第22話 水族館デート☆
オフ会の日時が決まったんだが、翌週の土曜日夜スタートで俺の家が会場となった。ええと、その日が十二月二十三日ってみんな分かってんのか?
そうだよ、日曜日は二十四日のクリスマスイブじゃないかあ。みんな予定ないのかな……? ま、俺も無いけど……
月曜日以来、相楽さんとは挨拶程度で会話を交わすことなく、木曜日に由宇が家にやって来て、金曜日はキノも追加で……と悩ましくも楽しい日々をすごすことができた。
土曜日は由宇がバイトで、キノはお友達とお出かけだったから、俺は久しぶりに一人で街へと繰り出す。休みの日は、家に一日中引きこもってローズをやることが多いんだけど、ちょっと野暮用がね。
ふふん。
そんなわけで、日曜日を迎えたのだあ。最寄り駅で由宇と待ち合わせ。二人きりいいい。
うん、由宇とデートなんだ。すまない。ははは。
なんて浮かれながら、彼女と一緒に水族館へ足を伸ばす。キノから教えてもらった由宇の好きそうな場所がここだったってわけなのだ。
彼女を誘ってみると、「……先輩のお誘いならどこへでも……」と快く答えてくれた。
由宇に喜んでもらえると思って、水族館に入ったはいいが――
「……先輩、お魚が好きなんですか……?」
「あ、うん」
最初の水槽を眺めていると、由宇がぼそりと呟やく。あれ? 彼女は水族館が好きじゃなかったの?
「ユウはどんなのが好きなの?」
「……わ、私ですか? マンボウとか……?」
「そ、そう」
キノぉおおお。由宇は興味ないだろ、これ。だって、この水族館にはマンボウがいないし、彼女はさっきから水槽じゃなくて俺の横顔をじーっと見ているし。
「ユウ、あれあれ!」
「……おいしそうですね……」
興味を持ってもらおうと由宇の手をとって指をさしたのはよかったが、タラバガニさんだったー。
観察して楽しみとは別の意味で彼女が興味を持ってくれたから、まあいいか。
で、でも、勢いだったとはいえ……手を握っちゃったあ。いかんいかんと思い、力を緩めると由宇が俺の指へと指を絡めギュっと握ってくる。
こ、これは伝説の……「恋人繋ぎ」ではないか。
思わず彼女の顔を見てしまうと、彼女は少しだけ顔を伏せて……
「……ダメ……ですか……?」
とのたまったのだ。やべえ、萌える。
「い、いや。このまま、進もう」
「……う、うん……」
握った手のおかげで、気が気じゃなく水槽に何がいたのかとか分からないまま順路に従って進んで行く。
「……先輩、あれ……」
「ん? キャンドル作り?」
「……は、はい……」
「作ってみようか?」
「……う、うん……」
大きな水槽がある脇にちょっとしたコーナーがあって、そこに「オリジナルキャンドル」と書かれた看板がかかっていた。
どうやら、透明の円柱の器に砂とかイルカの小物とかを自由に入れてから最後にジェル状のロウソクみたいなものを入れて固めるみたいだ。
俺は店員さんに声をかけて、一つ器をもらうと由宇に中へ入れるものを選んでもらう。
「……先輩も、一つ選んでください……」
「じゃ、じゃあ、これで……」
俺は小さなマンボウを選ぶ。って由宇、何を選んでるんだ?
彼女が選んでいたものは、トリケラトプスとプテラノドンだった。そこへさわやかな南の海を彷彿させる真っ白なサンゴ砂とプラスチックでできたスカイブルーの四角いオブジェ。
ま、まあいいか。
ジェルの色は透明にして、中心にロウソクの芯を入れてもらって完成だ。「固まるまで数時間かかるから注意してね」ということだった。
◆◆◆
水族館を出てから、ファーストフード店で由宇の集めていたおもちゃ付きのセットを頼んで昼食にした。
ファーストフード店から出た時、由宇が両手をモジモジさせながら俺へ聞いてくる。
「……先輩、まだ食べられますか……?」
「うん」
「……で、でしたら……行きたいお店があるんです……」
どんな店だろうと、楽しみにしながら由宇に案内されながら店まで到着すると……あまーい香りが漂ってくるお店だった。
こ、ここは……
「……チーズケーキがおいしいお店だそうです……先輩がお好きだといいんですが……」
「お、俺のために調べてくれたの? 嬉しい!」
「……こ、梢さんが、きっと先輩が喜ぶからって……私から、こんなおしゃれなお店に……さ、誘うのは少し恥ずかし、い……」
それ逆だろお。俺が甘い物食べたーい。だと恥ずかしいかもしれないけど、由宇が甘いものを食べられるお店♪とか全然おっけーだし、むしろ可愛いから!
それにしても……キノのやつうう。俺には的外れなことを言っておきながら、由宇にはちゃんとしたところを教えるとは……そ、それにしてもこの香り……たまらん。
さっそくお店に入ると、いろんな種類のチーズケーキがカウンターのケースの中に置いているのが目に入る。
主な種類は三つか。ハニー、抹茶、プレーン……ふむ。全部食べたいが、さすがに食べきれないか。
「……せ、先輩……それ、ホールですけど……」
「あ、さすがに三種類は無理かなあと」
「……切り分けたのを食べるんですよ……」
「そ、それだと少なくない?」
「……そ、そうですか……」
俺は悩みに悩んだ末、抹茶のチーズケーキを頼む。もちろんホールだ。飲み物はホットコーヒーにした。
由宇は八分の一に切り分けたハニーのチーズケーキに紅茶。
「ユウ、お持ち帰りもできるって、ここに書いてる」
「……梢さんにもお土産に買って帰りますか……?」
「そうしよう。じゃあ、三種類全部買って帰ろうかな」
「……そ、そんなに食べられないと思いますが……」
「二つは俺が食べるから大丈夫。どれがいいかキノに選んでもらって、残りは俺が」
「……う、うん……」
しゃべっている間に、チーズケーキと飲み物が運ばれてくる。
「いただきまーす」
「……いただきます……」
おおお、上手い。ふむ。レアかなと思ったが、ベイクドなんだな。甘さ控えめだけど、抹茶の苦味が舌を引き締め……これはよい!
黙々と食べていると、視線を感じる……
「ユウ?」
「……美味しそうに食べますよね、先輩……」
「じっと見られていると、ちょっと恥ずかしい……」
「……先輩、可愛いです……」
うう、由宇の癖ににいい。いつもと立場が逆じゃないかあ。
俺はふてくされながらも、チーズケーキを完食しコーヒーを飲む。
まだニコニコと俺の方を伺っていた由宇を驚かせてやろうと、咳をコホンと一つした後、カバンからとある物を取り出す。
「ユウ、これ、クリスマスプレゼント」
「……わ、私にですか!?」
「うん、ユウに似合うといいんだけど……」
「……せ、先輩……わ、私も……」
由宇は耳まで真っ赤にして、カバンから赤い包み紙に入った小さな箱を取り出してオズオズと俺へ手渡した。
「ありがとう! ユウ」
「……わ、私も……ありがとうございます!」
「い、今開けたいけど、後ででもいいかな?」
「……わ、私も後からでいいですか……?」
思いは同じってわけか。目の前で開けて、由宇へ改めてお礼を言うのもいいんだけど、それより何より、もらったプレゼントを開けることをじっくりと堪能したいんだ。
本当はこの場で開けた方がいいんだけど……彼女も同じ気持ちだったらいいよね?
俺は慎重に由宇からもらったプレゼントをカバンの中へしまい込むと、もう一度彼女へお礼を言った。
由宇は俺が渡した手のひらに収まるサイズのラッピングされた箱を胸に抱えて、ギュッとした後、カバンへそれを入れる。
「……ありがとうございます。先輩……とても、とても嬉しいです……」
「俺もだよ」
言ってて恥ずかしくなってきた俺は、それを誤魔化すように残りのコーヒーを一息で飲み干す。
お店から出る間際に、由宇がそっと俺のカバンに何かを入れていた。だけど、彼女の指先がブルブルと震えているのが見えたから、何も言わずに気が付かない振りをしておくことにしたんだ。
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