第57話 台北市内

「猫ちゃんいないですね」

 猫空とあるから猫がたくさん居ると思ったのに、猫の姿は見かけない。

「今日は機嫌が悪いのかもしれないな」

「そっか、残念」


 二人でチャーハンとお茶をしてから、登ってきたロープウェイで降りて行く。

 下に降りたら、そこから地下鉄に乗り換えて、今度は「中正記念堂」に向かう。

 ここには、蒋介石という人の大きな銅像があった。

 だけど、それ以外に観光となるものがないので、今度は「忠烈祠」という所へ向かう。

 ここには衛兵がいて、立哨している。

 だけど、そのヘルメットは銀色に輝いていて、顔が写りそう。

「これじゃ、オヤジのハゲ頭だな」

 智さん、それは立哨している兵隊さんに対して失礼よ。

「あっ、私も同じ事を思ったけど、さすがに口に出して言うのはどうかと…」

「似た者夫婦だな」

「そうね、あなた」

 結局、私も同意してしまう。

 そんな話をしていると、交代式が始まった。

 奥の方から交代の衛兵が隊列を組んで、歩いて来る。

 衛兵たちは指揮者のもと、一糸乱れぬ動作で交代をしていく。

 交代の兵士がまた台上に上がり、動きもせず立哨する姿はとても素晴らしかった。


「さて、夕食はどうしようか」

「ホテルの近くの夜市に行こうかと思います。『寧夏夜市』っていうのが、あるらしいです」


 ホテルに帰って小休止してから、夕食の会場と定めた「寧夏夜市」に歩いて向かう。

 夜市に着くと、お祭りの時の屋台みたいな、お店が並んでいる。

「すごいな、全部食い物屋だ」

 台湾独特の食べ物と、その匂いが漂っている。

 その屋台の中を二人で買い食いしながら進むけど、どこのお店の物も美味しい。

「意外と美味いな」

「ほんとに美味しいです」

 素材は分からないけど、実は変な物だと嫌だな。


「こんなものも売ってるよ」

 智さんが指差した先にあったのはケーキ屋さんだ。でも、デコレートしてなくて、スポンジケーキだけ売っている。

「何でスポンジケーキだけ?」という疑問を持つけど、ここは買わなければなるまい。

 小さなケーキを買って、二人で食べてみるけど、すごく美味しい。

「これって美味いな」

「ほんとに、なんか掘り出し物を見つけたって感じです」

「明日もここに来て、今度は大を買って、お土産で持って帰ろう」

 賞味期限は大丈夫だよね。


 買い食いだけで、お腹の膨れた私たちは、ホテルの近くの洗髪屋というところに入る。

 台湾では、髪を洗う専門の店がある。髪を切る店と、髪を洗う店は別々らしい。

 中に入ると、男性はほとんどいない。たまに居てもそれは観光客で、女性は地元の人みたい。

 私はロングにしているので、洗って貰うと心地良い。

 智さんは先に終わったので、待機用のソファで待っている。


 洗った後の髪が艶々している。

「ほー、綺麗なお嫁さんが、更に綺麗になった」

「きゃー、嬉しい」

 分かってはいても、褒めて貰うのは嬉しい。

 でも、煽てたって木には登りませんからね。


 ホテルに帰って、昨日と同じように二人でお風呂に入ると、智さんが後ろの方から、抱きかかえて来る。

 そして、そのまま私の胸を揉む。

「もう、えっちな旦那さま」

 今日は髪を洗ったので、ヘアーキャップを被ったけど、ちょっと色気がないかな。

「彩の素敵な髪を見れないから、代わりだよ」

「フフフ、髪の代わりですか。どういう関係があるんでしょう」

「さあ、そのココロは『どちらも立派です』」

「立派かなぁ?」

「立派だよ、ホラ」

 智さんが私の胸を持ち上げる。

「もう、私の身体に火を点けた責任は、取って貰いますからね」

「それじゃ、俺の方が『火事手伝い』になってしまう」

「ホホホ、もうやだ」

 智さんが髭を剃るというので、今日は私が先にベッドに行った。

 私は、部屋の電気を消して、ベッドの中で智さんを待つ。

 智さんがバスルームの扉を開ける音がした。

 ベッドの傍らで、智さんがバスローブを脱ぐ衣擦れの音がしたと思ったら、智さんがベッドに潜り込んできた。

 でも、智さんは何もして来ない。

 焦れた私は智さんの手を握った。

 智さんは私を引き寄せて、身体を強く抱きしめると、私は智さんの顔に自分の顔を近づける。

 口付けをすると、智さんの手が私の身体を弄る。

 私の身体は、薄い布地を通して、智さんの目に見られているだろう。


 智さんが起きたみたいで、横で動くのが分かる。

「おはよう」

「おはようございます」

「起きようか?」

「ううん、このまま一緒に居て下さい」

 私はもう少し、このまま居たい。

 智さんが愛おしい。そう思うと、自分でも自分の行動が抑制できなくなった。

 私は智さんの下の方へ行くと、智さんの男性を含む。

「あっ、彩」

 でも、どうすればいいのか、分からない

 智さんが気持ち良さそうにしているので、これでいいのかも。

「彩、ありがとう。良かったよ」

「あなたが喜んでくれる事がしたい。まだ下手だけど、いつかあなたに喜んで貰えるになるから」

「ううん、彩が嫌な事はしなくていいから」

「あなたの事で、私にとって嫌な事なんてない」

「彩はやっぱり、この世の中で一番の妻だ」

「あなた…」

「でも、俺の身体に火を点けた責任は、取って貰うぞ」

「今度は私が『火事手伝い』になっちゃった」

 智さんが私をうつ伏せにして、腰を持ち上げると、私の記憶はそこから失われた。

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