第45話 酒豪

「うわー、ねえ、大きなまねき猫」

 里紗ちゃんと武司くんもびっくりしている。

「お母さん、写真撮って」

 ちゃんと、まねき猫の前に写真撮影位置と書いてあるので、そこに立って母に写真を撮って貰う。

 私は智さんと腕を組んで、まねき猫の前に立つと、母がスマホで写真を撮る。

「いい、撮るわよ、ハイ、チーズ」

 母が何枚か写真を撮った。

 その後、今度は皆で写真を撮る。

「食料品は、この後のココトコで買いましょう」

 恵子さんが、そう提案して来たということは、ココトコの方に何か良い物が売っているということだろうな。

 結局、デオンでは、何も買わずに見学しただけで、ココトコに行く。

 でも、デオンでいろいろ見て回るのは楽しい。いろんなお店がいろんな商品を販売しているので、もう一度来て、今度はゆっくりとお店巡りをしたいな。

 智さんは、荷物持ちで来て貰おうかな。


「あなた、あれは何ですか?」

 海の向こうにも大きなビルが見える。

「あれは空港だよ。中部国際空港。うちの会社も建設に携わったぞ」

「そうなんですか。あそこにも行けるんですか?」

「中にはショピングモールがあって、デオンから無料シャトルバスが出ているハズだ。

 車や電車でも行けるけど、お金がかかるな」

 智さんの話では、車や電車でも行けるけど、お金がかかるらしいから、そこは主婦としては無料バスを使うしかない。

 もう一度来たら、その時は空港の方にも行ってみよう。


 ココトコの店内に入ってみると中は広い。しかも、天井まで商品が積み上っている。

 お義母さんと恵子さんが、カートを押して行く。

 その後ろを母と私、里紗ちゃんが歩き、私たちの後ろを智さんとお義父さん、武司くんが歩いてくる。

「ひとつの量が多いから、後から分けましょう」

 恵子さんが言う。


 レジで会計すると全部で2万円ほどだった。

「それで、今日は何を作るんだい?」

 智さんがお義母さんに聞くけど、そんなのここで聞かれても困る。何を作るかは台所で決めるものなのよ。

「そうねぇ、これだけあるから何でも作れるわ」

 お義母さんもやっぱり、台所で決めるタイプのようだわ。

 家に着くと恵子さんが「戦利品の分配よ」なんて言っているけど、女性目線ではやっぱりそうよね。

「陽子さんも良かったら、持って帰ってね」

 お義母さんが言ってくれるのが嬉しいけど、冷蔵・冷凍物はちょっと無理なので、冷やさなくても良い物しか持ち帰れない。


 今日の台所は主婦4人が、自分の得意な料理をしていくので、出来た物が豪華になった。

 去年に比べて、里紗ちゃんも料理は上手になっている。

 この子は、影ながら努力するタイプなのかもしれない。

 夕食の時には、恵子さんのご主人の義男さんも来た。

 智さんの家族一同が食卓を囲んで、すごい楽しい。こんな大勢で夕食を食べるなんて事は初めて。


 お義父さんが何やら、お酒を持ってきた。

「陽子さんも飲むかね」

 母も飲みたそうにしている。大丈夫?

「では、ちょっとだけ」

 母が注がれた日本酒を飲む。

「おお、いい飲みっぷりだ。どうだ、もう一杯」

 お義父さんが持って来た日本酒で、智さんと義男さん、それに母でその場が盛り上がってきた。

「どうだ、彩さんは」

「えっ、私もですか?あんまり、飲んだ事がないです」

「まあまあ、一杯」

 お義父さんがコップに、お酒を注いだ。

 注がれたコップ酒を一気に飲むと、顔が熱い。

 しかも頭が、くらくらしてきた。

「あー、もうだめ」

 私はもういい。

「彩、もうこんなところで寝ないで」

「だめー、気分が悪い。もう、お酒なんて飲まない」

 智さんが私を部屋まで連れて行って、寝かせてくれた。

「もう、仕方のない娘です」

 後から聞いた話では、その後もう1本お酒を飲んだそうで、最後は全員がフラフラだったらしい。

 うちの母はもしかして、物凄い酒豪だったんじゃないかしら。


「あー、頭が痛い」

 母が布団の中で唸っている。

 完全に二日酔いみたい。

「お母さん、しっかりしてよ。もう智さんの実家で恥ずかしい」

「いや、それはいいから、今日は寝ていなさい」

 お義父さんもそう言ってくれるけど、そのお義父さんも辛そう。

 義男さんたちは恵子さんが運転する車で、昨夜帰って行ったそうだけど、恵子さんから

「旦那が潰れてしまって、今日は行けない」

 と、電話があったらしい。きっと、みんな二日酔いだわ。

「あなた、大丈夫?」

 智さんにお水を持って行く。

「彩は大丈夫か?」

「直ぐに潰れたので、大丈夫みたいです」

 私は、もう二度とお酒は飲まないようにしよう。母みたいに酒豪になったら、智さんに嫌われてしまうかもしれない。

「彩も将来、酒豪になりそうだな」

「もうお酒は飲みません。酒豪にもなりません」

「キッチンドランカーなんて止めてくれよ」

「ホホホ、なりませんって」

 約束はしない事にしよう。

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