第8話 みんなでゲームだー
ユウ、キノ、ヒョウ、ラサ、そしてアイこと俺の五人が集まったから、高難易度クエストへ行こうと決めたんだ。
さすがにタフなクエストだったから、俺達は行く前に作戦を練ことにした。
『ラサ、前衛はお前にたのむぜ! ユウはラサのサポートをしつつ、ラサが危なくなった時だけ入れ替わって耐えてくれねえか?』
いつも俺達を引っ張って行ってくれる巨漢の僧侶キノが、俺達へテキパキと指示を出していく。
ラサはタンカーと呼ばれる耐久力に特化した戦士で、眉から頬にかけて斜めの傷があるオールバックのキャラクターだ。彼は「男の生きざま」とかいうのに拘りを持つ無骨な戦士といった
『……了解』
『キノ、了解だ』
ラサとユウが返事をすると、キノは「うむ」と頷いて言葉を続ける。
『ヒョウ、お前は自分にタゲが回ってこない程度にかき乱してくれ。ラサとユウへ「バフ」も頼むぜえ』
『りょーかいっす、キノ』
ヒョウはおさげ髪が特徴的な中華風のキャラクターで、細い目をした少年だ。少年という見た目ながらも、名前の通りどこか
彼は防御力をアップさせるバフ魔法を使える盗賊で、直接戦闘は苦手だけどパーティになると力を発揮する。
『アイ、お前はひたすらでかいのを頼むぜ! 攻撃はそちらには行かせないから安心してくれよな!』
『はあい☆』
そして俺は、ロリロリ金髪ツインテールの魔法使い。攻撃力に特化したキャラクターで、ダメージを稼ぐことにかけては右に出る物がいないけど、叩かれるとすぐ倒れてしまう。
『いつもアイはスカートなんだな』
『うんー☆ だって可愛いじゃないー』
俺の魔女っ娘スタイルを見たユウが冗談めいて発言してきたから、俺はいつものようにクルリとその場で回転してユウに答える。
一方のヒョウと俺が着ているのはただの服だから、一発大きいのをもらうとそのまま旅立ってしまう。
みんな、そんなことは承知の上で自分の拘りを実現してるってわけだ。誰もそれに文句も言わないし、むしろそうあるべきだと思ってくれているから居心地がいいんだよな。このパーティは。
◆◆◆
高難度クエストをこなして、満足していた俺へテルが飛んできた。
『アイ、もしよかったらこっちのプライベートチャットルームに来てもらえるか?』
テルをしてきたのはユウだった。何の事かなと思って、思わず対面に座る由宇に目を向けると、彼女は少しだけ眉をひそめるとキーボードを叩き始める。
『ラサが用事でこっちまで来るらしいんだ。それで、彼がプライベートチャットを立てて、もしよければ
『ふーん、そうなんだー☆』
『
うーん、キノか由宇が俺達の住んでいる場所を伝えたりしてるかな。いや、詳細は伝えなくても、ここは都内だし都内のどこかで集合なら問題はないのか。
東京なら、来ることもあるだろうなあ。
で、でも、俺はネカマプレイだし会うのはちょっとなあ。
「ユウ、俺は女の子じゃないからさ、みんなに会うのは……」
由宇曰く、俺の事はみんな女の子って思ってるらしいし。そう思ってるならそのまま行きたいところなんだよね。
いや、男バレしてももう長い付き合いだし、うーん、でもなあ。
「……先輩、こちらへ……」
由宇が俺の手を握って自身のパソコン画面を見せてきた。あーチャットが流れてるう。
『会うのは構わねえんだけど、俺はみんなを驚かせちまうと思うんだよなあ』
とキノ。まあ、驚くだろうよ。巨漢の僧侶で兄貴分が釣り目の可愛い女の子だったーとかさ。
『東京ならボクも顔を出せるっす。もう長い付き合いだし、一度会ってみたいっすね!』
ヒョウも乗り気なようだ。なんだなんだ、みんな集まる空気?
『私も行くことにしよう』
由宇も行くのかあ。ううん。
『……感謝。場所は任せても良?』
『俺が手配するぜ。任せておきなあ、ラサ』
おお、ゲームのノリと同じでキノが幹事をしてくれるのかあ。
『あ、アイは来ねえのかなあ。ちょっと残念だな!』
『キノ、アイはみんなに会うのが恥ずかしいみたいなんだ。すまないね』
『ユウ、アイのことを知ってるのか?』
由宇ううう、そこでストレートに俺のことを言ったらダメだろお。彼女は気を使って言ってくれたんだろうけど、裏目、そこでその発言は裏目だああ。
ど、どうすっか。チャットに入るしかねえ。
『遅れてごめんねー☆ みんな楽しそうなお話をしているんだね!』
『お、アイじゃねえか。
『そうなんだー☆ キノ、説明ありがとう』
ど、どうしようう。こ、ここは……行けない理由を説明せねば。
『楽しそうー☆ でもでも、アイは……みんなが驚き過ぎちゃうから』
『そうなんだ、アイはちょっと特殊でね』
『まさか、男の娘とか? ガハハ』
フォローしてくれようとした由宇にキノがとんでもない弾を放り投げてきた。
キノおおお、どんな発想でそうなるうう。
『そうなんだ。キノ』
待てえええ、由宇ううう。「そうなんだ」じゃねえよお。
そう言ったらみんなは引くだろうと思って言ったんだろうけど、もし俺なら「何としても会ってみたい」って思うって!
『それは会ってみたいっす』
『拙者も同意』
ほら来たああ、ヒョウとラサが乗って来たー。どうすんだこれ?
「ユウううう、これ行く雰囲気?」
「……す、すいません、先輩……」
どうしようと言った感じで涙目で俺を見つめてくる由宇へ、俺は口をつぐむ。
いや、悪いのは彼女じゃないよ。で、でも決断しなければ……
「安心してくれ、由宇。なんとかする……」
「……せ、先輩……男らしいです……」
ええい、やってしまえ、これも経験だと俺は皆に会う事を約束したのだった。
由宇といえば、ぱああと目をキラキラさせて胸の前で両手を組んでいる。そ、そんな目で見ないでえ。
◆◆◆
歯磨きしてから、由宇はソファーベッドへ俺はコタツの中へ潜り込むと消灯する。
んん、二回目だけど由宇がすぐそばで寝ていると思うと、やはり落ち着かねえ。素数でも数えて、いや、お経でも……どっちもダメだったじゃねえかよお。
ま、まあいい。俺の明日を考えて気を紛らわそう。もうこの際、「すんませんでしたー☆」とそのままの恰好で行けばいいか。
「……せ、先輩……」
「ん? ユウ?」
昨日と同じでまだ怖いのかなあ。防犯設備を取り付けたとはいえ昨日の今日だものな。すぐに気持ちが落ち着くとは思えないし。
「……あ、明日……一緒に服を買いに行きませんか?」
デート、ありがとうございます! いやほおお。由宇が「……どれがいいですか? 先輩?」とか言っていくつか選んで試着室に入ってえ、彼女が少し恥ずかしそうにはにかんで試着室から出て来る姿に萌える。
おお、いいじゃないか。テンションがあがるぜ。
「ああ、行こう」
「……先輩の服も見ましょうね……」
「あ、ああ、そういや社会人になってからスーツ以外買ってないや。新しいジャージも欲しいかな」
何しろ一着しかないからな。いい加減、洗い替えも欲しいと思っていたところなんだ。
明日が楽しみになってきたぞお。俺は明日のことを妄想しつつ、羊さんを数えて就寝したのだった。
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