第24話 帰国子女
「洗濯物があれば、洗います」
私の下着もあるので、ここは杉山さんに洗わせる訳にはいかない。
「いや、下着とかあるから、自分で洗うよ」
「私のもあるので、私が洗います」
私のパンツを広げて見られては堪らない。
「では、お願いするかな」
私はジムで使ったTシャツやパンツを持って、洗濯機の方へ行く。
「洗濯している間に、簡単なものを作ります」
朝食と変わらないトースト、目玉焼き、サラダを作った。
「朝食みたいですが…」
「いや、普段もこんな昼食だし、全然問題はない」
「ピー、ピー」
洗濯機が終了したみたいだ。
「あのー、洗濯物ですが、寝室に干してもいいでしょうか?」
「ああ、構わないよ」
「で、でも、今日の夜、寝室を使いますよね」
そのまま寝室に干すと、私の下着も見られてしまう。
「風呂に入った後に、風呂場に移すといい」
「では、そうします。明日、取り込みます」
これで、明日も来れる。
洗濯が終わると二人で話をする。
話の内容は私の学校の事で、杉山さんは真剣に聞いてくれる。
「それで、先週一緒に買い物に行った早紀ちゃんから『彩の彼氏の話でみんな興味津々だよ』って言われたんですけど、どうして分かったんだろう。この前、うまく誤魔化せたハズなのに」
私としては、完璧な説明だと思ったのに。
それが、既に知り合いの中には知られていて、会う人全てに「お幸せに」とか言われている。
みんな、おばさま状態だわ。
「でも、言いたい人には言わせておけばいいんですけど…」
下手に言い訳する方が、後々の話が難しくなる。
ここはあまり、波風立てないようすると、人の噂も75日。そのうち、忘れ去られるだろう。
「それと、今から卒業旅行とか、みんな話をしていて、私もどうしようかなと思っているところです」
卒業旅行より新婚旅行。そんな事にはならないよね。
「彩ちゃんは、どこか行きたいところはあるのかい?」
「私は京都かな」
「京都?海外とかじゃなく?」
「ええ、ダメですか?」
「いや、ダメって事はないけど、海外とか言うのかと思ったから」
「海外は小学生の時に海外に居たので、まあいいかなと」
「どこに行ってたの?」
「オーストラリアです。一応、帰国子女って事になります」
「でも、彩ちゃんは『聖アンドリュース大学院』だろう、そこは小学校から行ってたんじゃないの?」
「中学からです。オーストラリアって6月くらいが卒業式なんです。日本に帰ってきたら4月からが始業式なので、ちょっとずれちゃって。
『聖アンドリュース中学』は帰国子女で受け入れてましたし、外国語が話せると優先して入学もできましたので」
「彩ちゃんは英語とか出来るの?」
「6年間、向こうの学校に通っていたので、ある程度は」
「へー、すごいな」
「でも訛っているので、ステーションの事をスタイションって言いますけど」
英語が話せると言っても、なんだか田舎者って感じ。
そう思うと、笑えて来る。
「さて、夕食にしましょう」
先週、買って貰ったエプロンを着けて、キッチンに向う。
「彩ちゃんは料理も上手だけど、それはお母さんが?」
「小学校の時から手伝いはしていたんですが、本格的にはオーストラリアに行ってからです。母が日本の味を忘れないようにと。
それに、オーストラリアでも日本の調味料とかはスーパーで売ってますから、簡単に手に入ります」
「それでも凄いじゃないか」
「母はオーストラリアで、何かやるんだって、仕事を始めたので、結局、私が作る事になって、事実上の主婦をしてました」
「お母さんも凄い人だね」
「ええ、母はその時知り合った人との伝手があって、今では輸出入の仕事をしていますよ」
「と、いうことは社長さん?」
「社員一人だけですけど」
「それは凄いじゃないか、『鶏口となるも牛後となるなかれ』という諺があるが、まさにその通りだな」
「なんですか、それ?」
「大会社の社員よりも、小さな会社の社長になりなさいって事だな」
「うちの母は『ケイコウ』って事ですか、ところで『ケイコウ』って何ですか?」
「鶏の口だ。『ギュウゴ』とは牛の後ろの事。牛の後ろについて行くよりは鶏の前に居ろって事だな」
「ふーん、うちの母は鶏の口ですか、そういえば、なんかうるさいかも、ホホホ」
「彩ちゃんだって、その人の子だろう。似た者同士じゃないのか」
「それじゃ、私がいつも『コケコッコ』と言ってるみたいじゃないですか?」
「さあ、どうかな」
「また、杉山さんの意地悪が出ました。もうお仕置きです」
もう、私がおしゃべりみたいに言う。私がおしゃべりなのは、特定の人の前だけですから。
私はそう言うと、椅子から立ち上がって、杉山さんに抱きついた。
今、私は杉山さんの腕の中に居る。
このまま、抱きしめてください。壊れてもいい。
私は杉山さんの顔を見る。
杉山さんは、そっと私と口付けをしてくれた。
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