再び空を見上げて

記録──〝思考の始まり〟



 〝人間は如何にして数える事を学んだのか、という重大な考察にとりかかる。

 1や2を心の中だけで思い浮かべるという事がどうして人間はできるようになったのか。人間のみに与えられた特質として、想像し、考える事ができるという点があげられる。人間以外の動物にはその素質さえも見受けられないからだ。人間だけが、目の前に現れた物に対して見える事以上の理解を加える事ができる。

 目の前に現れるもののうち最も壮麗なものは、何をおいても昼に見られる明るい景色であろう。そして夜になると一転した真っ暗な景色が見えるようになる。

 この対極の景色を定期的に入れ替え続ける運動を宇宙が止めない限り、人間に対して1と2を教え込む運動も決して終わる事が無い。3や4、あるいはそれ以上の数が存在する事を学ぶのも、まずはここから始まっていると言える。


 天空に現れるもののうちで特に挙げておくべきは、なんといっても月である。

 何故ならば月は充ちたり欠けたりと変化しながら一巡りをする事で、昨日と今日はそれぞれ違う日である事を絶えず我々に教えてくれている。

 さらには変化を周期的に繰り返す事で、その一巡りが一つのまとまりとして考えられる事をも教えてくれている。

 月は「世界には秩序と周期がある」事を学ぶ手助けをしてくれている。つまり、考える能力を与えられた動物は、まず月によって理解するすべを学んだのだ。


 ……神はまず月をお造りになり――あるいはもっと重要な役目をも持たせたのかもしれないが――その上で暦が成り立つように組み上げたに違いないのだ。〟


 ――プラトン『エピノミス』より。抄訳。



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