南出七闇のフィクション的好奇心
灰色平行線
第1集
プロローグって大事だよねと彼女は言った
「プロローグでも言ったけどやっぱり何事もプロローグが肝心だと思うのよ」
帰り道、隣を歩く彼女は突然そんなことを言った。
「今の時代、何事も最初が肝心よ。アニメだって『俺には合わないから1話で見るの止めたわ』って言う人がちらほら出てくるんだし」
「いや確かにいるけども……」
「つまりね、如何にして序盤で人を惹きつけるかが重要なのよ。プロローグっていってもいろいろある訳じゃない? 見る人に衝撃を与えるようなインパクトのあるプロローグ、いろんな作品で何度も見たけどやっぱりこれぞ王道ってカンジのプロローグ、あるいはその2つの合わせ技」
「合わせ技?」
「例えば、突然主人公を襲う謎の敵が! そこに現れる戦うヒロイン! そして主人公にも戦う力が! ってパターン。何度も見た展開だけどそれなりに燃えるでしょ?」
「まあ、確かに」
熱く語る彼女であるが、たぶん考えていることはろくでもない事だろう。
「でもまあ、この作品ってバトルものじゃないからこのパターンは使えないのよね。ここは1つ、ラブコメの伝統芸でやっていこうと思うの」
「は、はあ?」
言うが早いが彼女は少し先に見える曲がり角へと姿を消した。
それから数秒後。
「いっけなーい。遅刻ちこ……うぇっ⁉ えふっ! おえ!」
食パンを口にくわえて曲がり角から飛び出してきたと思ったら、走り出す前にむせてその場に立ち止まった。
「……何やってんの?」
仕方ないから項垂れた背中をさすってやる。
「いや、ラブコメの王道、食パンくわえて走ってたら運命の人とぶつかっちゃうアレをやろうとしたら、パンくわえたままだと口に唾液が溜まって、気管に……」
「どちらかというと何処から食パンを持って来たのかの方が気になるんだけど」
「フィクションに細かいツッコミは無用よ」
そう言って彼女は背筋を伸ばす。
「しかしまさかパンをくわえて喋りながら走るのがこれほど難しいとは思わなかったわ」
「いやそんな難しいモノでもないだろう。だったらもうパンはくわえず手に持って走れよ」
「そんなことしたら王道に失礼でしょ! 全国のパンをくわえて走る主人公に謝りなさいよ!」
「全国探してもパンくわえて走る主人公はそんなにいねーよ!」
急に怒り出す彼女。沸点が分からない。
「結局プロローグどうするか全然決まらないじゃない……これじゃ見切り発車もいいところだわ……」
「まあ、近頃はどんなプロローグにしても使い古された感があるからな」
そう言ってため息をつく彼女。その隣で相槌をうつ自分。
そんなくだらない会話をしながら歩く帰り道。
「と、ここまでがプロローグなんだけどどうかしら?」
「グダグダ喋ってただけじゃないか!」
そんな叫び声が響く帰り道だった。
彼女はいつだってフィクションだと言い張る。
この世界はフィクションだと。
そんなフィクションの中に生きている彼女と、彼女に主人公認定された男のお話。
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