第8話 雨

「次、お化け屋敷行きましょう」

「彩ちゃんは、結構スリリングな所が好きなんだな」

「そんな事ないと思いますよ」

 だって、ここは杉山さんに接近できるチャンス。ここを除く選択肢はない。


 中に入ると私は直ぐに杉山さんのジャケットの袖を掴んで、彼の後ろを歩いて行く。

 前方を見ると幽霊が出ている。

「キャー」

 私は思わず悲鳴を上げる。やっぱり、怖いよ。

「普通の置物だよ」

「えっー、でも怖い物は怖いです」

「だったら、何故、ここに入ったんだい」

「それは怖い物見たさっていうやつで…、キャー」

 また、私は叫んだ。


 2つほどアトラクションを見たところで、食事にするけど、ほとんどがジャンクフードの類しかない。

 それでも、一応テーブルがあって、プレートで出て来るレストランに入ってみたけど、正直あまり美味しくない。

 杉山さんも美味しいとは言わないけど、杉山さんが奢ってくれるので、残すと悪いと思って、全て食べた。


 食事が終わってから、巨大なブランコや高く上がるエレベータのようなアトラクションに乗ったけど、午後4時を過ぎたところで、雨が降り出した事もあって、帰る事になった。


「さて、どうしようか。夕食にはまだ早いな」

「えっと、では、買い物に付き合って下さい」

 杉山さんの好みの服が、どんな物か分かるかもしれない。

 彼は、私の服を見立ててくれるだろうか?


「ダメですか」

「いや、そんなことはないよ、買い物はどこに行こうか」

「えっと、渋谷に行きたいです」

 渋谷って言ったけど、きっと、杉山さんには行きにくい場所だったかもしれない。

 水道橋から電車に乗って渋谷に行く。

 私たちは有名なテナントの入ったビルに入って行くけど、正直、周りは若い女の子だらけで、杉山さんには悪い事をした。

 彼は何だか、居場所がないようだ。


「杉山さん、どうですこれ?」

「あ、ああ、いいと思うよ」

 なんだか、どうでもいいような答え。

「ホントですかー?では試着してみます」

 とりあえず試着してみようかしら。折角、来たんだし。

 私は試着室に入って着替えてみるけど、なかなかいい感じだ。

 杉山さんはどう思うだろう。

 杉山さんの好みに合わないと言われたら、悲しくなってくる。


「どうですか?」

 そう言うと、スカートを持って、左右に身体を振ってみる。

 スカートを身体の振りに合わせて揺られせて見せると、女子力が高く見えるかな。

「ああ、いいね、着た時の方が、可愛らしく見える」

「ホントに、じゃこれにしようかな」

 値札を見ると15,800とある。

 大学生の私にすれば゛、結構な値段だけど、杉山さんが良いと言ってくれたから、購入決定ね。

 杉山さんを言い訳にしている自分がいる。


「すいません、これをお願いします」

 私は試着した服を店員に渡し、レジの方へ向かうと、彼も私の後を付いて来る。

 私が財布を取り出そうとしているところを杉山さんが手で制して、財布からクレジットカードを出した。

 私はその行為に驚いて、彼を見た。


「一回払いでよろしいでしょうか?」

「ええ、一回払いでお願いします」

 店員は手際よく、クレジットカードの決済をすると、彼にレシートを渡し、服を店名の書かれた紙袋に入れて、私に手渡してくれた。


 私たちって、店員からはどういう風に見られたのだろうか。

 父親と娘だろうか、それとも別の関係だろうか。

 そう思うけど、店員は気にかけた様子もなく、手際よく仕事をこなす。


 私が紙袋を受け取り、レジから離れたところで、杉山さんにお礼を言う。

「すいません、いろいろと散財させてしまって」

 遊園地の費用も杉山さんが支払わせてしまった。私が誘ったのに。

「気にすることはないさ。一応、働いているしね。それにお金は使ってナンボだ」

「でも、私が誘ったのに、杉山さんに払って貰うのは何だか悪い気がします。本来なら私が支払ってもいいのに」

「大学生にそれほど、お金があると思っていないさ」

「えっー、そこは『身体で返して貰う』って言うのが、オジサンのセリフじゃないんですか?」

 ちょっと意地悪してみたい。

「そんなセリフ誰から聞いたんだい」

「うちの父が言ってます」

 お父さんは今頃、くしゃみをしているかもしれない。


「あー、でも良かった。杉山さんから『身体で払え』って言われたら、どうしようかと思いました」

 うん、言われたら『口付け』ぐらいなら、払っても良かったのに。


 店を出るけど、降り出した雨は止む気配はない。

「傘を買わないといけないな」

 ふと、彼が呟く。

「そうですね、雨、止みそうにないですね」

 私も同じように言う。

 ちょうど、ビニール傘を売っている店があった。

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