第38話 正月

「私、今日泊る」

「僕も泊りたい」

 里紗ちゃんと武司くんが言い出した。


「そうなると、布団が一組足らんな」

 そっか、去年までは里紗ちゃんと武司くんと智さんの分があれば十分だっけど、今年は私が居るから布団が無いんだ。

 それは困った。でも、私と智さんが一緒に寝ればいいんだけど。

「彩姉さんは、おじさんと一緒でいいじゃん」

 里紗ちゃん、ナイスアイディア。

「お前たちさえ良ければ、それでいいが…」

「私たちは、それでかまいません」

 私が先に答えちゃおう。

「それじゃ、昔の智久の部屋に敷くとするか」

 お義父さんが布団を敷きに行く。


「フフフ」

「寒くはないか?」

 ひとつの布団に二人で入っているので、ちょっと狭い。

 私は智さんにくっついているので暖かい。

「智さんが暖かいから」

 智さんにくっついていると、心臓の音にシンクロして除夜の鐘の音がしてきた。

「あっ、鐘の音がする」

「知多半島ってお寺が多くて、四国みたいに巡礼する人も居るみたいだ」

「へー」

 除夜の鐘と智さんの心臓の音を聞いていたら、そのうち眠ってしまった。


 うーん、なんだか動きにくいな。

 ちょっと目を開けると目の前に智さんの顔があった。

「おはよう」

 そうだ、昨夜、除夜の鐘を聞きながら寝てしまったんだ。

 慌てて挨拶する。

「おはようございます」

「明けましておめでとう」

「明けましておめでとうございます」


 智さんにくっついていると寒くはないけど、きっと布団の外は寒いだろうな。

 それにお正月だもの、もう少しこうしていたい。

 でも、きっとお義母さんは、炊事をしているんだろうな。

 お義母さん一人に任せておくのは、嫁として失格だわ。

 私は起きると、2階から降りて、リビングに行く。

 智さんと一緒に行くと、お義母さんはもう朝食の支度を始めていた。

「お義母さん、私も手伝います」

「いいのよ、若い人はもっと寝ていて」

 私は、お義母さんの手伝いをする。

 お義父さんも起きてきたけど、やる事がないので、智さんと一緒にTVを見ている。

「智久、里紗と武司を起こして来て」

「私が、起こしてきます」

 お義母さんが智さんに言うけど、私が起こしてみたい。一人っ子だったから、そういうのに憧れる。

「里紗ちゃん、武司くん、ご飯よ」

 二人は目を擦りながら起きてきた。


「はい、どうぞ」

 テーブルの上には、おせち料理が並んだ。

 これは昨日、デオンで買って来たものだ。

「これ、母さんが作ったの?」

「まさか、デオンに予約してあったのよ」

 智さんが、お義母さんに聞くけど、昨日デオンで買ったところを見たでしょう。


「あなたたち、ご飯が済んだら初詣に行くの?」

「ああ、そうしようかな」

 智さんと初詣か。どこに行くのだろう。

「父さん、車を使ってもいいかな」

「ああ、いいぞ」

「私たちも行く」

 里紗ちゃんと武司くんが行きたいみたい。

「では、一緒に行きましょう」

 みんなで行くと、きっといい事があるわ。


 車でお寺に来てみたけど、人出はそれ程多くない。

 おみくじがあるけど、「おみくじ」って神社だけじゃないの?

 変に思うけど、みんなでおみくじを引くことになった。

 すると、私は大吉だった。

「見て下さい。結婚のところですが、『全て順風満帆』とあります」

 智さんは小吉、可もなく不可もないといった感じ。

 里紗ちゃんは末吉、武司くんは凶だった。


 これを見て姉の里紗ちゃんが、武司くんをからかう。

「あんた、日頃の行いが悪いから『凶』なのよ。反省した方がいいんじゃない」

「普通、お正月から凶なんて出さないようになっているから、逆に出るという事は今年は当たり年って事ですよ」

 武司くんが可哀そうなので、慰めてあげる。

「彩姉さん、ありがとう。彩姉さんが姉さんの方が良かったのに」

「もう、なんですって」

 二人とも面白い。

 智さんも二人を見て笑っている。


 初詣から帰ると、お義父さんがお年玉を渡してくれると言う。

「「わー。お爺ちゃんありがとう」」

「婆ちゃんの分も入っているからな」

「お婆ちゃんもありがとう」

「よし、これはおじさんからだ」

 智さんも二人にお年玉を渡している。おじさんは大変だ。

「おじさん、ありがとう。彩姉さんもありがとう」

「えっ、えっ、わたし…」

「そうだ、彩からの分も入っている」


「では、これは私たちから彩さんへだ」

 お義父さんが私にポチ袋を出してくれた。

「えっ、私にも」

「そうだ、娘になるのだから当然だ」

「それに、お正月のお手伝いもしてくれたから、アルバイト代だとでも思って」

 お二人の心使いが嬉しい。

「ありがとうございます」

「智久には無い」

「「「「ははは」」」」

 智さんはそれを聞いて憮然としていたけど、本当は欲しかったのかも。

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