第22話 別れ

次の日から佑介と会うことはなくなった。

特進クラスは少し遠い所にある。食堂でも、周りを見渡すのはやめた。


圭くんともまだ話せてない。



今日からお見合いの週だか、センター試験を控えていたので、強制ではなかった。

婚約しているカップルが多くなり、相手がいない人たちは少し焦り気味だった。


私はあえて圭くんの部屋に行った。こんな気持ちのままじゃ集中できなかったから…。


ビーとインターホンが鳴る。

ドアが開いた。

ギュッと荷物を握りしめて恐る恐る顔を上げる。


圭人はすごく驚いた表情をしていた。

「真美さん…。もう来てくれないかと思ってました…」


「ちゃんと話したくて」

ぎごちない真美。


部屋に入り、2人向かい合って座った。

「僕の事嫌いになりましたか?」

圭人が暗い顔をした。


「圭くんは私が好き…?」


圭人は戸惑った表情をした。

「真美さんがもう戻ってこないと思ったら苦しくて、何もかも嫌になりました。真美さんといると幸せです。誰にも渡したくない。この気持ちを好きというのなら、僕は真美さんが好きです!」


圭人をギュッと抱きしめた真美。

「やっと、圭くんから好きって言葉聞けた。

私も好きだよ。たしかに、佑介の辛そうな顔が気になって…考えたりしてた。でも、好きとかじゃなくて…友達として心配だっただけ。圭くんもほんの少し佑介に似てるかもしれない…。でもね、顔で判断したりしないよ。顔をちゃんと見る前から私は圭くんが好きだったよ…。声も似てないし。圭くんと圭くんのお母さんがコンプレックスに感じてるだけだよ。私を信じてよ…」

涙ぐむ真美。


「ごめんなさい…真美さんを信じられなくて。不安だったんです。こんな歪んだ僕が愛させるはずがないって…。でも、真美さんといるときだけはとても温かい気持ちでいられました」圭人も真美を抱きしめた。


「圭くんは歪んでなんかないよ。私に見せた笑顔も態度もホンモノでしょ?みんな、心の奥底には、醜い感情をもってるものだよ…。

ゆっくりでいいから、お互いに不安を取り除いて行こう」


「真美さん…。やっぱり、僕はあなたといたいです…。」

「うん…私も」

幸せだった…。また圭くんの隣にいれることが…。

あれから教室でも、話すようになった。

あの2人付き合ってるの?とか

結構騒ぎになったけど、もう慣れた。


そして、試験当日。

「真美さん。いってらっしゃい」

キスをした圭人。

「い、いってきます」

照れながら笑顔で部屋を出ていった真美。




試験1日目、2日目が無事終わり、圭人と自己採点をした。


「あー、K大ちょい厳しそう。どうしよう…ダメだったら私立かー。親に迷惑かけちゃうな」落ち込む真美。

「いや、この点数ならギリギリ大丈夫です。

前期、K大でいきましょう」

キラーンとメガネが光る。

「が、がんばります…」

——信じなきゃ。自分を。


2月に入り自由登校の時期。寮の行き来は自由になった。

前期まで圭くんと勉強した。


そして、前期試験がおわり、残すは合格発表だけになった。

でもその前に卒業式がある。


1日が卒業式。それまでに婚約が決まらなければ春休みまで寮に残る。またそこで決まらなければ留年になる。



私たちの関係は少しずつ修復されつつあった。だけど、一回できてしまった心の溝は『好き』っていう言葉だけでは埋まらなかった…。

信じられない圭人。信じてもらえない真美。

この心のキズが邪魔をした。


2人は努力した。

信じようと…。

安心させようと…。

だけど、なかなか婚約に踏み切れなかった。



「真美!あんたどうすんの?卒業式まであと2日だよ!圭人と仲直りしたなら早く届け出しなさいよ!私はもう守くんと婚約してるから1日には出て行かなきゃいけないの。真美…あんたの幸せを見届けたい…。だから圭人の所に行きなさい。今すぐ!」

みどりが真美の部屋にきて真美を煽り、部屋から出す。



圭人のもとへ歩き出す真美。

ビー。

ガチャ。「真美さん…どーぞ」

部屋に入り、2人並んで座る。


「圭くん…。婚約のことなんだけど…」

気まずそうに切り出した。


「冬休み明けに出す予定が、いろいろあって先送りになってしまいましたね…。真美さんの試験が終わってから話すつもりでした」

圭人も気まずそうな顔をしていた。


「え…」不安そうな真美。


真面目な顔をして真美を見つめる圭人。

「このままあなたを手に入れても僕はきっと…一生あなたに嘘をついたままになります。それじゃ、あなたを幸せにできません。だから本当の事を話します。あの時、真美さんを竹内くんの部屋に助けに行った日、本当は竹内くんの部屋にいました。2人の計画に加担してたんです…」


——どういうこと…?

真美が戸惑いの表情をみせる。


「部屋を出たあと平くんが来ましたよね?

あれはあなたを助ける為ですよ。桃華が婚約するならあなたを助けてあげるって平くんを脅してたんです。で、真美さんは僕が助ける予定だったので平佑介はまんまと騙されたということです。僕はそれで望みは1つ叶いました」


バシッ!と平手打ちをした真美の顔には涙が溢れていた…。

「なんで…なんでそんなことしたの?」


「あなたを平佑介から奪いたかったからです。平佑介がキズつくところが見たかったからです。屋上でのこと聞いてましたよね?

それでも、あなたは僕のことを好きだと言ってくれました。今の話を聞いても好きだと言えますか?」

冷めた目をしている圭人。


「そんなことしなくても…私はあなたが好きだった…」真美は泣きながら言った…


「いいえ、あなたは僕の事は好きではありません。僕の甘い言葉に騙されていただけです。あなたの心にはいつも平佑介がいたはずです」


「なんで…?そんなことわかるの?」

涙が止まらない。


「わかりますよ。あなたは顔に出やすいですから。だから婚約はなしにしましょう」

真美の背中を押して部屋から出した。

バタン。ドアが閉まる…。


——あなたが窓の外を見ていた頃からずっと見ていたからわかります。そこに平佑介が映っていたことも。急に仲良くなっていったことも。だから邪魔したかった…。あいつには絶対渡したくなかった…。だからあなたと同じ部屋になるように仕組んだ。こんな歪んだ僕にはあなたはもったいない…。



だけど…本当はずっとあなたのそばにいたかった…。



























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