれるかはわかりません」
「まさか、前に言ってた普通の家柄の子か?
ダメだぞ。そんな、なんの得にもならない婚約など認められん」
顔色ひとつ変えずに話す父。
「だったら、平家を出て行きます」
顔が急に険しくなった父
「何?これまで育ててきた恩を仇で返すのか?いいか、お前は平家の跡取りだ!勝手は許さん!」
「前に出て行けと言ったのはあなたですよ?」
冷静を保つ佑介。
「そうだったな。お前に母を置いていけるのか?」
ガチャ。
「私は大丈夫よ」
その声は母だった。
「母さん?どうしてここに…」
「あなた、もうこの子を解放してあげて。あなたの浮気のせいでこの子は充分傷ついたわ。私もね…。でも、あの時…もう他の女の所に行かないという約束を守ってくれて嬉しかったわ。でも、そのせいで関係のない子供たちを傷つける結果になってしまったわね…。大人の勝手な都合で子供たちを傷つけるのはもうやめましょう。あなた…それでも佑介を縛るなら私も出て行きます」
まっすぐに父を見ている母。
「お、おい。それは18年前にもう言わないと約束しただろ!」
母は18年前、父の浮気に我慢できなくなり、離婚を切り出したそうだ。でも、父はもう浮気はしない、女の所へはもう絶対に行かないという約束をして、母を引き止めたそうだ。
父は、政略結婚の末に結婚した母が自分に気持ちが向いていない寂しさで、何人も愛人やを作ってしまったらしい。
だけど、それは思い過ごしで母は父をちゃんと愛していた。そして父も。
野木姉弟が父と会えなかったのは私のせいだと母は自分を責めた。だけど、全ては自分が原因だと父は謝罪した。
「佑介…行きなさい。平家は圭人に託す。
今までの償いも込めてな…」
父は肩を丸めうつむいた。
「佑介…。あの子にはこれから私がたくさん愛情を注ぐわ。あなたの弟として」
涙ぐむ母。
「父さん…母さん…ありがとう」
2人に笑顔を見せ、走り出した…。
「あいつの笑顔なんて何年ぶりだったろう」
そう言って父は涙を流した。
桃華サイド
電話で誰かと話す桃華。
「あんた、言う通りにしてきたでしょうね?
ちゃんとしてなかったら許さないわよ!」
そう言って電話を切った。
「お母様。今から私が婚約したい相手を連れて来ますので、車を出させて下さい」
そして、運転手の車で寮に向かった。
寮の外に前髪を切り髪をきちんとセットしたスーツ姿の圭人が立っていた。
そこに、バスから降りて来た佑介と鉢合わせた。
「…真美さんを迎えに来たんですか?」
圭人が佑介に尋ねた。
「あぁ。俺は平家を出て行く。前にお前が言ってただろ。平家も手に入らないって、だからお前に託したよ。」
「あははは!やっぱり、あなたはそうすると思ってましたよ。流石にあの人が認めるはずありませんからね。普通の家柄の子が嫁にくるなんて…。僕が出る幕もなかったですね」腹を抱えて笑う圭人。
「だったら…私と婚約する必要もなくなりましたわね…。私との婚約を理由に圭人さんを跡取りへ押すつもりでしたけど、あなたの方が行動が早かったですね佑介さん…」
そこに、圭人を迎えにきた桃華が現れた。
「桃華…。そういう事だったのか…俺から斎藤商事との提携は継続するよう説得する…。
それで、許し…」
「その必要はありませんよ!」
佑介の言葉をさえぎり圭人が叫んだ。
「僕は桃華さんと婚約しますよ。そして、平家を継ぎます。あなたは早く真美さんの所へ行ってください。もうあなたは僕らとは関係ないんですから」
佑介は2人を気にしながら真美の部屋へ走っていった。
「なんで?どうせ平家を継げるなら私と婚約する必要なんでないでしょ?」
「あなたと僕は似ています。なんとなくあなたを放っては置けないんです。僕はまだ真美さんが好きです。あなたも平佑介をまだ好きなんでしょう?」
桃華に近づく圭人。
「そ、それはそうだけど…。でも、いつまでも引きずる訳にはいかないのよ!」
顔を赤くして大声をだした。
「そう。それです。僕もいつまでも引きずっていたくはないんです。なぜかあなたといれば吹っ切れそうな気がしているんです」
優しい笑顔を向ける圭人。
桃華はドキドキしていた。スーツ姿の圭人があまりにかっこよかったからなのか、自分を必要としてくれてることが嬉しかったのか、そんな気持ちを隠しながら、圭人を車に乗せ、桃華の家に向かった。
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