第5話 迷宮探索
「――はいはーい、ちょっと静かにしてもらって良いですかー?」
小鳥遊が銃弾を撃った数分後、訓練場まで召喚者達の様子を見に来ていた少女――ルカ・アルカナはぱんぱんと手を叩いて自分に注目を集めた。
「皆さん、大方順調の様で何よりです。レベルとかもちょいちょい上がってきている人達も居ると思いますので、そろそろ頃合いかと」
何のこっちゃとざわめく召喚者一同に、ルカは遠足にでも行く様な明るさでこう言い放った。
「という訳で、今日は
◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇ ◇
――
RPGなんかでは親の顔よりも見た言葉だ。
迷路の様に入り組んだ洞窟や建物を指しており、モンスターや魔物が出現するという事はよくご存じだろう。
そして、それはこの世界の
俺達はギルドが管理しているという洞窟型の
洞窟の中は青白く発光しているキノコやら鉱石やらでほのかに明るく、
当然、襲ってくる敵達もそれ相応に弱い――と、思っていたのだが。
現在、俺達は第十階層『番人の部屋』――要するに階層ボス部屋だ――で、絶賛苦戦中であった。
いや、別にボスが強いとかそういう訳じゃない。
チート召喚者達が苦戦している理由――それは圧倒的な『数の暴力』以外の何物でもなかった。
「――何だこいつら!? さっぱり数が減らねぇぞ!?」
「それどころかうじゃうじゃどこからか湧いてるんだけど!?」
「うえええええ、気持ち悪ううううううう!!!!」
「いやあああああ!!!!」
「不味いっ、仲間が群れに呑まれてる!! 誰か早く助けてやってくれ!!」
体育館程の広さである空間――その上下左右全てに至るまで、黒い大群が埋め尽くしていた。
光源となっていたキノコや鉱石もすっかり覆いつくされていて、ソレの僅かな隙間から光を放つのみだ。
召喚者達はそれぞれの武器で応戦するが、ソレは斬っても射っても打っても撃っても少々霧散するばかりでダメージが通っている気配が無い。しかも霧散した部分はすぐに再生し、また召喚者に牙を剥く。
レベルが違い過ぎる。
俺は隣で黒い集合体を涼しい顔で眺めるルカに当惑しながら問いかける。
「ルカ、あれは一体何なんだ!? 素人目だけど、明らかにこんな浅い階層に出る
「いいや、あれは間違いなく第十階層の番人だよ」
「はあ!?」
「第十階層番人、『アンタ―』――その群れさ」
アンタ―、という聞き慣れない単語に俺は眉をひそめる。
「アンタ―はアリが魔物になった姿でね、アリの特性をそのまま引き継いでるんだ」
ルカはくるりと背を向け、この部屋に入る時に使った扉に触れる。
「顎の力とか毒針とかもそうなんだけど、一番厄介なのは『群れ』を成す習性だね。普通のアリなら数百とか数千で群れを作るけど――奴らは『万』単位で群れを作る」
淡々と話しながら、ルカはそのまま扉を押し開く。
「その圧倒的物量で奴らは容赦なく得物を狩っていく。よっぽど威力のある広範囲攻撃じゃない限り、完全に根絶やしにする事も出来ない。ここは
よいしょ、とルカは重苦しい両開きの扉に自分が通れるくらいの隙間を作り、するりとそこから流れる様に出ていく。
「……おい、ちょっと待て。この状況で置いてくつもりか!?」
「えー、当ったり前じゃん。ここはお兄さん達に課せられた試練なんだし」
ひょこりと顔だけを出し、ルカは我関せずといった憎たらしい笑顔で返答する。
「せめて何かヒントくらい……!!」
「あたしはもう助言はしたつもりだよ? それを踏まえれば死にゃしないと思うから、多分。戦闘終わったら開けてあげるよ。じゃ、頑張ってねー」
それだけ言い残すと、ルカは顔を引っ込めて完全に鉄扉を閉めた。おまけに施錠をしたらしく、ガチャリという音が扉越しに聞こえた。
この部屋に他の出入り口は見当たらない。
つまり密室。
つまり脱出不可能。
扉も頑丈な鉄、しかもかなりの厚さだ。破壊するのは無理だろう。
そして、ルカは「終わったら開けてあげる」と言っていた。
すると、この部屋から出る手段は――、
「あれを倒せって……無茶にも限度ってもんがあるだろ」
20人 VS アリの大群(万単位)。
……字面だけなら鼻で笑い飛ばせるな。
内容は全くの逆で、実際は俺達が追われている側だが。
数の暴力は、時として質を凌駕する。
それを更にどうやって覆せるか。
「やるしかないのか……」
ちっぽけな
攻撃手段を持たずに、素手に近い状態で。
……無理ゲー過ぎるぞ、こんちくしょう!!!!
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