ひとさじの勇気

カゲトモ

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「ふぅ」

 カウンターの隅でため息が零れた。座っているのはストレートの髪が印象的な女性だ。

「お疲れですか?」

「え?」

 少し戸惑ったような表情の彼女に、にっこりと微笑む。

「今日はいつもより笑顔が少なく見えたので」

「あー」

 分かっちゃいます? と彼女は視線を外して頬を人差し指で掻いた。先日のマリさんとはまるで違う。背中に背負っているオーラが暗くてどろどろしている。

「何かあったんですか?」

「あー・・・はい。何かあったんです」

「私でよければ、お話聞かせていただけませんか?」

 お力になれるとはお約束できませんが。と続けると、ジントニックを一口飲んで眉尻を下げた。

「実は、少し悩んでいて」

 耳に掛けた髪がさらりと揺れる。以前同じようにして悩んでいたのは、確かコンプレックスの背の高さだったと思う。すらりとモデルのようなスタイルの彼女は、大手貿易会社で働くサオリさんだ。

「この前の金曜日、職場の忘年会があったんですよ、少し早いんですけど」

「このシーズンの丁度いい日は、どこのお店も早くに埋まってしまいますからね」

「そうなんです、後輩が幹事頑張ってくれて、忘年会自体は楽しかったんですけど」

 忘年会自体は?

「その後、やっぱり二次会とかの流れになるじゃないですか。行けない人もいるから数は減りますけど」

「だいたいはそうですね」

「結局二次会には半分くらいの人が行って」

「はい」

「まぁそのカラオケも楽しかったんですよ」

「二次会はカラオケだったんですね」

「毎度の恒例ですから。それまではね、良かったんです」

 問題はその後で、とまで言った後サオリさんはぐてん、とカウンターに突っ伏した。

 とりあえず、サオリさんの言葉を待つ。ほんの少ししてから、その体勢のまま口を開いた。

「女子会が」

「女子会?」

 訊き返すと、サオリさんはバッと顔を上げた。その顔は、あれだ、情けない犬みたいな。

「こっちも恒例になっている、二次会の後の同部署の女子会があって」

「同部署の女子会」

「正確に言うと、同部署じゃない子もいるので、まぁつるんでる女子たちが集まってなんだかんだ話す会みたいな」

 あー、なるほど。

「そこがねー、問題なんですよねー」

「問題、ですか」

「そう。マスターだから言いますけど・・・正直面倒くさいんです」

 はぁ、とため息を零すと、ゴクゴクとグラスと煽る。

「ふはぁ、もうね、本当、女同士の意味のない話とか、愚痴とか、意味不明なマウンティングとか、本当、めっちゃめんどくさいねん」

「そうでしたか」

「はい、もうね女って言うのは自分とは違うものは拒否する癖に、他人よりも上に立ちたがる人種なんですよ」

 そういえばサオリさんは関西出身の人だった。

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