第39話 家庭

 貰ったポチ袋の中を見ると、1万円が入っていた。

「お義父さん、お義母さん、ありがとうございます。これは使わずに宝物にします」

「そんな事、気にしなくていいんだよ。好きに使ってくれ」

「いえ、勿体なくて使えません」

 これは大切に取っておこう。


 お昼ご飯が済んだ頃に、恵子さん夫婦が里紗ちゃんと武司くんを迎えに来た。

 夕食をみんなで食べてから、帰るみたい。

 そうなると、女性陣がみんなで、支度をする。

 里紗ちゃんも手伝いに来てくれるけど、それを武司くんがからかう。

「姉ちゃんも彩姉さんを見習って、女子力を高めようとしているけど、今からじゃ、遅くね」

「こら、武司。あんた、覚え時なさいよ」

 里紗ちゃんのお母さんの恵子さんが

「里紗、手伝わないなら、じゃまだからあっちへ行って」

「手伝う、手伝う」

 弟にいじられ、お母さんに叱られ、ちょっと里紗ちゃんが可哀そう。


 2日は母を名古屋駅に迎えに行かないといけない。

 連絡では、10時頃に着く新幹線との事だったので、智さんと二人で出発した。

 待ち合わせは、新幹線改札のところと言ってある。

 改札の前で待っていると、階段を降りて来る母が見えた。

 私は思わず母に向かって手を振った。

 母も気付いたみたい。


「お待たせ」

「では、行きましょうか」

 母の分の乗車券を買って、東海道線のホームに移動する。

「杉山さんの実家ってここから遠いんですか?」

「ええ、ここから大体1時間です」

「でも、いいところよ」

 たしかに田舎だけど、デオンもあるし、生活に困る事はない。

 緒川の駅に着くと、お義父さんが迎えに来てくれていた。

 智さんが、母をお義父さんに紹介している。


「彩のお母さんの陽子さん。で、こっちが父の智彦です」

「彩さんのお母さんですか?、姉さんじゃないのか」

 お義父さんも上手だわ。たしかに、見た目が若く見えるのは、娘の私もそう思うけど。

「ホホホ、ありがとうございます。たしかに彩の母です」

 まったく、お母さんもいい気になっている。


 母を客間に通して、お義母さんがお茶とお茶菓子を出してくれた。

「彩の母の陽子でございます。この度はご縁があり、娘の彩を智久さんのところに、お嫁に迎えて頂くことになりまして、誠にありがとうございます」

「改めて、父の智彦と母の幸子です。これはご丁寧にありがとうございます。

 息子の智久とは何分、歳も離れておりますが、嫁に来ていただく事になり、こちらこそありがたく思っています」


「陽子さん、名古屋に来て何か食べたいものはありますか?」

 お義父さんが聞いてくれた。

「『ミラカン』が食べたいです」

「『ミラカン』か」

「それなら、私が行ってレトルトパックを買ってくるわ。たしか、スーパーも開いているし」

 智さんの妹の恵子さんが行ってくれるようだ。


「レトルトパックが売っているんですか?」

「ええ、スーパーに」

「ちょっと、多めに買ってきて貰えば、持って帰りたいわ」

 それを知っていたら、私も買っていたのに。


「失礼ですが、陽子さんはおいくつですか?」

 お義母さんも気になるのかもしれない。

「50歳になります」

 たしかに、サバは読んでない。

「とても50歳には見えませんね」

 娘の私からみても50歳には見えない。

「ほんとに彩さんのお姉さんのようだな」

 お義父さんも上手だわ。

「えー、ありがとうございます」

 お母さん、「豚も煽てりゃ木に登る」って言葉、知ってる?


「それでは、いろいろとお世話になりました」

「いえいえ、また来て下さいね」

「智久、あんた、彩さんを必ず幸せにするのよ。じゃないと許しませんよ」

「そうだぞ、母さんの言う通りだ」

「兄さん、お母さんたちの言う通りよ」

「彩姉さんだけでもいいから、また来てね」

 智さんの味方って、いないのかしら。私の旦那さまは、可哀そう。

「ああ、分かったよ」

 智さんの元気がない。


 私たちは、緒川駅から、名古屋行の列車に乗った。

「いいご家族ね」

 母も智さんのご両親の事が気に入ったみたい。

「いえ、普通だと思いますよ」

「高橋とは結婚当初から家庭というものがなかったので…」

 お母さん、それは言わない事。

「もし、あの人が家庭の事を考えてくれたら、私たちも普通の家族になれていたかも…」

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