第23話 普通の休日

「はい、どうぞ」

 トースト、目玉焼き、サラダに味噌汁がテーブルに並ぶ。

 そして、何事もなかったように食事にする。

 今日は私が怪我をしているからと、杉山さんが洗い物をしてくれた。

 洗い物が終わって、杉山さんがテーブルの所に戻って来た。


「今日はどうしようか?」

「うーん、何も予定してなかったです」

「じゃ、ジムにでも行こうか?」

「会社ですか」

「もう、そのボケでは笑えないな」

「うふふ、すいません。でも、ジムの用意も何も持ってきてないですし」

「駅前のスーパーの衣料品売り場で、Tシャツとパンツを買えば。後、タオルとかはここにある物を使えばいいし」

「そうですか、ではそうします」


 駅前のスーパーが開店するまで、まだ1時間ほどある。

 杉山さんに、先週、友だちと買い物に行って、途中で抜け出した後、学校で何か言われなかったかと聞いてきたけど、どうにか誤魔化した事を言った。

 たぶん、誤魔化せているよね。

 それ以外にも学校の事や友達の事を話しているけど、杉山さんにはあんまり分からないだろうな。

 私の学校は女子大なので、彼氏がいるって人はあまりいなくて、どちらかと言うと、恋愛に憧れている人が多いような気がする。


「それでですね、優子ですけど、卒業と同時に婚約するので、就職はせずにそのまま花嫁修業するんだそうです。いいですよね、花嫁さん」

「彩ちゃんもやっばり、憧れる?」

「それはそうですよ、女の子で憧れない子なんていないですよ。男の人ってそんな事はないんですか?」

「うーん、結婚なんて籍を入れれば、それで終わりだし。式はセレモニーだし」

「えー、夢がない」

「男はそんな物だよ。それに結婚すると女性は変わると言うし」

「男の人だって変わるでしょう」

「そうだな、どっちもどっちだな」

「でも、私は変わりませんから、あっ、いえ、そういう意味ではなくてですね…」

「いや、嬉しいよ」

「ほんとですか、どうしよう」

 言っちゃった。それに嬉しいだって。

 これって、私をお嫁に貰ってくれるって事かしら。


 そんな話をしているとスーパーの開店時間になったので、家を出て駅前に向かう。

 スーパーでは、運動用のTシャツとパンツ、それに汗を洗い落した後のシャワー用にリンスを購入する。


「こちらはビジターでお願いします」

 杉山さんが、受付の女性に私がピジターで利用する事を伝える。

「2,500円になります」

 また、杉山さんが払ってくれた。

 杉山さんと居ると、いつも先に払ってくれる。

「すみません、また払って貰って」


 更衣室から出て来る私を杉山さんが、見つめている。

 なんだか、子羊を狙う狼の目になっている。

 でも、杉山さんが狼ならいいかも。


 見つめられるのも恥ずかしいので、目を逸らさないと。

「まずはどうします?」

「ウォーキングを30分してから、マシーンにしようと思う」

「分かりました」

 私も杉山さんの隣でウォーキングマシーンで歩いてみる。


 へとへとになった私に追い打ちをかけるように、筋肉強化のマシーンをする。

 だけど、男の人と体つきが違うのか、杉山さんの半分も出来ない。

「杉山さんは、すごいです」

「いや、男性としては普通だと思うぞ」

「そんな事はないと思います」


 マシーンが終わったら、スタジオでヨガをやる。

 運動オンチの私には、ゆったりとしたヨガはぴったりで、これなら私でも出来る。

「私もジムやろうかな」

 ヨガって女性に人気があるのが、分かる気がする。

 汗を流すとシャワーを浴びて、終わりになる。

 杉山さんはすっぴんの私でも「綺麗だよ」って言ってくれるだろうけど、女として手を抜いたとは思われたくない。

 家に帰るまでだけど、ここはしっかりとお化粧をしなきゃ。

 かなり杉山さんを待たせたと思うけど、仕方ないよね。

「すいません、遅くなりました」

「途中で宇宙人と会って、世間話しているかと思った」

「そしたら、助けてくれますか」

「当たり前じゃないか」

「約束ですよ」

「分かった、約束だ」

「やったー」

 やっぱり、杉山さんは「おじさま」じゃなく、「おうじさま」だった。


「お昼、どうしようか?」

「今、食べると中途半端ですよね。いつもはどうしてるんですか?」

「いつもは、朝食と同じメニューにしている。

 それから7時くらいに夕食にしているんだ」

「お昼が軽いと、お腹空きませんか?」

「まあ空くけど、ストイックにしていかないと」

「杉山さんって頑張り屋なんですね」

「そんな事はないだろう。君の父さんだって……、あっ、ごめん」

「いえ、いいです。父の話は止めましょう」

「彩ちゃんは、お腹空いただろう。何か食べようか」

「じゃあ、たこ焼き」

「たこ焼き?」

「ほら、あそこ」

 杉山さんの後ろの方に、フードコートのたこ焼き屋がある。

「1つ買って、二人で食べましょう」


 1パック8個入りのたこ焼きを二人で食べる。

 お店のおじさんが気を利かせて、妻楊枝を2本入れてくれてある。

「フーフー、熱いけど美味しいです」

「ホッホッ、たしかに美味いな」

 8個入りのたこ焼きを仲良く4個ずつ食べて、二人の距離は縮まった気がする。

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